91.四姉妹のお願い
ジャスミンさんに続いてダイニングへ入ると、すでに四姉妹がそれぞれ席に着いていた。
「やぁ、クロエ」
「ちっ、遅ぇんだよ」
シラユキさんとアリエルさん、そしてベルさんは小さくコクッと頷いて、三者三葉で迎え入れてくれる。
「行こ、クロエ?」
ジャスミンさんに言われて、私はダイニングを見渡す。
長いテーブルの左側の奥からシラユキさんとベルさん。右側にジャスミンさんとアリエルさんが座っている。私の席は、と探すと、シラユキさんとベルさんの間のイスが空席になっていた。
もしかして、私はそこに座れってこと……?
たしかに、以前まではシラユキさんの隣で食事をすることが多かったけど、本当に私があそこでいいんだろうか。
だって左右にシラユキさんとベルさん、前にジャスミンさんとアリエルさんのど真ん中である。
私がその場所でいいの?
誕生日席じゃなくて?
なんて考えていると、入り口付近で立ち尽くしている私に怪訝そうな表情を向けて、シラユキさんが首をかしげた。
「クロエ、どうしたんだい?」
「あの、私の席って」
「クロエの席? そんなの決まってるじゃないか」
何を今更言っているんだい? と不思議そうに言って、シラユキさんは空いている隣の席へちらと視線を向ける。
「ここに決まってるじゃないか。今までもそうだっただろう」
「そうでしたけど」
どうやら本当に私の席は姉妹のど真ん中であるあの席らしい。
アリエルさんが舌打ち混じりに言う。
「いいからさっさと座れよボケ。こっちは腹が減ってんだよ」
「アーちゃん、口悪い~」
「あぁん? あいつがいつまでもボケっと突っ立てんのが悪いだろ」
ふんっと鼻を鳴らしたアリエルさんに、隣に座っているジャスミンさんは苦笑する。
シラユキさんが改めて私を手招きしてくれた。
「遠慮なんてしなくていい。さ、おいで?」
「クロエも……い、一緒に食べよ……?」
ベルさんにも促され、私は姉妹の真ん中の空席に移動した。
まさか四姉妹に囲まれて食事をすることになるとは。来たばかりの時は、それぞれが好き勝手に行動していた四姉妹だから考えられなかった光景だ。
ファミリアとなった効果、なのだろうか。
……しかし、こうして見るとやっぱり四人は姉妹だなって思う。
美しい銀糸の髪、整った顔立ち、雰囲気。
この四姉妹の真ん中で夕飯を食べられるなら、お城の一つや二つくらい贈るという人がいそうだ。もしもこれが外食だったら、周りにいる男性客から恨めしい視線を向けられそうだった。
手際よく夕飯をテーブルに並べていくティナさんにお礼を言いつつ、四姉妹のことを眺めていると、
「クロエ」
シラユキさんに名前を呼ばれて顔を向ける。
当たり前だけど、やっぱりシラユキさんはお姉さんということもあって大人びている印象だ。唯一の年上ということもあって、その顔でじっと見つめられるとドキッとしてしまう。
「食事の前に一つ、ボクたちから提案があるんだけど」
「は、はい。なんでしょう」
提案、か。
明日からの魔法の指導についての何か、だろうか。
ボク「たち」と言っているから、シラユキさん個人ではなく、四人に関係することだとは思うけど。
「呼び方を変えてもらえないかな」
「呼び方?」
「あぁ。クロエは今までずっと、ボクたちのことを『様』と付けて呼んでいるだろう?」
「それは、そうですね」
シラユキさんの言う通り、私は口に出すときは必ず「様」と呼んでいる。
私がサンズさんに雇われて先生をしている以上は、シラユキさんたちは雇い主のお嬢様。ということで、初めからずっとそうしてきた。
「さっき妹たちと話してね。同じファミリアの仲間なんだから、堅苦しいのはよくないんじゃないかって」
「いやでも、シラユキ様たちはサンズさんのお嬢様ですし」
「それはそうだけれど、クロエはファミリアのマスターだ。ファミリアとしてこれから一緒に歩んでいくんだから、その第一歩としてどうかな?」
ベルさんとジャスミンさんが賛同して「うんうん」と肯定する。
アリエルさんはテーブルに頬杖をついて、そっぽを向いていた。けど、どうやら耳はしっかりこちらに傾けられているらしい。
「いやぁ」
「どうしてもダメかい?」
「い、いえ……どうしてもってほどのことでは、ないですけど……」
このままでいいのなら、このままで……と思う。
様、と呼ぶことに私は違和感はない。むしろ、今から変えてほしいと言われたほうが困る。もう半分くらいは様を付けて呼ぶのが癖になっているのだ。
それに今更変えるなんて、ちょっと恥ずかしいというか、照れるというか……。
渋る私に、ジャスミンさんとベルさんが口をそろえる。
「アタシは変えてほしい。だって『様』なんてクロエに言われると変な感じなんだもん」
「べ、ベルも……。『様』って、なんかやだ……」
「ほら、妹たちもこう言っているだろう?」
ふふん、と得意げに胸を逸らすシラユキさん。
「ボクのことも『様』なんて呼ばずに、もっと気楽に呼んでほしいな」
「あ、アリエル様どうなんですか?」
ぐいぐいと三人に押し込まれて、私は耐え切れずアリエルさんに話を振る。
こういった話題で「馴れ合いなんていらねぇ!」とキレてくれるのはアリエルさんしかないない。
さぁ、キレて!
だけど、アリエルさんは私の予想に反して短く息を吐く。
頬杖をついたまま、目線だけちらっと私に向けて、
「別に」
「え、別にっていうのは」
「勝手にしたらいいんじゃねぇの?」
「え」
アリエルさんの言う「勝手にしろ」というのは、賛成を意味しているわけなので。
これ見よがしにジャスミンさんが表情を輝かせて身を乗り出す。
「ほらほら! アーちゃんもこう言ってるしさ!」
「……わ、わかりました」
「やった!」
こうも求められてしまっては断ることはできない。
どうして四姉妹がここまで私の呼び方にこだわるのかは知らないけど、これくらいのことで喜んでくれるのであれば応えようと思う。
逆に私が意固地になってしまうと、せっかく築いた関係が壊れかねない。
「ですが、どのように呼べばいいのですか? さすがに呼び捨ては無理ですよ」
「えー! アタシは別にそれでもいいのに」
「べ、ベルもそれでも……」
「ボクも構わないけれど」
「ダメです。それならこのままでいきましょう」
ここは譲れない。
私がはっきりと言うと、三人は難しい顔をして思案を始めたのだった。




