元奴隷中年、現在はパパ
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奴隷である俺は、ある日兎の獣人である幼い女の子に買われた。
まじめに日々積み重ねてきた自分が、まさか連帯保証人にされているとは思わず、気がつけば奴隷として売り物になっていた。まだ俺が若いのなら買い手もつくだろうか、すでに三十半ば。厳しいものがあった。奴隷として買われていくのは、若い者・見目が麗しい者・なんらかの芸に秀でた者である。俺には一般教養という、あって当たり前のものしかなかった。値もこの中で俺が一番安いだろう。
兎の獣人である幼い女の子が店に入ってきた。場違いのように、彼女だけ異質だった。彼女は店内の奴隷を見渡す。しかし、俺がいる場所はいわば売れ残り広場。どうせ売れないだろうと高をくくっていた。
「なぁ、オフクロ。今日の飯何?」
「オフクロ言うな。今日は鮭のムニエルだ」
「ひゅー、オフクロ流石」
この奴隷販売店は移動しながら売っているのだが、力自慢でもない俺は移動販売の手伝いに向かない。あまりに売れ残っているのが申し訳なくなった俺は、新人の面倒と家事を手伝うようになった。そのせいか“オフクロ”と呼ばれるようになってしまったが。
気がつけば、俺の檻の前でザッと踏みしめる音がした。彼女が混じり気のない白髪を揺らし、冷めた赤い瞳で俺を見下ろしていた。
「この人にします」
「この奴隷はもう若くないし、あまりおすすめしないぜ? 代わりに安くしておくが」
「ありがとうございます」
まさか買われるなんて思いもしなかった。
「おめでと、オフクロ」
「やっと買われたな、オフクロ!」
買われた喜び以上に、気性の激しい獣人に買われたことで、いつ殺されてもおかしくないと不安になった。
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まさか、それから主夫になるとは思わなかったよな。
「ご飯まだ~?」
「あーはいはい、すぐ出来るから大人しく待ってろ」
あの日、兎の獣人といえども気性の激しい獣人に買われた俺は、どうなってもおかしくないと思っていた。引き裂かれる運命なのかもしれないと、スプラッタな自分の未来を想像していた。しかし、彼女はこう言った。
「あたしのパパになって」
それから奇妙な生活は続いている。奴隷として買われておきながら、パパとして生きる日々は暖かいものだった。
「どうして俺を買ったんだ?」
「あたしは、獣人といっても所詮草食の獣人だから、自分で身を守ることができない。獣人からは兎の獣人だからと侮られ、人からは獣人だからと恐れられる。だから、私でも何とかなりそうな平凡な男にしたかったの。あと、この成りだと自作の薬売る時に、ガキだって舐められるのよ」
パパになって数年経った今でも、彼女は少ししか成長していない。兎の獣人であるため、成長がゆるやかなようだ。
「だから保護者がほしかった。ついでにあたしは薬の調合以外はからっきし。でも、パパはあの場所で“オフクロ”って言われてたでしょ?」
「ああ、あれな。売れ残りすぎて、いつの間にか古株になってたんだよな。大して役にも立てないから、家事手伝ったり、新人の面倒見てたらああ言われるようになったんだ」
「だから、お買い得だと思ったんだよねー」
ニマッと笑う彼女は、成人しても小さいままだ。持ち前の跳躍力で、俺の背中に飛び乗ってくる。
「さてさて、出発進行~! 薬売りさばくよ!」
「あいよ」
元奴隷、現在はパパ。こんな関係も悪くない。




