悪役令嬢を傍観します
最近、悪役令嬢というのが流行っているらしい。偶然にも私は乙女ゲーム世界に転生してしまったようだし、悪役令嬢を観察しようと思う。
お題:平和と悪役 制限時間:2時間
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最近、悪役令嬢というのが流行っているらしい。巷で流行している話はどれも悪役令嬢がざまぁみろと仕返しするものだった。偶然にも私は乙女ゲーム世界に転生してしまったようだし、悪役令嬢を観察しようと思う。
この乙女ゲーム世界は「あなたが私の王子様!?」という、ファンタジー王宮もの恋愛ゲームである。攻略対象は五人いて、その中から王子様を選ぶというものだ。町民でありながら、王子様を選ぶようお告げがあったヒロインアリシアは、王宮に引き取られる。アリシアはこれだと思う王子様の側について、情報操作をして、身だしなみを整え、学問も学び、敵勢力を潰すために時には毒を盛り、王子様を勝たせるのだ。このゲームはいわば暗躍ゲームである。昼は表の顔で高感度を上げ、夜は暗躍する。敵の王子と芽生えるルートもある、やりこみ系のゲームだ。
そんなアリシアに対抗するのが、悪役令嬢こと、王妃候補ユーリである。彼女は貴族特有の傲慢さで敵勢力を潰し、金の力でアリシアに立ちはだかるのだ。
ユーリは昼はセイン王子の元で彼に媚を売り、自身の美貌にも力を入れているようだった。また茶会も開き、仲間を着々と増やしていた。
夜パートになった。悪役令嬢が動き出した。私は侍女であるため、周りにとけこむのはわけない。アリシアもどうやら動き出したようだ。そう、終盤にあるアリシアVSユーリが今起ころうとしているのだ。私は特等席を陣取った。
ユーリは髪から髪飾りを引き抜き、アリシアに襲いかかる。彼女ははさっと左に避け、バランスをくずしたユーリの首に手刀を落とした。なんとも鮮やかである。
「見事な体さばきですねぇ」
「ああ。本当に」
はて? 今私が話したのは誰だろうか。隣を見ると、セイン王子がいた。
「ユーリも頑張ったと思うけど、アリシアがやっぱり上手だった」
ユーリの属する派閥。セイン王子、その人だった。ほがらかな性格をしているが、その瞳は本質を見抜く力に優れている。王は彼の力を見込み、内政を手伝わせているそうだ。その王子に、当たり前のように見つかってしまった。
「それで、本物のユーリ。君はいつまで遊んでいるのかな。偽物の相手も飽きたのだけれど」
私の本名はユーリ・カインベルだ。悪役令嬢は失脚すれば後がない。だから夢見がちな子を捕まえて、悪役令嬢になりすましてもらった。ルート、フラグと言っていたから、転生者なのは確実だ。だから適任と思ったのだ。私は傍観者になるつもりだった。それを、あっさり見破られてしまった。
「ユーリ、戦うんだ。アリシアに勝たなければ、僕らに光はない」
「えっ、無茶ですよ!」
「アリシアー! ここにユーリの本物がいるよ! そっちは偽物!」
「ちょっと、何言って」
ヒロインが拳握って特攻してきた!? 無理無理! こんなの……腕を掴んで相手の体に潜り込み、背負うようにして投げた。しまった。とっさに体が動いてしまった。なんたることだ。傍観するつもりだったのに。
「本物のユーリはおもしろいね。これからもよろしく頼むよ」
セイン王子の笑顔に詰んだのを感じた。
それから私は悪役令嬢としてアリシアと戦い、セイン王子の勢力を勝たせることができた。アリシアは偽物に油断したと悔しそうにしていた。大丈夫、私も本当は出てくるつもりがなかった。それよりも、今差し迫った問題があるのだ。
「ユーリ、ウエディングドレスは何にする?」
そう、王妃候補ということを忘れていたのだ。セイン王子が王になるのと同時に、結婚するはめになった。
「ユーリ、返事しないと勝手に選ぶよ。胸元があいたやつとか、足が出るやつとか」
「わぁぁぁあ! 王妃がそんなドレス着ちゃまずいでしょうが!」
「なら、ちゃんと選んでね」
笑顔に圧力を感じる。私はドレスを選ぶべく、デザインが描かれた紙を手にとった。
結果として、悪役令嬢はどこまでも悪役令嬢だと分かった。傍観失敗だ。しかし、なんだかんだでアリシアとの攻防を乗り越え、今や相棒のように思っている。幸せになれそうな、そんな予感がした。




