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即興短編集  作者: 花ゆき
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名前を呼んで

「昼のプラネタリウム」で登場人物が「くすぐる」、「林檎」という単語を使ったお話を考えて下さい。 #rendai http://shindanmaker.com/28927


文化祭の資料にするため、プラネタリウムに私と彼は行くことになった。そこで中学生だった頃とは違う彼を実感する。

 私のクラスが文化祭でする出し物は喫茶店で、星空がテーマである。そのため文化祭実行委員の高倉と、同じく文化祭実行委員の私は昼のプラネタリウムに行くことになった。休日に待ち合わせをして、プラネタリウムに入った。


 プラネタリウムでは神話の話と星座が語られていて、興味深いものだった。自分の星座の形を知ったことで、喫茶に星座を展示するのもいいなと考えた。ふと、高倉はどう思っているのだろうと隣の席をうかがう。うっすら暗い中で、彼の喉仏が視界に強く入ってきた。


 高倉とは同じ中学校出身だ。その頃は今よりも高い声で、喉仏もなかった。だから隣の席に座るのだってこんなに緊張しなかったのに、今では隣で彼が身動きするだけで緊張する。彼はアダムのように林檎を喉につまらせて、声が低くなった。身体つきだって、男らしくなっている。知らない男みたいで、なんだか落ち着かない。中学校では沢山話してたのが、嘘みたいだ。


「なぁ、世田谷」


 高倉が天井を見つめながら、小声で呟いた。


「中学校の時みたいに、葵って呼んでもいいか」

「どうしたの、急に」

「お前、中学校卒業した時に言ってたじゃないか。高校生になったら彼氏作って、彼氏に名前呼んでもらいたいから、もう呼んじゃ駄目だって」


 そんなこと、すっかり忘れていた。だから高校で急に名字呼びになったのか。勝手に寂しいと思っていた。


「だから、お前のこと名前で呼びたい」


 耳元で、記憶よりも低くなった声が葵と呼ぶ。その声にどうしょうもなく胸がくすぐられた。どうしても今、彼の名前を呼びたかった。ほとんど声になっていない小さな声で、久々に彼の名前を呼ぶ。


「隆二」


 彼はうんと返事して、手すりの上においていた私の手に、自らの手を重ねてきた。私は触れる手の感触に逃げたくなって、でも逃げたくなくて。手のひらを返して指を絡めた。きっと顔が林檎のように真っ赤になっているだろうから、薄暗いプラネタリウムでよかったと思った。

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