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即興短編集  作者: 花ゆき
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彼にうつる熱

お題は『「仕方なく、指を握り締める」キーワードは「冬」』です。 http://shindanmaker.com/38363



学校から彼と一緒に帰る私は、彼と手を繋ぎたくて仕方ない。

 冬、手足が冷える季節ですね。そこで、人間湯たんぽとも言われる私の出番ですよ。『手冷たくない? 暖めてあげようか?』これでばっちりです。いや、そんな度胸があったら、学校からもう10分もたってませんって。


 帰り道を進むほど日が暮れていって、寒さに肌がぴりっとします。彼の手は指先が赤くなって、寒そうです。手を繋ぎたい。それだけで、こんなに臆病になってしまうなんて予想もしませんでした。えっ、腹でも痛いのかって? あんまり悩んでいたものだから、彼に心配されてしまいました。


「やだなぁ、私はすこぶる健康体です! なんなら、健康体操踊りますよ!」


 健康体操の最初にある深呼吸をしていると、彼に止められました。あ、はい。元気なのは分かったから踊らないでくれ、ですか。分かりました。


「それで何を悩んでるの?」

「えっとですね」


 小さくこぼした声を拾おうと、彼が耳を私に傾けます。無防備な彼の手のひらに触れ、指先に手をすべらせました。指先をそっと握ります。私に耳を傾けたまま、彼が固まりました。


「ちょうどいいですから、よーく聞いてくださいね。手を繋ぎたかったんです。それだけです」


 きゅっと指先を握りしめて、顔を彼から見えないように隠します。頭上から、彼のため息が聞こえました。そんなことで何分も悩んでたのかって、飽きられたでしょうか。


「ご、ごめんなさい」

「何が?」


 思わず謝ると、彼は何のことか分かっていないように聞いてきました。あれ、おかしいです。


「私に呆れたんじゃないんですか?」


 彼はきょとんと、目を瞬かせました。そして、目尻を下げて、柔らかく笑います。


「違うよ。この可愛い生き物、どうしてくれようって思っただけ」


 そう彼は言いました。難聴ですかね? あっ、飼い猫のこと考えてたのかもしれません。ふふ、今度私も触らせてもらいましょう。


「君が何考えてるか、透けるように分かるよ。今は君のことしか考えてないから」


 彼が呆れたように言いました。あ、あれ? おかしいですね。透視でもされてるのでしょうか。恥ずかしいです。


「どうせなら指先じゃなくて、こうやって手を繋ごうよ」


 彼は指先の手を離して、私の手を握り込みました。皮が厚くて、私の手を包み込むような大きい手です。私の手から、彼に熱がうつっていきました。本当はこうしたかったんです。嬉しいです。


「暖かいね」

「はい、暖かいです」


 私は心の底からにっこりと笑いました。


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