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パーティーどころかギルドを追放されたので、次の仕事は魔法嫌いな四姉妹の魔法の先生をすることにしました。  作者: 春野
第四章 クロエとマブダチ

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151.四姉妹とお父さん

 数日後。

 私たちは四姉妹のお母さんが眠っているお墓の前にいた。


 四人からお母さんの過去を、そしてアリエルさんから今後の決意を聞いた後、シラユキさんに、


「もうすぐ母上が亡くなって5年の命日なんだ。よかったら、クロエにも来てほしい」


 と言われたためである。

 もちろん、私は二つ返事で承諾した。

 四人の大切なお母さんに合わせてもらえるのがすごく嬉しかったし、お母さんには指導役をしている報告も挨拶もしていなかったので、いい機会だと思ったのだ。

 

 四人のお母さんのお墓は、王都内にある緩やかな丘の上の霊園にあった。

 緑が豊かでそよぐ風が心地いい。

 太陽を遮るものは何もなく、周りを見ると王都の街を見晴らすことができた。

 

 そんな霊園の一角に案内される。

 

「ここが……」

「あぁ、そうだ。ここでお母さんは眠ってる」


 アリエルさんが見つめる先にある墓石には、ティアナと名が刻まれていた。


「きっと母上もクロエに会いたかっただろうね。ぜひ、挨拶してあげてほしい」

「はい、もちろんです」


 四姉妹に見守られながら、私は霊前で腰をかがめ、持ってきた花を手向ける。

 心の中で、四人のお母さんに話しかける。


 お母様。

 私はあなたの素敵なお嬢様四人の指導係を、そしてファミリアのマスターを務めさせていただいています、クロエです。

 あなたのお話は四人からたくさん聞きました。

 こういう形ではありますが、会うことができて嬉しいです。

 シラユキさん、アリエルさん、ジャスミンさん、ベルさんは、私が必ず一人前の冒険者にしてみせます。

 次に来たときは、何か一つでもいい報告ができるよう努めますので、どうか四人のことを見守ってあげてください。 


 目を開けて振り返ると、四人も私と同じように目を閉じて、お母さんへ想いを馳せているようだった。

 邪魔をしては悪いので、四人が目を開けるまでじっと待つ。

 最初に瞳を開けたシラユキさんと目が合った。

 

「シラユキさん、それじゃあ私は、あっちの方にいますね」

「別に気を遣わなくてもいいのに」

「いえ、シラユキさんたちにとっては、やっぱり特別な時間だと思うので」

「そっか。ありがと。それじゃあ、待っていてくれるかい?」

「はい。時間は全然気にしなくていいですから、ごゆっくり」


 私に抜きで、家族だけで過ごせる時間を作るべきだろう。

 霊園の入り口の近くには木々が茂っているから、その木陰で休んで四人を待つことにしよう。

 そう思っていると、アリエルさんも小さく頭を下げた。

 

「……悪いな」

「謝らないでくださいよ、アリエルさん。らしくないですよ」

「どういう意味だよ」

「え!? いや、変な意味じゃ……」

「もうっ! アーちゃんもクロエも、お母さんの前で喧嘩しちゃダメだよ?」


 ジャスミンさんに言われて、アリエルさんは私を軽く睨むのをやめて、短く息を吐き出した。


「別に……してねぇよ」

「そう? なら、いいんだけど。そういえば、クロエはお母さんになんて言ってたの?」

「普通ですよ? 挨拶みたいな」

「ふーん。あ、アタシたちの悪いところとか、お母さんに報告してないよね?」

「え……」


 ジャスミンさんの言葉に反応したベルさんが、いじらしく両手の人差し指をツンツンとさせて、上目遣いで尋ねてくる。


「そ、そうなの……?」

「いえ、そんなことは」

「ベ、ベル……お母さんにそんなこと知られるの、恥ずかしい……」

「大丈夫ですって、してませんから」


 でも、言われてみれば、少しくらいは今の四人について、私からお母さんに話しても良かったかもしれない。

 ……ジャスミンさんはもう少し落ち着きをもってほしい、とか。

 

 まぁ、今回は最初の挨拶だったわけだし、次に来たときはそうすることにしよう。

 私と四人のお母さんと、二人だけの秘密である。

 

「それじゃ、私はあっちで待ってますね」


 霊園の入り口にある木陰に移動すると、気が抜けたのか、思わずあくびをしてしまった。

 昨日の夜は、まるで結婚相手の両親に挨拶をしに行くような緊張感で、あまり眠れなかったのだ。


 お母さんの墓石の前にいる四姉妹を眺めながら待っていると、


「あれ? クロエじゃないですか」

「カタリナさん?」


 振り返ると、綺麗な花束を抱えたカタリナさんとサンズさんが坂道を上って来るところだった。

 

