25.アリエルとお風呂
「は~~気持ちいい……」
自分の部屋で少しだけ落ち着いた後。
私は疲れを取るためにお風呂でお湯につかっていた。
今日もちょっと温度がぬるかったので、勝手に魔法で温度を上げさせてもらっている。
前にシラユキさんが来て一緒に入った時は何も言われなかったから、たぶん今回も大丈夫だよね?
「ベルさん、喜んでくれるかな」
今頃キッチンではティナさんが夕飯の支度をしていると思う。
シラユキさんはいつ帰ってくるのかわからないけど、他の三人は帰って来ている。もしかしたら、もう食べている姉妹もいるかもしれない。
私もお風呂から出て外の風を少し浴びたら、美味しいティナさんのご飯をいただくとしよう。
「あ~~~~」
でも、もうちょっとお湯の中にいたいかも……。
明日からはアリエルさんとの稽古もある。身体はできるだけ休ませておこう。
まぁ、今のアリエルさんには負けないけどね!
100数えたら出ようかなぁ。
なんて思っていると、お風呂場の扉がカラカラと開いた。
またシラユキさんが帰って来て、お風呂に直行してきたのだろうか?
せっかくだし、妹さんたちのことを聞いておこうかな。アリエルさんのことを優先的に知っておきたい。稽古のときに使える話があるかもしれないし。
湯けむりが漂っているなか、ペタペタと足音がこちらにやってくる。
現れたのは銀色のショートカット。意外にも……と言ったら失礼だけど女の子らしい体つき。胸は……シラユキさんほど豊かではないけど、シャルに言うのはやめておこう。
私を見て「げぇ……」と顔を歪める。八重歯がちらりと覗いた。
「なんでお前がいるんだよ!」
「さっき帰ってきたので、先にお風呂に行こうかと」
「ちっ、くっそ、運が悪ぃな……」
ガシガシと後頭部を掻くアリエルさん。
私としても、アリエルさんと鉢合わせるのは予想外だった。依頼をこなしたから、お風呂に入りたいという気持ちはわかる。私がそうだし。
でも、アリエルさんは先に帰ったから、一人でお風呂を満喫する時間はたっぷりあったはずだ。
それなのに怒られるのは納得がいかないぞ……。
「アリエル様こそ、先に帰って来てお風呂に行かなかったんですか?」
「あぁん? お前をクビにするために特訓してたんだよ、こっちは」
「帰ってから今までずっとですか?」
「そうだよ。お前が泣き叫ぶ明日が楽しみだぜ」
「疲れているはずなのに、偉いです。アリエル様」
「お、おう……って! お前に褒められても嬉しくねぇよ!」
ふんっ! とそっぽを向いて、アリエルさんはペタペタと私の前を通過する。
どうやら食事のときと同様、私と離れた位置で湯船につかるらしい。
「なんでお前と同じ湯に……」
と文句を言いながら、アリエルさんは片足をお湯につけて、
「あっつ!? なんだこれ!? めちゃくちゃ熱いじゃねぇか!?」
「そうですか? 気持ちいいと思いますけど」
「ふざけんな! お前、何かしただろ!」
「え、わかります……?」
「当たり前だ! 今までこんなにお湯が熱かったことなかったんだ。ティナがこんなミスをするとは思えねぇしな!」
シラユキさんとは違って、アリエルさんはぬるめのお湯が好きなのかな?
まだまだお子ちゃまなんだからぁ。
「シラユキ様は普通に入ってましたよ」
「知るか! オレは熱いんだよ!」
アリエルさんの顔を見ると、薄っすら瞳に涙が滲んでいた。
え、そんなに熱かったかな……?
ちょっとだけ、自分で自分を疑う。いや、私は正常なはず。火の魔法が得意だからと言って、異常な温度に慣れてるってことはないはずだ。
「くっそ!」
「アリエル様、入らないんですか?」
「入れねぇんだよ! あぁ、もう!」
アリエルさんは私をキッと睨みつけて、脱衣所へ戻って行った。
……風邪をひかなきゃいいけど。




