37.ベルに相談
「べ、ベル様のお部屋ですか!?」
相談に乗ってくれるだけじゃなくて、まさかベルさんが自分の部屋に私を入れてくれるなんて。
私の反応をベルさんはどう受け取ったのか。居心地悪そうに視線を泳がせていた。
拗ねたみたいな口調で、おずおずと聞いてくる。
「……いやなら、いいけど……」
「いえ! 嬉しいです! お言葉に甘えさせていただきます」
「……うん」
こくりと小さくベルさんはうなずく。
ベルさんに案内されて、お部屋にやって来る。
「……どうぞ」
「やっぱりこのお部屋は本がたくさんですね」
部屋の中は前に一度訪れた時と変わらず、本棚が城壁のごとく立ち並び、床にも本が所狭しと足の踏み場もなく散乱していた。
……前に来たときよりも散らかり具合はひどくなっているかもしれない。
「……ここ、座って」
「あ、はい」
ベルさんはそんな本の森の中で、ちょこんと一か所だけ拓けたスペースのある床に腰を下ろした。
前も同じ場所にいた気がするので、ここがベルさんの定位置みたいだ。
その隣に座るよう、ベルさんが促してくれたのでありがたく腰を下ろす。
……狭い。
当然だけど、二人で小さなスペースに座っているので普通に狭かった。
ベルさんが華奢だから二人で並べているけど、シラユキさんかアリエルさんだったら、並んでは座れそうもなかった。
「あ、それがあの本ですね」
「……うん。もらったやつ」
ベルさん側の山のように積まれている本の一番上に、私が贈った本が置いてあった。
なんというか、自分が贈ったものが目立つ位置に置いてあると言うのは存外、嬉しいものである。
ベルさんはその本の表紙を大切に撫でてから、私へ顔を向けた。
「……それで、ベルに相談……っていうのは……?」
「実は、今日アリエル様と稽古をしていたんです」
「……え……アリエル姉様……と?」
「はい」
ティナさんや他の姉妹のようにわかりやすく声には出さないものの、ベルさんも驚いているのが顔を見たら明らかだった。
やはりアリエルさんが外部の誰かと一緒に何かをするのは珍しい光景だったらしい。
まぁ、私はそれで失敗したわけですが。
「それでその……話の流れで、どうしてアリエル様が魔法や魔法使いを嫌っているのかと思って、お母様のことを言ってしまって……」
「…………お母さんの」
「あ……」
そうだ。
アリエルさんのお母さんはベルさんのお母さんでもある。
姉妹が魔法を使いたくないと思っているのはお母さんの死がきっかけなのだから、少なからずベルさんにも関係している。
アリエルさんほどではないにしろ、下手に踏み込んでしまうと追い出されかねない。ここは慎重に。
「いえ、あのベル様? あれでしたらお母様のことは……気にはなっていますけど、まだ話してもらえるような信頼はないと自覚していますし、家族の問題っていうかなんていうか、今はアリエル様のことを相談していまして(早口)」
「……ううん、ベルはいいよ」
「へ?」
「……ベルもお母さんのことは大好きだけど、話したくないってことはない、よ……?」
「えっ、そうなんですか……!?」
「……う、うん? うん……」
不思議そうに首をかしげるベルさん。
「でも、うん……アリエル姉様は特にお母さんのこと好きだったから……」
「そうだったんですか……」
「……だから、人に言われるのが嫌……だったのかも」
なるほど。
それで私にお母さんの話をされたのを嫌がったのか。
嫌な思い出では決してなく、素敵な忘れたくない思い出。そこに他人の私が踏み込むのを拒絶したのだ。
「……ベルは一番最後に生まれて、お母さんにも姉様たちにも大切にしてもらえた……と思う。もちろん、アリエル姉様にも」
シラユキさんやジャスミンさんが末っ子のベルさんを可愛がっている姿はすぐに想像できる。
どうやらアリエルさんもお姉ちゃんをしていたみたいだ。
動物が苦手だったり、お母さんが大好きだったり、四姉妹の中で一番ギャップがあるのはアリエルさんなのかもしれない。
「……でも、アリエル姉様はお母さんと一緒に居られる時間が、減ったから、今思うと申し訳ないかも……」
「そんなことは」
「……アリエル姉様、お母さんと一緒じゃないと寝られなかったって聞いたことあるし……」
「え」
「あっ、もちろん……すごく小さい時だけど……」
「へぇ」
「あ……その……シラユキ姉様から聞いた……よ?」
長女のシラユキさんが言っていたのなら、信憑性は高い気がする。
アリエルさんについては聞けば聞くほど新しい一面が見えてくる。もちろん、他の姉妹だってそうだろう。私はまだまだ知らないことだらけだ。
「あ、あの……」
「どうしました?」
「えっと、その、一つお願いしても、いい……?」
意識しているのかいないのか、末っ子の無意識の性質なのか、上目遣いでベルさんが首をかしげた。




