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パーティーどころかギルドを追放されたので、次の仕事は魔法嫌いな四姉妹の魔法の先生をすることにしました。  作者: 春野
第一章 先生、始めました。

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65.お願いと違和感

「お願いしたいこと、ですか……?」


 私が首をかしげると、深々と頭を下げていたシラユキさんがゆっくりと顔を上げた。

 真剣な瞳で私を見つめて、「うん」と首肯する。


「ジャスミンにもう一度だけでいいから会えないか、父上に頼んでみてくれないかな……?」

「はい。それは構いませんけど……」


 謹慎中である今は、シラユキさんたちは私と一緒でないと外出できない。それに、シラユキさんたちだけでアポロンを訪れてもジャスミンさんと話すことは許されない、いや、それ以前に門前払いされてしまうかもしれないと考えたのかもしれない。

 もしくは、姉妹だけでアポロンを訪れたくないのかもしれないけど。

 なんにせよ、勝手にアポロンに乗り込んでジャスミンさんを連れ去るなんてことを画策していなくて良かったと思う。

 こうやって事前に私に相談してくれているので、私も少しは信用してもらえているのかもしれない。

 

「ありがとう、クロエ」

「いえ、今日にでも行ってみます。シラユキ様たちはどうしますか?」

「申し訳ないけど、ボクたちは残っておいていいかな? ボクたちがいないほうがいいかもしれないから」

「わかりました。ですが、その……」


 絶対の約束はできない。

 私個人としては、シラユキさんたちはジャスミンさんとろくに別れを惜しむ時間もなかったから、その時間を作ってあげたいと思う。もちろん、ジャスミンさんが追放だからと言って生涯会えなくなるとか、話してはいけないということにはならない。

 だけど、ジャスミンさんからしたら顔を合わせづらいだろうし、サンズさんからあまり会わないように言われているかもしれない。


 だから四姉妹だけで過ごす時間がちょっとでもいいから取れればいいんだけど……。


 でも私たちは謹慎中だし無理は言えない。下手を事をすればシラユキさんたち(私も含め)の処罰が追加されるかもしれない。それにサンズさんにも立場がある。いくら父親でも、ギルドマスターとしては娘だからと特別扱いするわけにもいかないだろう。アポロンという大きなギルドを率いているのなら、なおさらだ。


 先を言い淀む私の心中を察してくれたのか、シラユキさんが優しく微笑む。


「もしダメだったとしてもクロエのせいには絶対にしないよ」


 基本的に、「ダメでも怒らない」とか「怒らないから話してほしい」というのは嘘である。

 あれで怒らなかった人を今のところ私は知らない。少なからず怒るし、めちゃくちゃ怒る人が多い印象だ。

 でも、シラユキさんの場合は本当だろう。理由は定かではないけど、そう確信することができた。

 だからといって、適当にするつもりはないけど。ジャスミンさんの追放は止められなくても、四姉妹でお話をする機会くらいは作ってあげたい。

 指導係としてそう思う。


「アリエルとベルが信頼しているクロエだからね。そのクロエがダメなら仕方がないよ。きっとボクが行ってもアリエルでもベルでも無理さ」


 ベルさんはともかくとして、アリエルさんにも信頼してもらっているのだろうか。

 疑問に思ってしまった。

 アリエルさんには私が気に入らないことをしてしまったら寝込みを襲ってもいいという、よく考えたらよくわからない約束をしてしまっている。まぁ、今のところ襲われてないから、そう言う意味では信頼されているのかな?


「もちろん話せれば一番いいけれど、ダメだったらダメだったときだよ」

「そう、ですね。やれるだけはやってみます」

「ありがとう」


 昨日三人で話し合いをしていたのも、きっとこういうことだったのだろう。

 このままお別れのような形は嫌だと。アリエルさんあたりはきっと私を無視して勝手に行こうとしたのかもしれない。けれど、シラユキさんがこうして私に話してくれたのだ。


 ……?

 

 あれ? なぜだろう。なんだか少し違和感を覚えた。

 ジャスミンさんとのお別れ、最後の挨拶をしたいという風にしては、シラユキさんがあっさりしすぎていないか? 


 ……ダメだったらダメだったときって何?


 追放が決定しているジャスミンさんに確実に会えるのは、ジャスミンさんがアポロンにいるとわかっている今だけだ。追放されてしまえば、その後の足取りは謹慎となっている私たちには教えてくれるか微妙なところ。

 それに永遠の別れでないにしろ、謹慎明けすぐに会えるという保証もないのだ。

 

「あの、シラユキ様」

「ん?」

「もしかして、自分たちもアポロンを出ようだなんてこと、考えてないですよね……?」

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