スカウトマンは、勧誘する。
ーーーそれからさらに、数十年。
かつて魔王が世界統一したという事実を知る者も少なくなり、徐々に歴史の闇に葬られた後。
そもそも『勇者オメガ』の功績を取り戻す目的で始まった〝勇者の祭典〟は継続された。
しかし、炎の聖剣【レーヴァテイン】を手に出来る者は現れない。
やがて各国が権勢を競い合う大会になると『優勝者が聖剣を手に出来ない』というのが威信に関わる、ということでミシーダの街に安置されることになる。
が、その前に魔の国への『聖架軍再侵攻』によって、レーヴァテインの噂を確かめに前線に出たフィーアが負傷。
その功績を以て、元勇者パーティーの魔道士フィスモールが昇格後ミシーダの街に派遣される、などの不測の事態は幾つかあったものの、概ね平和に時は流れた。
他に『勇者を探すため』という名目でイフドゥアとなったイストが提案した『神託』の機構は、ギルドが運営する各地の冒険者養成学校に敷かれることになり、その神託の信頼性を保つための調査団が作られた。
神託など嘘っぱちだ。
地道に、調査員達が素質ある者を調べ、スカウトしているだけなのである。
勇者、というよりも『神器を操る素質』を持つ者を……ひいては〝修羅〟という存在を、神聖都市ナムアミの上層部に不審がられずに調べることが可能になった。
そして、ある年の〝勇者の祭典〟にて。
ーーーイストは、背筋が怖気立つほどの才能に出会った。
「……なんだ、アレは」
周りの奴らは、誰も気づいていない。
匂い、というには、あまりにも強烈な才能の香り。
今まで全く嗅いだこともないものだったが、不愉快な感じは全くしない。
あえて言うのなら、水、あるいは氷の匂い。
どこまでも澄んだ、静かな香りであるにも関わらず……まるで溺れるかのように錯覚するほどの息苦しさを、イストは覚えた。
その香りを放っているのは、なんの変哲もない少年。
大会の参加者ではない。
彼はおそらくまだ、10の歳にも届いていない。
親らしき人物と、雑踏の中で屋台のフランクフルトをねだる同世代の少女と手を繋いでいたからだ。
銀の髪を持つ彼女は、オメガやカイに似た、強い勇者の香りを漂わせている。
だが、それが霞むほど、なんの変哲も無い黒髪の少年の香りは強烈だった。
ーーーアレが〝修羅〟だ。
イストは、そう直感した。
人の身でありながら、明らかに人を超える存在である、と分かる。
身の内に秘めた魔力の総量もおそらくは桁違いだろう。
イストは、道の脇で立ち尽くし、大きく目を見開いて唾を呑んだ後。
ーーーニィ、と笑みを浮かべる。
ついに、見つけたのだ。
するとそこで、ニコニコとフランクフルトを食べ尽くした少女が少年に向かって手を差し出す。
「のいる! おかわりがほしいのよ!」
「自分の分は食べたでしょ? ソプラ」
「わたちがほしいってゆってるのよ!」
「ダメだよー。俺のだもん」
ーーーノイルと、ソプラ。
その名を頭に刻み込んだイストは、【風の宝珠】を発展開発したと言う【賢者の板】を取り出して通信をつなぐ。
「……ツヴァイ」
『どうしたんだい? イスト』
「今すぐ、王都に来い」
常にない早口で、イストは彼女に伝える。
「〝修羅〟を、見つけたーーー」
※※※
「ーーーという事情で、俺たちはお前さんたちと知り合ったってわけだ」
今まで起こったこと、全てを話し終えたイストは、パン、と手を叩いて目の前の青年を見る。
「そんなに前から、だったんですね……」
「ああ」
冒険者養成学校を卒業し、フィーアの次に魔王に就任したツヴァイのスカウトを受けた『闇の勇者』。
魔王の宝具の一つである双極の剣【イクスキャリバー】を持つ彼の横には、炎の聖剣【レーヴァテイン】を所持する少女がいる。
冒険者となった後、ミシーダの街を訪れた彼らはちょっとしたイザコザに巻き込まれた。
魔王の宝具に魂を侵されていたフィスモールが、魔性と化して暴れ回ったのを、イストと彼は協力して倒したのだ。
その後始末をひとまず終えて、長い事情説明をする内にすっかり夜も更けた。
「邪神……ですか」
「そう。そいつに対抗できる奴らを探して、ようやく見つけたのがお前さんたちだ」
修羅の少年と、彼を気に入り、闇の勇者として見出したツヴァイ。
そして、少年の幼馴染みである勇者の少女。
後は、彼らが力を蓄え、ツヴァイが魔王の力を集め終えれば、邪神に操られているだろう聖女アルファの元へ赴くだけである。
彼らの望む功績など、そもそも魔王政府が基本となっている冒険者ギルドに働きかければ与えるのも容易い。
「協力してくれないか? ノイル・オロチ。そして、ソプラ・リン……ツヴァイを含むお前さんたちが、邪神に対抗する〝竜の絆〟の持ち主だ」
イフドゥアの変装を解き、人間の姿に戻ったイストは、テーブル越しに彼らに手を差し出す。
「ーーー君たちを、スカウトしたい。世界を平和のままに保つために」
Fin
これにて、スカウトマンは完結です。
同時進行で時系列的に続編に当たる作品↓
『全ての剣技を操る〝修羅〟の適性を得た俺は、魔王に見出され闇の勇者として好き勝手に成り上がる。全ては、幼馴染みの少女のために。』
↑は、目次下、あるいは各話下部のリンクから飛べます(๑╹ω╹๑ )
よろしければ、今作へのご評価もお願いいたしますヾ(๑╹◡╹)ノ"
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!!




