103.アリエルとデートへ
初めて王都の外へ行き、モンスターを相手に魔法を使う練習をはじめて三日ほど。
姉二人が守ってくれて魔法に集中しやすいという環境のおかげもあってか、ジャスミンさんとベルさんはぐんぐんと成長していった。
それに伴って、剣で妹を守っているシラユキさんとアリエルさんの実力も引き上げられた気がする。
今では5匹くらいなら楽々と倒せるほど慣れてきていたし、コンビネーションも上手になっていた。
そろそろ実際に依頼を受けて、少し強い相手と戦ってみてもいいかもしれない。
そんなことを思いながら、みんなとダイニングで夕飯を食べる。
一足先にアリエルさんが食べ終えて席を立ったので、私は慌ててお茶を飲み干してその背中を追いかけた。
明日はファミリアとして指導がはじまってから初めての休日。指導は何も行わない、完全なお休みである。
と、同時に、アリエルさんとデート――といっても実際にはただのお出かけ――の約束をしている日でもあった。
アリエルさんからは、あれからデートについて何も話がなかったので、今日まで何も決まっていない。
廊下を駆け足で追いかけて、アリエルさんを呼び止める。
「アリエルさん」
「あ?」
「あの、明日のことなんですけど」
「明日……あぁ、なんだよ?」
「どうしようかなって。ほら、何も決めてないじゃないですか」
「別に適当でいいだろ」
少し冷めたような口調でさらっとアリエルさんが言う。
もしかすると、浮かれてしまっているというか意識しているのは私だけなのかもしれない。
いやでも仕方ないじゃないか。明日のお出かけはアリエルさんと二人きり。親睦を深めたいけど、逆に明日の内容によっては今後の先生としての信頼なども揺らぎかねないのだ。
それより、とアリエルさんが私に尋ねる。
「お前は明日も朝に稽古をすんのか?」
「え? はい、日課ですから」
「あっそ。オレも普通にするから、出かけるのはその後だ」
「わかりました。でも、本当に行きたいところとか、ないんですか?」
ベルさんみたいに魔法書や本には興味はないと思う。
アリエルさんもずっと王都で暮らしているとはいえ、私のほうが冒険者としての生活が長いのでアリエルさんが知らないお店だってたくさん知っていると思う。
先に行きたいところを言ってくれていれば、プランなどを考えられるのである。
「ねぇよ、別に。明日決めればいいだろ」
「そうですか……わかりました」
アリエルさんと別れて自分の部屋にやって来る。ベッドに腰を掛けて頭を悩ませた。
これは明日どうなるか本当にわかんないぞ……。アリエルさんに任せっきりなのはダメだし、かといってアリエルさんが喜びそうなものやこと……。
お出かけって言ってもきっとメリダと二人……とはわけが違うし。
うーん。
考えてもダメそうだ。
よし、明日の私、任せた!
そして迎えた当日。
朝の稽古にはアリエルさんだけではなくて、シラユキさんとジャスミンさんも普段通り参加してくれた。
今日は休んでもよかったのにな、と感動しつつ稽古を終えてお屋敷へ戻る。
さて、これから私はアリエルさんとお出かけだ。
ティナさんにお茶をもらってダイニングで待つこと少し。
ちょっと準備に時間がかかりすぎじゃない? と私が思い始めた頃、ようやく廊下からアリエルさんの声が聞こえた。
だけど、なんだか騒がしい。
「おいっ、やめろシラユキ! 嫌だって言ってんだろ!」
「何を今更……ここまで来ておいて」
「お前が引っ張ってきたんだろ! くそっ! 騙しやがって!」
「人聞きが悪いな。ボクは騙してなんかいないよ」
「やーめーろー!」
どうやら、シラユキさんと何やら言い合いをしているらしい。
今日も仲が良いなと思っていると、シラユキさんが「やぁ」と顔を出した。
「待たせてすまないね、クロエ」
「いえ、私は平気ですけど」
「ほらアリエル。こっちに来るんだ」
「シラユキふざけ――」
ぐいっとシラユキさんに腕を引っ張られて、アリエルさんがダイニングの中に姿を現した。
その格好を見て、私は目を見開く。
「あ、アリエルさん……それ……」
「うぐ……」
アリエルさんは、フリルがついた可愛らしいロング丈の白色のシャツ、チェック柄のサイドプリーツスカートという可愛らしくも大人っぽい服装だった。
トップスをウエストインにしているからか、アリエルさんのスタイルの良さが覗える。
アリエルさん、腰の位置めっちゃ高いな……。
すっごく似合っているんだけど、いつものアリエルさんは動きやすければ何でもいい! って感じの服だから、そのギャップに驚いてしまった。
意外というか、なんというか。
私がじっと観察していると、顔を朱に染めて下唇を噛んでいたアリエルさんが私に言った。
「わ、笑いたきゃ笑えよ!」
「え!? 笑ったりなんてしませんって! すごく似合ってますもん!」
「似合っ!? んなわけあるか! 世辞なんていらねぇんだよ!」
「お世辞じゃないですよ! 本当です!」
心の底から素直にそう思ったのだ。
アリエルさんだけじゃないけど、やっぱりこの四姉妹は魔法のセンスや才能だけじゃなくて、他にも色々なものを神様に授けられている。
なんて恐ろしい……。
照れているのか恥ずかしいのか、アリエルさんは歯噛みをしているから犬が威嚇するみたいになっている。
そんな妹を見て、シラユキさんが苦笑と共にため息を吐いた。
「アリエル。どうしてお前は素直に受け取れないんだ」
「はぁ!? つーか、元はと言えばお前のせいだろ!」
「『せい』ではなくて『おかげ』の間違いだろう?」
「絶対お前覚えとけよ!」
……どうやら、アリエルさんのこのコーディネートはシラユキさんプレゼンツらしい。
そう言われれば、納得である。
シラユキさんならアリエルさんに似合う服を見繕うことも簡単だろうし、服のサイズも合うだろう。それに嫌がるアリエルさんに実際に着させることができるのは、アリエルさんの唯一の姉で長女であるシラユキさんくらいのものだ。
と、ダイニングにジャスミンさんがやって来て驚きの声をあげた。
「うわっ、誰!? ……って、アーちゃん!?」
「ふふっ、とても似合っているだろうジャスミン?」
「うん! すっごく可愛くてびっくりした! でもアーちゃん、こんなに可愛い服持ってた?」
「ボクのを貸したのさ。せっかくのデートだからね」
「なるほど! ユキちゃんの服か~いいないいな~!」
「ジャスミンもサイズが合うものがあれば、貸してあげるよ?」
「やった! ありがとユキちゃん!」
ジャスミンさんも加わって盛り上がっていると、今さっき起きたのであろうベルさんもダイニングへ姿を現す。
目を擦りながらやって来たベルさん。だけど、アリエルさんを見た瞬間、目を見開いた。
「えっ……あ、アリエル姉様か……びっくりした……」
やっぱり姉妹から見ても、アリエルさんの可愛らしい姿は珍しいみたいだ。
「どうだいベル? なかなか似合っているだろう?」
「う、うん……っ! アリエル姉様、すっごく……可愛い……っ」
「~~~~ッ!」
照れに照れてしまって顔が真っ赤になっているアリエルさんが声にならない声を零す。
そして半ばヤケクソ気味に叫んだ。
「あぁ、もうっ、くそ! 行くぞ!」
「え!?」
「早く来い!」
姉妹から逃げ出すように駆け出したアリエルさんに力強く手を引かれ、私たちはお屋敷を飛び出したのだった。




