お前のもらったチョコなど、こうしてくれるわ!
お題:汚い独裁者 必須要素:白トリュフ
バレンタインを憎む男によって行われる悪とは。
「バレンタインが憎い! お前のもらったチョコなど、こうしてくれるわ!」
突然、高校生男子が十字路を通って学校から帰っていたら、バレンタインチョコを奪われた。変な仮面とマントをつけた男が、素早い手さばきでチョコを変えていく。
「お前のチョコなど、これで十分だ」
仮面男が差し出したチョコは、白いトリュフへと姿を変えていた。チョコを奪われた高校生男子はあっけにとられている。
「なんてことだ! せっかくのバレンタインチョコを白く、しかも跡形もなくしてしまうなんて! なんて外道だ!」
棒読みで外野から声が上がった。
「私なら、一生懸命作ったチョコをああされてしまったら、泣いてしまうわ!」
また棒読みで外野から声があがった。わざとらしく涙を拭う仕草までしている。
そんな声が上がるなか、チョコを変えられた高校生男子は恐る恐るチョコを食べた。一口食べると、甘いホワイトチョコの味が口の中にとろけて広がる。仮面男のチョコは素晴らしい出来だった。
「おいしい。恵美の毎年作ってくれるチョコが霞むようだ」
高校生男子はチョコを奪われた挙句変えられたのに、なぜか仮面男を感謝の目で見ている。
「ありがとう。毎年本命の実験台として作られる、義理チョコという名の物体Xをもう食べなくていいようにしてくれたんだな」
高校生男子は仮面男に感謝の意を込めて手を強く握り、立ち去った。
「な、なぜ感謝されるのだ!? 悪の限りをつくしているというのに」
戸惑う仮面男に、話しかける声があった。わざとらしい棒読みだった外野だ。
「すいません、もう定時過ぎたんで帰っていいですか?」
「ああ、よかろう」
もう一人、声をかけてきた。こちらは涙を拭う仕草までしてみせた外野だ。
「残業手当でますか?」
「うむ、出る」
「分かりました。外野待機します」
仮面男は自らの悪をつらぬくために、通りがかる男がチョコをもっていないか、十字路の張り込みを続けた。




