ふざけていないと君に好きと言えなかった
ふざけて好きと彼女に言うと、「そんなに調子のいいこと言ってると、いつか誰も信じてくれなくなるよ」と言われた。
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「そんなに調子のいいこと言ってると、いつか誰も信じてくれなくなるよ」
そう言った君の頬に手をやり、視線を合わせた。彼女は俺の視線に驚いているようだった。そうだろうね。彼女の濃茶の瞳に映る俺は真剣な顔をしていた。そんな顔、君の前ではできなかった。君は恋を疎んでいたから。それももう終わりだ。彼女をじっと見つめると、俺の真剣な顔に見入って、次第に居心地が悪そうにする。最終的に目を伏せた。
「本気で言ってるか、そうじゃないか。君には分からない?」
彼女は声にならない声をこぼした。もどかしそうに言葉を探して、それでも言葉にならなくて彼女は口を閉じる。目には俺を気遣う色が浮かんでいた。誰よりも真摯に人と接する君だから、俺を傷つけたのではないかと思っているんだろう。
お互い様なんだ。冗談のように彼女に好きと言って、本気にしてもらえず落ち込んだこともあった。けれど、それは俺が臆病だったからだ。彼女が恋を疎んでいるからという理由で、俺の臆病さを正当化していたのだから。だから、自分のことのように悲しまないで。
「私、榊くんっていつも軽い調子だったから、本気じゃないと思ってた」
「そうでもしないと好きって言えなかった」
「冗談って分かってても、ドキドキしてたよ。それが怖くて、あんなこと言ったんだ」
「うん。……俺はいつも調子のいいことばっかり言って、おどけてしまう。でも、君に言ったことは全部本当。臓の鼓動が煩くなるのも君だけ。君だけなんだ」
彼女は眉を下げて、力なく笑った。
「ずるいなぁ。普段軽いのに、こんなギャップ見せられたら……もっとドキドキする」
「好きだよ」
「ずるい」
「好きだ。……信じてくれた?」
「信じた。信じたから、耳元で囁くのやめて。心臓に悪い」
「返事は?」
彼女は尚も耳元で囁く俺を腹ただしそうに見て、ため息をついた。
「友達からなら」
「やった! 好きだ!」
「そうやってポンポン言うから軽くなるんだよ」
「全部本気だってば」
彼女は無言で背中をポスポス叩いてきた。音でも分かるようにたいして痛くない。顔が崩れていくのを抑えきれない。きっとデレデレした顔をしているだろう。彼女の痛くない拳を感じながら、胸の温もりをかみしめた。




