137.真相
今回のお話で第三章はおしまいになります。
アムレの街に帰ると、カミュさんや街の役人による取り調べが、サーナンさんの意識が戻ってすぐに始まったらしい。
らしい、というのは、その間の時間、私たちも事情を聴かれていたからだ。
特に、誘拐された一人であるベルさんから役人の人は念入りに話を聞いていた。
当然、私やシラユキさん、ジャスミンさんが知らない情報も出てくる。
「——つまり、誘拐されている間は特に何もされなかったと」
「う、うん……あ、はい。そうです……」
緊張した面持ちで役人の質問に答えるベルさん。
ベルさんによると、連れ去られた後は監禁されていた以外は何もなかったらしい。むしろ、ベルさんも他の子供たちも丁重な扱いをされていたんだとか。
ちょっと意外だった。
おそらく、誘拐すること自体は目的ではなく、達成するために必要だった過程だったのだろう。その後の交渉に使うつもりだった、とか?
もしかすると、良心が残っていたのかも。完全に悪人に染まったわけではなかったのかもしれない。
必死だったサーナンさんの顔を思い出す。
冒険者として道を踏み外してでも成し遂げたかった目的なんて、いったい何なのだろう。
何はともあれ、ベルさんも子供たちも何もされていなくてよかったと、ほっとする。
同席している姉たちも安堵の息を吐き出していた。
その後、夕暮れ前に聴取は終わった。
基本的には話を聞きたいのはベルさんだけだったみたいだし、そのベルさんの疲労も考えて最低限だけで、手短なものにしてくれたようだった。
「では、クロエ、お嬢様方。私は先に失礼します」
「本当にもう王都に戻るんですか?」
「ええ。すぐにマスターへ報告をしたいので」
カタリナさんは今朝、アムレにやって来たばかりだというのに顔にはまったく疲れが見えない。
いや、見せていないのだろう。
私も見習わなくてはいけないな、と思う。
「ではまた、アポロンで」
「はい。本当にありがとうございました」
カタリナさんが来てくれたなかったら、これほど上手く事件を解決できたかわからない。
人喰いの相手も、完全に丸投げしちゃったし……。
カタリナさん以外の人が派遣されていたら、あの別荘から移動しようとしたベルさんや子供たちを乗せた馬車を取り逃がしていただろう。
本当にカタリナさん様様だ。
カタリナさんを見送ったあと、私たちはカミュさんが準備してくれたフローロ内にある部屋で、ようやく心を落ち着けることができた。
とはいえ、四人ともお疲れだったので、ご飯を食べたらすぐに眠ってしまった。
大きなベッドを二つくっつけて、四人で寄り添うように寝息を立てている。
四人とも安心しきったように表情は柔らかく、心地よさそうだ。
それを見て、私は昨日ベルさんがいなくて、三人で肩を寄せ合って眠っていたのを思い出した。
やっぱり、この四人は四人でなくちゃね。
同じ色の綺麗な銀色の髪、それぞれ抜群に整った顔立ち。
髪型や身長などに違いはあれど、黙っていたら本当によく似た四姉妹だ。
自然と口角が緩んでしまう。
んん~と伸びをして、四人の邪魔をするのも忍びないので私は別のベッドで就寝するのだった。
* * *
翌日。
王都に帰る準備をしていた私たちのところにカミュさんがやって来た。
昨日の大規模な作戦に、夜まで行われたであろうサーナンさんの取り調べ、さらに自分のギルドのメンバーが誘拐事件の主犯だった心労など、カミュさんの顔からは疲れが滲み出ていた。
「どうしたんですか?」
「取り調べで、今の段階でわかったことを皆さんにもお話ししておこうと思いまして」
部屋の中で片づけをしていた四人も手を止めて、こちらを見ていた。
当たり前だけど、気になっていたのだろう。
「サーナンさん、素直に話してくれてるんですね」
「ええ。クロエさんとお嬢様方には、王都へ帰られる前に話しておくべきだと思ったので」
「ありがとうございます。聞かせてください」
では、とカミュさんは今回の事件の顛末を話してくれた。
結論から言うと、サーナンさんが誘拐事件を起こした理由はフローロを乗っ取ろうとしたから、だそうだ。
誘拐事件は、フローロとマスターであるカミュさんの信頼を失墜させるために画策したというのだ。
たしかに一か月も解決の糸口をつかむことができていなかったんだから、フローロだけでなくアムレのギルドや警備をする王国騎士団に対する街の人たちの信頼は少なからず低下していたと思う。
ベルさんを誘拐したのも、そのため。
アポロンギルドマスターの娘がいなくなったとすれば、フローロのマスターであるカミュさんの責任が問われる。
カミュさんを退任させる最後のカードとして、ベルさんを誘拐したらしい。
まぁ、アポロンを巻き込んだせいで私たちも本格的に事件解決に参入し、カタリナさんまで呼ぶことになったんだけど。
目論見通り、アポロンを巻き込むところまでは上手くいったかもしれない。だけど、巻き込んだから私たちに事件を解決された。そこはサーナンさんの考えが甘かったわけだ。
