154.滞在許可証
サクラに案内してもらったのはベッドが6つ用意されている、学院都市にある来客者が宿泊する部屋では最も広いところだった。
「わぁっ、すっご! 広ーい!」
目を輝かせたジャスミンさんが荷物を背負ったまま、綺麗にメイキングされているベッドにダイブする。
「めっちゃモフモフ! ふかふか!」
「こらこらジャスミン、はしたないよ」
注意をしながらシラユキさんも自分のベッドに腰を下ろすと、「わ、たしかにこれはすごいな……」と感想を零していた。
ベルさんもびっくりした顔で、さっきから何度もベッドをぎゅっぎゅと手で押し込んで、ふかふか具合を楽しんでいる。
私もシラユキさんとベルさんの間のベッドに座って、その感触を確かめる。
絹のようになめらかで――もしかすると絹なのかもしれないけど――優しく柔らかい。反発力はたしかにあるけれど、それでも沈みすぎるということはなく、包み込んでくれる安心感があった。
ちなみに、それぞれがどのベッドを使うのか、というのは部屋に来るまでの間に話し合い、ダイニングで食事をする時と同じ並びとなった。
左の奥からシラユキさん、私、ベルさん、右の奥からアリエルさん、ジャスミンさんとなっている。
さらに驚くべきなのは、その部屋はあくまで寝室だということ。
ベッドルーム以外に、来客用のソファとテーブルが置かれた部屋、食事や話し合いをするための円卓がある部屋、勉強や読書をするために六人分の勉強机が用意されている部屋があったのだ。
学院が壁に囲まれた中にあるから、窓からの景色は学院の敷地内しか見渡すことはできない。
けれど、掃除は行き届いているし、家具はシンプルだけどオシャレで高級感があるし、天井も高い。
超一流の高級宿、と言われても信じてしまうような内装だった。
とてもじゃないけれど、単なる夏期講習にやって来た冒険者が泊まれる部屋ではないだろう。
……これ、サクラの手伝いをする私がかなりこき使われるのでは……?
王都の依頼でもなかなか見ない手ごわい魔物の相手をさせられたり、馬車馬のように働くことになるかもしれない。戦々恐々としながら、サクラに尋ねる。
「さ、サクラ……?」
「ん~?」
「こんなにいい部屋に泊まらせてもらっていいの?」
「もちのろんよ。クロエはマブダチなんだから☆」
バチーン! とサクラはウインクをする。
どうやらこの待遇は友情の証らしい。
サクラの情の厚さに感動を覚えていると、サクラが笑顔で「それに」と付け足した。
「クロエには、私の研究の手伝いをしてもらうし、これくらいはね。ボロ雑巾になるくらい――いえ、そこそこ頑張ってもらうつもりだし」
「今、ボロ雑巾なるくらいって言った!?」
「気のせいよ。そんな酷い扱いをするわけないじゃない」
「そうだよね? よかった」
ほっと胸を撫で下ろすと、サクラはニッコリと女神のような笑みを浮かべた。
「まぁ、最悪腕の一本や二本や三本折れるくらいじゃないかしら。知らないけど」
「腕折れるの!?」
ていうか、腕は二本しかない。
三本も入れる状態って、どんな惨状なんだろうか……。
いや、一本も折れたくないんだけど……。
「心配しなくても大丈夫よ。ここは学院都市だから、即死しない限りは死にはしないから☆」
「待って待って? そんな相手と私は戦う予定なの?」
「だって考えてみて? あなたにお願いしてるってことは、私を含めて学院にいる人では、少なくとも怪我をせずに倒せない、そう判断したってことよ?」
「た、たしかに……」
サクラのお願いだから即答で了承したけど、よくよく考えたらそうか。
「大丈夫大丈夫。クロエ、強い。サクラちゃん、それ、知ってる」
「なんでちょっと棒読み!?」
「あ、それじゃあ忘れないうちに滞在許可証を渡しておこうかにゃっ☆」
「ちょっとサクラ!?」
聞こえているはずの私の言葉に返事が返って来ることはなく、サクラは銀色のプレートが付いたネックレスを取り出した。それを四姉妹の一人ひとりに配る。
プレートには、講習受講者用学院滞在許可証と言う文字と、四姉妹それぞれの名前が刻印されていた。
「なくさないように気を付けてね? 万が一なくしちゃったら、すぐに私に言って? それがないと追い出されちゃうから」
「あれ? 私は?」
「クロエはこっち」
サクラから受け取ったネックレスのプレートには、サクラのマブダチ・クロエと彫られていた。
「これ大丈夫なの!?」
「平気平気。たぶん、知らないけど」
さすがにふざけすぎではないだろうか。
ネックレスの部分は四姉妹のものと同じようだけど、肩書きが違いすぎる。
これで滞在できるとは思えないぞ……。
「冗談よ。本命はこっち」
ほんとかなー? と疑いながらネックレスを受け取る。
予想に反して、教授来客用学院許可証の文字とクロエの名前が刻印されていた。
「どっちも渡しておくから、好きな方を選んでくれていいわよ?」
「じゃあ、こっちで」
速攻で教授来客用のネックレスを選んで首から下げた。
「えっ、そっち?」
「当たり前でしょ!?」
わざわざ特注で作ってもらったのに、とサクラは文句を垂れているが、それは労力の無駄遣いがすぎるのでは……?
「さてと。今から学院を案内しようと思うんだけど、どうかなにゃ~? 今なら、サクラちゃんも時間があるから最強のカワイイ案内が付くよ☆」
サクラが私と四姉妹とをぐるっと見回す。
「疲れてるんなら、明日から講習が始まるし、無理にとは言わないけど。後日、誰かに頼んでもいいし」
「アタシは全然平気!」
真っ先にジャスミンさんが元気よく手を挙げて答える。
「ボクもお願いしたいけど」
と、シラユキさんはアリエルさんとベルさんに視線を向けた。
乗り物酔いをしていたアリエルさんと、末っ子のベルさんの旅の疲労を心配しているらしい。
「オレも大丈夫だ。サクラさんにもらった薬が効いてきた」
「ベルも……だいじょぶ」
「それじゃあ、サクラさん。お願いしてもいいですか?」
「おけまる~。サクッと案内して、夕ご飯も一緒に食べよっか☆」
ということで、私たちは休憩もそこそこにして、サクラに学院を案内してもらうことにした。
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