君は昔からチョコミントアイスが好きだったよね
幼馴染みの和馬は言った。私のことを何でも知っているかのように。けれど私が本当はチョコミントアイスが嫌いだなんて彼は知らないだろう。
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「君は昔からチョコミントアイスが好きだったよね」
幼馴染みの和馬は言った。私のことを何でも知っているかのように。そう言って、中学生の頃の私達に戻そうとしているのだ。けれど、私はその頃を思い出すのは辛い。六年がかりの恋を諦めたのが中学生の頃だったから。
私はチョコミントアイスが好きじゃない。和馬の家に遊びに行った時、アイスを和馬のお母さんが出した。バニラとチョコミントアイスのどっちがいいか聞かれて、和馬は眉を下げた。私は知っていた。和馬がハッカのものを苦手としていることを。だから私はチョコミントアイスを選んだ。和馬はほっとしていた。私は正しいことをしたと思った。
それがいつからか、私用にチョコミントアイスを用意されるようになっていた。私は仕方ないなぁと思いながら食べていた。私だけの特権だと思っていたのだ。けれど、違った。
和馬は中学三年になって、背が伸び始めた。伸びるまでが遅く、私と並んだ背を悔しそうにしていた彼はもういない。和馬はいきなり女子に人気が出た。クラスの数人で、和馬の家で勉強しようという話になった。女子も来ると聞いて私も参加した。今まで和馬の家に女の子は私しか行ったことがなかった。だから、不安になったのだ。
勉強会の日、私より可愛く装ったクラスメイトの女子に私はげんなりしたものだ。私がはいているズボンはやっぱり駄目なのかもしれない。そんな劣等感に苛まれながら、勉強をした。休憩中にアイスが出された。私はチョコミントアイスをとろうとした。しかし、クラスメイトの子がほしいと言って、彼女に渡った。私だけの特別が消えた。こうやって、私から和馬との特別が減っていくのだろうと実感した。
それから、彼女が和馬に告白したらしいと知った。私は結果も何も知りたくなかった。ずっと好きだったのに、臆病さゆえに恋を諦めた。
あれから私は大学生になった。和馬と偶然同じ学部になって再会した。あの時言えなかったセリフを今、言おう。
「私、チョコミントアイス好きじゃないよ」
「そうか……。うん、知ってたよ。だから今のは確認なんだ」
「何の」
私は彼の要領を得ない発言に顔をしかめた。和馬はそんな私に相変わらず何考えているか分かりやすいねと笑った。彼だけは私の変わらない部分をすぐに見抜いてしまうらしい。ムッとする反面、少し嬉しいと思ってしまった。まったく、六年も恋をしてたせいだ。今や、ただの古馴染みでしかないのに。
「チョコミントアイスを好きだよって言ったら、まだ僕のこと好きでいてくれるかなって」
「何それ。自惚れすぎ」
「君がチョコミントアイスを食べるたびに、これは僕のためなんだって、毎回安心してたのを知らないだろう」
「知らない。何それ、歪んでる」
彼の不可解な言葉に、思わずカバンをぎゅっと自分に引き寄せる。和馬はあの頃より深みのある笑顔をして、こちらに詰め寄ってくる。
「チョコミントアイス、たかが一つで君を繋いでる気になってた。でも僕が馬鹿だったよ。高校は上手く逃げられた。だから今回は慎重に大学を一緒にした」
じりじりと寄ってくる彼を避けるように、私も下がっていく。壁が背についた。彼が逃げられないように私を手で囲う。
「緑、君は綺麗になったよ」
そうやって笑う彼こそ、綺麗なのに。中学生の頃は中性的だったのに、男らしくなっている。筋張った手が私の頬を撫でる。
「緑、君は今でもチョコミントアイスを食べてくれる?」
肌がぞくりと震える。チョコミントアイスはあの日から食べていない。
「ほら、緑。あーんして?」
何故か彼はカバンにチョコミントアイスを入れていた。それを取り出し、私の口元に近づける。
私はチョコミントアイスなんて好きじゃない。彼をうかがうと、欲に揺らめいた瞳で私を見ていた。あの頃とは違う、色欲のからんだ目。
私はチョコミントアイスが好きじゃない。けれど、未だにチョコミントアイスが食べれないくらい彼のことを引きずっていて、やっぱり彼が好きなのだ。だから私は、彼の手からアイスを食べた。
彼は私を手に入れた喜びに満ちた顔をしていた。私に確認するように、二口目、三口目とアイスを口元に運ぶ。私はそれを全て平らげた。久々のチョコミントアイスはさっぱりして、甘い。
「和馬。私やっぱりチョコミントアイスが好きみたい」
チョコミントアイスは私にとって恋の味、そのものだった。