「奇遇ですね、クロエ」

「カタリナさんとサンズさんも、お母様に会いに?」

「ええ、命日ですので。というか、『も』ということは、クロエも?」

「はい。四人に一緒に来てほしいって言ってもらったので」


 私が言うと、珍しく驚いた表情を見せたカタリナさんだったけど、それ以上に隣にいるサンズさんが驚愕していた。

 

「く、クロエ君」

「どうかしました?」

「四人って、あの子たちが君をここに?」

「はい。あの、もしかしてまずかったですか……?」

「いや、そんなことはない。ないが……」


 と、言いながらサンズさんは、遠くで墓石の前にいる四人の姿を発見したらしい。

 バツが悪そうに視線を逸らす。


「ということは、あの子たちからティアナの話は」

「聞きました」

「そうか……やはり、まだ私のことを恨んでるんだろうね」

「…………」

「いや、いいんだ。娘たちには、そう思われても仕方がない」


 寂しそうに力なくサンズさんは苦笑を浮かべる。


 アリエルさんは、サンズさんがティアナさんを殺したと今でも恨んでいる。

 アリエルさんほどでなくとも、シラユキさん、ジャスミンさん、ベルさんのなかにも、サンズさんとの蟠りは残っているのだろう。


 けれど。


「あの」

「うん?」

「たしかに、それは否定できないかも……しれません」

「だろうね」

「でも、皆さん変わろうとしていると思います。一歩ずつ前に向かおうとしていると思います」


 私の言葉に、サンズさんは目を大きくさせた。

 しばしの逡巡があって、ゆっくりと自分に言い聞かせるようにサンズさんが言う。


「……そう、だね」

「だから、サンズさんも少しずつきっと」

「あぁ、そうだね。私のほうからも、彼女たちに歩み寄っていかないとね」

「はい」


 彼女たちにとって、たった一人の父親なのだから、いつか分かり合える日が来てくれたらいいなと、私は思う。

 いつになるかはわからない。けれど、みんな変わろうとしている。一歩、踏み出そうとしているのだ。

 案外、そう遠くないのかもしれない。


「あ、そういえば」


 サクラにさそってもらった、学院都市での夏期講習を思い出す。

 私たちのファミリアとしては参加する気満々だけど、ギルドマスターであるサンズさんにまだ話していなかった。

 

「あの、サンズさん。今後のファミリアのことなんですけど」

「なにかな?」

「学院都市での夏期講習に全員で参加しようと思っていて」

「学院都市で? そりゃあ、構わないけれど、そんなところの講習にうちの娘たちが参加できるのかい?」


 やはり、サンズさんほどの人となると、学院都市での講習会の人気の高さ、倍率の高さを知っているみたいだ。


「ちょっとズルいんですけど、学院都市にいる知り合いが融通を利かせてくれると」

「クロエ君、学院都市に知り合いがいるなんて、すごいな……」

「あ、いえ……腐れ縁みたいなものでして……」


 サクラの紹介は……うん、やめておこう。

 ややこしくなるのが確定なので、また機会があったら。

 

「それで、みんなで参加してもいいですか?」

「あぁ、もちろんだ。って、みんなってことは……」


 あごに手を添えたサンズさんが、引っかかる部分があったようで眉に皺を寄せた。


「アリエルも参加するのかい? 学院都市の講習なのだから、魔法についてだろう?」

「はい。そうなんですけど、アリエルさん自身が参加したいと」

「そう、なのか……」


 信じられない、と今日一番の驚いた様子を見せるサンズさん。

 カタリナさんが笑みを浮かべながら言う。

 

「マスター。やはりお嬢様方も変わろうとされているのではないですか?」

「あ、あぁ、そのようだ……」

「そういえば、シラユキお嬢様も最近は街で女遊びをするの見かけなくなりましたね」

「シラユキまで……知らなかった……いったい、何が……」


 自分の娘についての知らない情報に、サンズさんは愕然とした表情になる。

 と、霊園の方から大きな元気のいい声で名前を呼ばれた。


「クロエー!」


 振り返ると、四人がこちらへやって来るところだった。

 アリエルさんがサンズさんを見ようともせず、ぶっきらぼうに私へ言う。

 

「おい、行くぞ」

「あ、待ってください」


 アリエルさん以外の三人は、サンズさんとカタリナさんに会釈をして坂道を下りていく。


「サンズさん、詳しいことはまた学院都市から連絡が来たら、ギルドで!」

「あぁ、わかった。これからも娘たちを頼む」

「はい!」


 ペコリと頭を下げて、私は慌てて四人を追いかけるのだった。

お読みいただきありがとうございます。


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