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即興短編集  作者: 花ゆき
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眠りにつく前に

3つの恋のお題:眠りにつく前に/信じたい、でも、信じられない/覚悟は出来ている http://shindanmaker.com/125562


風邪をひいた私を、腐れ縁の彼が寝かしつけようとしている。熱まで出てしまったのは彼のせいなのに。

 熱が出た身体は重くベッドに沈む。私を彼が見下ろしている。呆れたような顔をして、憎たらしい。


「お前、バカは風邪引かないんじゃなかったのか」

「うるさい。あんたのせいだってば」

「お? なんだなんだ? 寝る前に言ってみろ」

「私はあんたが好き」


 手早く振られてしまおうと思って、想いを口にした。この風邪は、彼のことを熱を出すまで悩んだことが原因のようだった。私は悩みに悩みぬいて、ようやく気づいた。彼は私をただの腐れ縁としか思っていない。だから、振られるのも分かっていた。


「覚悟はできてるから、さっさと振りなさいよ」

「俺も好きだぞー。さっさと寝ろ」


 彼の大きな手が、乱雑に私の髪をなでた。手から伝わる体温にドキリとするが、今彼が話したことが一瞬で理解できなかった。


「ちょ、え、何?」

「布団は肩までかけような」


 丁寧に肩まで布団をかけてくれるが、私が今聞きたいのはその言葉じゃない。


「ありがと。じゃなくて、え? 寝て起きたら嘘でしたとかないよね?」

「ドッキリ大成功~ってか? ないから寝ろ。早く治せ。んで、ま、デートしよう」


 とびっきり軽い言葉だったけれども、私の熱で火照った身体を更に熱くした。腐れ縁な私達だから、臭い言葉なんていらないのかもしれない。


「わぁ……嬉しすぎて寝られない。ね、どんな顔で言ったの? 顔見せて見せて」

「だー、もう! 病人は大人しくしてろ!」


 顔を覗こうとしたら、布団を頭まで被せられました。もう、けち。布団の中、ほかほかと暖かい胸にクスリと口が緩む。布団の中の暗闇につられて、まぶたがだんだん重くなっていく。今日は安らかな気持ちで寝られそうだと思った。

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