簡潔に言ってしまえば、私たちが新生ファミリアだから舐めていたんだろうし、まさかアポロンがカタリナさんを派遣して来るとも思わなかったのかもしれない。
「事件のことはわかりました。でも、そもそも動機はなんだったんですか? フローロを乗っ取ろうだなんて」
「お恥ずかしい限りなのですが……」
俯き加減でカミュさんは言葉を続ける。
「フローロの改革を望んでいたようです」
「改革?」
「ここ数年、フローロは……というよりアムレにあるギルドはどこもメンバーの数、経済面、任される依頼など、色々な部分で縮小の傾向にありました」
「そうなんですか……?」
はい、とカミュさんは首肯する。
フローロはアムレの街では大きいギルドで、だからこそサンズさんもフローロに誘拐事件について情報を尋ねていたのだと思う。
もちろん、アポロンと比べたら規模は小さい。
王都ならば中堅どころと言った感じだろうか。アムレの街自体が大きくはないので、それに相対した規模になっているのだと思うけど。
「要因は様々なことが考えられますが、一つ上げるとすれば街道の整備でしょうか。近年、王都でギルドの数が増えていることもあって、王都にあるギルドへ所属するのが比較的容易になっているんです」
アポロンやエーデルシュタインといった超がつくほどの一流ギルドに所属するのが難しいのは、今も昔も変わっていない。
けれど、ファミリアと言う制度もあるから、直接ではなくとも一流ギルドの間接的には関わりやすい。
王都で依頼をこなしていれば、私みたいにスカウトされることもあるだろうし。
それに王都と別の街を比較すると、依頼の豊富さが違う。
国の中心ということもあって、ギルドに寄せられる依頼は多岐にわたっている。
ここにも街道の整備が関わっていて、以前よりも王都から離れた場所からの依頼も近年は増えていた。
「冒険者であれば、王都で名を上げたいというのは私も理解できますからね。まぁ、時代の流れと言うんでしょうか。この街が好きでこの街のギルドに所属してくれる冒険者も少ないわけではありませんが……」
サーナンさんは自分がマスターになり、この流れを食い止めようとしたわけか。
アムレは王都にも近いから、そう遠くない未来に地元であるフローロよりも、王都にあるギルドの方が影響力を持つかもしれない。
自分たちの街が我が物顔で支配される、みたいな感覚だったのかも。
それでサーナンさんは王都から、それもアポロンと言う大きなギルドからやって来た私たちのことを毛嫌いした態度をとっていたわけか。
「私もはじめは色々と対策を練っていたのですが、正直なところ諦めているところがありました。王都には勝てないと。サーナンは、そこが気に入らなかったのかもしれませんね。もちろん、サーナンがとったやり方は決して褒められたことではないのですが」
悔いるようにカミュさんは拳をぐっと握りしめる。
そして私たちを一人ひとり見て、頭を深々と下げた。
「今回の事件は、マスターとして私の至らなさが招いたことでもあります。謝って済む問題ではないとわかっていますが、本当に申し訳ありませんでした」
* * *
その日の昼下がり。
アムレを出て、王都へ向かう馬車の中で私はカミュさんの言葉を思い出していた。
「これからは、アムレのギルドだって王都に負けていないと街の人たちに思ってもらえるように、一から頑張ってみようと思います」
今後、フローロは厳しい逆風の中を進むことになるだろう。
さすがにギルドを解散、とまではならないだろうけど、王城からの指導や業務改善命令は避けられないと思う。
しばらくは、受けられる依頼だって限られるはずだ。
それに信頼というのであれば、王城だけでなくアムレに住んでいる人や訪れる人たちからも取り戻していかなくてはならない。
王城の役人からの指導は期限が決められているけど、住民の信頼が回復するのに期日は定められていない。もしかすると、一生信用してもらえないかもしれない。
それでも、ギルドである以上は責務を果たしていかなければならない。
冒険者を続けていれば、私も四姉妹もアムレを訪れることは必ずあるだろう。
もしかすると、一緒に依頼をこなすなんてこともあるかもしれない。
そのときには、今以上にもっともっとレベルアップしておかなければ。
今日は帰ってからお休みにするとしても、明日からまた魔法の練習、練習、練習だ。
メニューはどうしようかな、と思いながら四人に視線を向ける。
前の座席ではシラユキさんの膝枕でベルさんが眠り、シラユキさんもまた目を閉じて寝ているようだった。
私の隣では、私に肩に持たれるようにジャスミンさんはすやすやと眠っている。
なお、ジャスミンさんの隣にいるアリエルさんだけは、死にそうな顔で天を仰いでいるけど。
とりあえず。
手が痛いし、王都に戻ったら、お医者さんのところに行こう。
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