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パーティーどころかギルドを追放されたので、次の仕事は魔法嫌いな四姉妹の魔法の先生をすることにしました。  作者: 春野
第二章 新生ファミリア始動!

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99.新しいファミリア

今回のお話はサンズさんとカタリナさん中心の三人称となっています。

 夕暮れから少しして、空が藍色になってきた頃。

 ギルド・アポロンのマスターの部屋で、サンズが執務を行っていた。

 王城へ提出しなければならない書類にペンを走らせながら、視界の端にちらと映った用紙を見る。先ほど、クロエから渡されたものだった。


 これも一緒に明日、王城へ届けようと思っていると不意に扉がノックされた。

 おそらく、調査のために早朝から出かけていたカタリナが戻って来たのだろう。


「マスター、カタリナです。例の件を報告しに来ました」

「入ってくれ」

「失礼します」


 扉が開いて、美しい長い赤髪のカタリナが入ってくる。

 馬で二時間ほどかかる街、アムレへ日帰りで行っていたはずなのに、その表情は凛と澄まされていて疲労の色は見受けられなかった。

 綺麗な整った仕草でカタリナが執務机の前にやって来る。


「ご苦労。報告は明日でも構わなかったんだが」

「いえ、お気になさらず。今は街道も整備されて以前よりも移動に負担はかかりませんので」

「……そうか。なら、聞かせもらおうか」

「はい」


 カタリナが訪れたのは、王都から南へ延びる街道に面しているアムレという街で、規模はそれほど大きくはない。

 人口も王都に比べると少ないものだが、決してさびれているわけではなくむしろ活気に溢れている。街道が王都と南にある王国第二の都市と呼ばれている街とをつなぐものなので、南から王都へやって来る人の中継地点として人の出入りは多いのだ。


 そしてカタリナがアムレを訪れた理由だが。


「まず、昨日もまた一人、10歳の少女が攫われたとのことです」

「またか……」

「はい。およそ二週間前に一人目の少女が消えてから、これで8人目となります」


 アムルの街では少女が消える(攫われる)という事件が発生していた。

 現在のところ、犯人に関する手がかりはなし。犯行の動機も不明。アムレの警備隊やギルドの冒険者が調査を進めているとのことで、王都へは正式な依頼は届いていない。

 だが、いずれは王都のギルドへも依頼がやって来るのは間違いない。

 現状を確認すべく、サンズは何度かアムレへと冒険者に調査へ赴いてもらっていた。


「警備の者やアムレの冒険者も、特に手掛かりや進展があったとは」

「そうか。悪いが明日も誰かアムレへ向かわせてくれ。状況の把握をしておきたい」

「かしこまりました。私のほうで選別しておきます」

「よろしく頼む」

 

 一人目が連れ去られてから二週間ほど。

 生存していると信じたいが、どうだろうか。

 犯人の目的も規模もわからない以上、想像することしかできない。ここまで大きな誘拐事件は、最近は起きていなかったのだが……。


 と、報告が終わったにも関わらずカタリナが目の前に立ったままであることにサンズは気づいた。

 いつもなら報告が終わればすぐに帰るのだが、とサンズは不思議に思う。


「マスター。話は変わりますが」

「ん?」

「先ほどクロエを見かけたのですが、何か用事が?」

「あぁ、ファミリアの名前をね」

「そういえば、まだ決まっていませんでしたね」

「今日が期限だったんだが、夕方まで来なかったからどうしようかと思っていたよ」


 苦笑するサンズ。

 実を言うと、前日にクロエが四姉妹に相談して、みんなでファミリアの名前を考えることになったのがだが一日では決まらず、揉めに揉めた結果今日の午後の指導を急遽中止にして、ギリギリ決まったのである。

 ……サンズが知る由もないが。


「それで、決まったんですか?」

「あぁ」

「へぇ、どのような」

「——クローバーズ、だそうだ」

「クローバー……あぁ、四つ葉ですか」


 ふむ、とカタリナがあごに手を添えて考える。


「しかし、それではクロエが含まれていないのでは?」

「私も同じことを思ったよ。けど、クロエ君がみんなで決めて気に入っているから、と」

「みんなで、ですか」


 五つ葉は見たことがないな、とカタリナは思うが、クロエが良いといっているのなら構わないのだろう。

 もしくは、クロエのことだ。何かカタリナたちにはわからないことを考えているのかもしれない。


「そういえば、お嬢様たちはあれからきちんとクロエから指導を受けているらしいですね」

「私も直接見たわけではなくティナから聞いただけだが、そのようだ」

「正直、意外でした。あのような経緯があれど素直に魔法を使うようになるとは」

「アリエルがどうかは疑っているがね」

「ははっ、アリエルお嬢様は素直じゃないですからね」


 はぁ、とサンズは大きく息を吐き出す。


「クロエ君には迷惑をかけるよ」

「クロエに任せておけば大丈夫でしょう。他のお嬢様方は心を開いているようでしたから」

「そうだね。……まぁ、私は娘たちに随分と嫌われてしまっているから、余計なことは言わないほうがいいかな」

「そんなことは」

「ありがとう。だけど、自分でもわかっているんだ。仕方ない」


 自嘲するように言って、悲し気に笑うサンズ。

 それから暗くなった窓の外を眺めてポツリと零した。

 

「……あれからもう五年か」

「……早いものです」

「あぁ」


 窓の外から視線を室内へと戻す。

 なんだか部屋の空気がしんみりとしてしまっていた。

 カタリナに気を遣わせてしまったことを反省しつつ、努めて明るく言う。


「今日はこのくらいにしておこうか。帰ってゆっくりしてくれ」

「そう、ですね。ありがとうございます」

「明日からも頼むよ、カタリナ」

「はい」


 失礼します、と頭を下げてカタリナが部屋を出ていく。

 一人になり、サンズはクロエが提出した用紙にもう一度目を落とした。


(もう少ししたら、あの子たちにも何か依頼を頼まないとね)

お読みいただきありがとうございます。

クロエたちのファミリアの名前が決定です。

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