124.不穏な確信
月と星が輝いている夜空の下、急いで南門へと向かう。
(シャル、私もするけど周囲の警戒よろしくね)
(かかっ、わかっておるわ。……だが)
(?)
思案するように数秒ほどの間を空けてシャルが言う。
(ベル嬢がいなくなったとき、我も気づかなかったということは、その際は魔法を使用しておらんということではないか?)
(……! そっか。そうなるよね)
妖精であるシャルは魔法には人一倍敏感に反応できる。
人間では感じ取れない微量な魔法や魔力を感知することだって造作もないことだ。
そのシャルが魔力を感じなかったということは、ベルさんを誘拐した瞬間は誰も魔法を使わなかったということに他ならない。
(てことは、シラユキさんが言ってたみたいに相手は慣れてるってことか)
(かかっ、なかなか楽しめそうな相手ではないか)
(いや……楽しめなくていいんだけど……他にも分かったら教えて?)
(無論承知しておるわ)
周囲を警戒しながら、南の門へとやって来る。
この時間に街には行ってくる商人や冒険者は多くないから、しんと静まり返っていた。
近くにいた若い男性の門番に声をかけると、南の門の責任者のところに案内してもらえることになった。
小さな灯りが灯っている小屋の前に移動する。
門番がノックをすると、中から50歳くらいのおじさんが出てきた。あごに立派なひげを蓄えている。
夜分遅くに申し訳ないけど、さっそく質問させてもらう。
「あの、今日の夕方から今までで、不審な荷馬車とかっていなかったですか?」
「不審な?」
「例えば人を運んでいるとか」
「人……つーことは誘拐事件関係のってことか?」
「そうなります」
おじさんは髭を撫でながら思案顔を作る。
「いや、見てねぇな。事件が起きてからは入念に調べているつもりなんだがさっぱりだ」
「そうですか……」
「俺たちが見落としてない、とは言い切れねぇけどよ。だが、こうなると街の中に隠れているのかもしれねぇって、最近は思うようになってきたよ」
力なく笑うおじさんにお礼を言って、小屋を後にする。
街の外に拠点はあると思っていたけど、勘違いだったのだろうか?
南門の外に見えるのは、かがり火に照らされた狭い範囲の街道だけ。それよりも先になると暗い夜の闇が広がっていた。
どこかで魔物が遠吠えをする声が聞こえた。
(クロエ)
(どうしたの?)
(門の外が何やら匂う)
(門の外?)
(ベル嬢の魔力を感じる)
「え!」
急に私が声を発したからか、ジャスミンさんがビクッと肩を揺らしたのが分かった。
「す、すみません」
「いいけど、急にどうしたのさ?」
「シャルが門の外に何かあるって言ってるんです」
「シャルちゃんが?」
三人がそれぞれ顔を見合わせる。そしてうなずいた。
私たちは門番に「ちょっとだけ外に出ます」と断りを入れて、門の外に出る。
シャルに導かれるように移動して火の魔法で周辺を照らす。
足元をじっと目を凝らして観察していると、
「これ……」
一か所、生えている草が枯れている……いや、燃えて炭になっている箇所があった。
(ベル嬢の魔法の跡で間違いないな)
(ほ、ほんと!?)
(嘘を申すはずがなかろう)
自信を持ってシャルが言い切る。
つまり、ベルさんがここで魔法を使ったということだ。
要するに。
やはり、ベルさんは、他の子供たちも一緒に外に連れ去られているらしい。
私が見下ろしている箇所に気づいたシラユキさんが、そこを覗き込む。
つられるようにしてアリエルさんとジャスミンさんも地面を見つめた。
「クロエ、これってまさか……?」
「はい。ベルさんと他の子供たちは街の外に連れ去られているみたいです」
シラユキさんの問いに答えると、ジャスミンさんが「え!」と声を上げた。
「でもでも、さっきのおじさんは見てないって」
「おそらく、というか十中八九、荷馬車に細工をしているんだと思います」
そうでなければ外には出られないと思う。
さすがに小さな子供を背負った状態で街の外へ行くのは不可能だろう。
でもこれで特定するヒントも得られた。
街の外にいるという確信。
そして馬車で移動しているから、その建物なのか何なのかはわからないけど拠点付近に馬車があるはず。さすがに途中で捨てていくことはないだろう。
アリエルさんが深い暗闇をちらっと一瞥してから、わたしに言う。
「どうすんだよ?」
「一旦、フローロへ戻りましょう」
この時間にあまり知らない土地で行動をするのは得策ではない。
犯人を見つけるのも難しいし、魔物の動きだって活発化しているから、余計な戦闘をすることになるだろう。
いらない危険な目に三人を合わせたくない。
今すぐに行くと言って素直に聞かないかと思ったけど、アリエルさんは大人しく首肯した。
四姉妹の仲で一番依頼をこなしている経験があるから、夜に行動する危険性を理解しているらしい。
シラユキさんとジャスミンさんも致し方ない、とうなずいてくれて、私たちはフローロへと踵を返すのだった。
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