私の恋心を贈ります
彼女と小説を貸し借りするような仲になった。ある日、小説の最後にはさまれた手紙を見つける。
彼女は読書家だった。読書好きなだけあって、好きな本の話になると、目を輝かせていた。そんな顔をもっと見たくて、気がつけば自分も本を読むようになっていた。彼女が好むのは純文学だった。彼女は僕に影響されて、ライトノベルを読むようになった。次第に、お互いに本を貸し借りする仲になっていった。
ある日、彼女が貸してくれた小説にラブレターを書く場面があった。ヒロインがLINEでもなく、メールでもなく、手紙を書いて主人公に渡すのだ。ふと、この本を貸してくれた彼女もラブレターを書いたことがあるのだろうかと思った。彼女のことだから言葉を尽くして、分厚いラブレターになりそうだ。想像が容易くて、思わずクスリと笑った。読み終わった時、小説の最後に封筒がはさまれていることに気づいた。宛名は僕だった。ずっしりとした重みのある封筒で、小説を読んだばかりの僕はドキドキしながら開封した。
文頭に「私の恋心を贈ります」と書いてあった。その一文を見て、彼女がわざわざこの小説を選んでラブレターを入れたのだろうと気づいた。彼女の手紙には僕に対する気持ちが切々とつづられていた。手紙が一枚一枚とずっしり重いような、踊り出したいような気分になる。彼女の手紙には、何回も消しゴムで消しただろう跡があった。便せんは清潔感のあるレースのもので、彼女らしいと思った。僕もその頃には彼女を好きになっていたから、彼女に返事をしたい、想いを伝えたいと思った。便せんなんて持っていない僕は、ルーズリーフを出して一生懸命書いた。
翌日、小説に僕が書いた手紙を入れて返した。彼女は何の返事もないことに肩を落としていたが、最後のページに気づく。こちらを伺うように見てから、恐る恐る手紙を開けた。本人がいる前で手紙を読まれるのは、何だかこそばゆい気分になる。読み終わった彼女は目を潤ませて、花がほころぶかのように笑った。僕は照れくさくて、鼻の下をかいた。
「あのさ、今日から一緒に帰ろう」
今日の台詞お題は「私の恋心を贈ります」です。作中に小説を出しましょう。 http://shindanmaker.com/437994
こちらから書きました。




