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即興短編集  作者: 花ゆき
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ふざけていないと君に好きと言えなかった

ふざけて好きと彼女に言うと、「そんなに調子のいいこと言ってると、いつか誰も信じてくれなくなるよ」と言われた。


重複投稿しています https://kakidashi.me/novels/745

「そんなに調子のいいこと言ってると、いつか誰も信じてくれなくなるよ」


 そう言った君の頬に手をやり、視線を合わせた。彼女は俺の視線に驚いているようだった。そうだろうね。彼女の濃茶の瞳に映る俺は真剣な顔をしていた。そんな顔、君の前ではできなかった。君は恋を疎んでいたから。それももう終わりだ。彼女をじっと見つめると、俺の真剣な顔に見入って、次第に居心地が悪そうにする。最終的に目を伏せた。


「本気で言ってるか、そうじゃないか。君には分からない?」


 彼女は声にならない声をこぼした。もどかしそうに言葉を探して、それでも言葉にならなくて彼女は口を閉じる。目には俺を気遣う色が浮かんでいた。誰よりも真摯に人と接する君だから、俺を傷つけたのではないかと思っているんだろう。


 お互い様なんだ。冗談のように彼女に好きと言って、本気にしてもらえず落ち込んだこともあった。けれど、それは俺が臆病だったからだ。彼女が恋を疎んでいるからという理由で、俺の臆病さを正当化していたのだから。だから、自分のことのように悲しまないで。


「私、榊くんっていつも軽い調子だったから、本気じゃないと思ってた」

「そうでもしないと好きって言えなかった」

「冗談って分かってても、ドキドキしてたよ。それが怖くて、あんなこと言ったんだ」

「うん。……俺はいつも調子のいいことばっかり言って、おどけてしまう。でも、君に言ったことは全部本当。臓の鼓動が煩くなるのも君だけ。君だけなんだ」


 彼女は眉を下げて、力なく笑った。


「ずるいなぁ。普段軽いのに、こんなギャップ見せられたら……もっとドキドキする」

「好きだよ」

「ずるい」

「好きだ。……信じてくれた?」

「信じた。信じたから、耳元で囁くのやめて。心臓に悪い」

「返事は?」


 彼女は尚も耳元で囁く俺を腹ただしそうに見て、ため息をついた。


「友達からなら」

「やった! 好きだ!」

「そうやってポンポン言うから軽くなるんだよ」

「全部本気だってば」


 彼女は無言で背中をポスポス叩いてきた。音でも分かるようにたいして痛くない。顔が崩れていくのを抑えきれない。きっとデレデレした顔をしているだろう。彼女の痛くない拳を感じながら、胸の温もりをかみしめた。

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