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即興短編集  作者: 花ゆき
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僕ばかり好きなんだね

「僕ばかり好きなんだね」そう言った彼氏に私は反撃を試みた。


重複投稿しています https://kakidashi.me/novels/680

「僕ばかり好きなんだね」

「何それ。どうしてそう思うの」

「紗綾から好きって聞いたことない」

「好きじゃないよ。彼女とのデート中に狩りゲームして、私放っておく彼氏なんか」

「いや、それはごめん! っ、やば! 紗綾クエスト手伝ってくれ」


 彼が楽しそうで始めた狩りゲーム。私が始めて、彼はすごく嬉しそうにしていた。狩りについて教えてくれたし、一緒にするのは楽しかった。けどさ、限度ってものがあると思う。


「嫌! 今せっかくデートしてるのに。絶賛放置されてるのに、どの口が言うのよ。私こそ言いたい。私ばっかり晴人のこと好きみたいじゃない」

「うっ……、ごめん。でも、今やっとボス出てきたんだ」


 携帯ゲームのボタンをカチャカチャ動かして、目は忙しなく画面を追う。ちっとも私のこと見てない。口ばっかりだ。


 もういい。それならそれで、私に考えがある。


 彼の腕の中に潜り込む。胡座をかいてゲームしていた彼は驚いたみたいだけど、ボス戦に集中している。それでいい。彼にもたれかかって、首筋にすりすりと頭をよせる。彼の腕がピクリと震えた。彼の腰に手を回して、ぎゅっと抱きつく。彼の匂いを吸い込んで、頬を緩める。


「あの、紗綾サン? 今、ボス戦中で……」


 知ってる。ちなみにさっきから攻撃が浅かったり、空振りしてるのも見てる。でも今回は晴人が悪い。こんなに放置しておきながら、「僕ばかり好きなんだね」はないと思う。そんなに不満なら言おうじゃないか。


「晴人、好き。大好き」


 耳元で晴人だけしか知らない声で言った。反応を見るために顔を見上げて見れば、あれっ? 無表情だ。彼の手元のゲームを見れば、ボスに致命傷をもらって死亡。タイトル画面まで戻ってしまっていた。


「お前は」


 あっ、時差で顔が赤くなった。効いたみたい。よかった。


「もうあんなこと言わない?」

「イイマセン」

「私のことは?」

「……好きです」

「うん、合格」


 彼の真っ赤な耳にキスをして、ゲームの続きをしていいよと言った。すると、あんなことされてできるわけないと抱きしめてきた。彼の体温にぎゅっと胸が締めつけられる思いをしながら、彼にもたれるように体から力を抜いた。


 ともかく、ゲームをやめさせよう作戦は成功したみたい。

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