飴と鞭
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彼女の喜びに頬を染まった顔を、絶望に落とすのが好きだ。彼女の中が僕だけで埋め尽くされるといい。そんな彼の歪んだ話。
「好きです。……嘘、嫌いだよ」
喜びに頬を染めた顔を一瞬で絶望に落とす。この顔がたまらなく好きだ。彼女は顔をくしゃっと歪めて、唇を噛みしめる。それでも唇がふるふると震えて、とうとう彼女は大声をあげて泣き出してしまった。あぁ、もっと泣かないかな。彼女の中が僕だけで埋め尽くされるといい。
「緑くんの意地悪! いつまで彼女(仮)なの!?」
「いいじゃん、(仮)。他とは違う、特別だよ」
「彼女に本採用されたいのに」
ふぅん……と相槌をうって、彼女の腕を掴む。
「じゃあ、僕に貢いでくれるの?」
「そんな……、私まだ学生だし」
「それなら、身体だけの関係になる?」
手首から腕の内側をつつっとなぞると、彼女は身体を震わせて、後ずさった。
「それはまだ早いというか……。身体だけじゃ嫌だよ」
「ふーん。それでもいいって言ってくる人いるのにな」
彼女は肩をビクッと揺らし、顔をぐしゃりと歪めた。嫉妬にかられた顔をしている。いつだって彼女の傷つく顔が一番いい。自分から掴んだ腕を離す。
「またね」
「やだっ、彼女(仮)でいいから、捨てないでっ!」
すがりついてくる彼女の頭を撫でて、左耳に囁く。
「いい子にしてたらね」
こくんこくんと頷く彼女を見て、えらいねと言って彼女とのデートを終えた。彼女が好きだからこそ、僕の言葉でふりまわされる彼女が見たくて意地悪をしている。けれど、それもさじ加減が必要だ。鞭と飴ってうまく言ったものだよね。明日はうんと甘やかそうと決める。彼女の喜ぶ姿が目に浮かんで、つい笑みをこぼした。




