97 太陽神の坊 7
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どうしてニドリナがセルビアーノ商会会長の居場所を知る手がかりを持っているのか?
「簡単だ。クシャラオ伯爵……例の貴族がセルビアーノ商会の会員だからだ」
ラナンシェたちがいるので例の貴族で誤魔化しておく。シビリスはよくわかっていないが、ラナンシェはその名前に嫌な顔をした。なにか知っているのかもしれないが、掘り返したところでいいことはないだろう。
ひとしきりニドリナに嫌味を連発されている間にシビリスに親への手紙を書いてもらう。彼と父親との確執は問題が解決した後に自力でどうにかしてもらうとして、こちらは貰うものをもらうべく条件を提示していく。息子の身柄を借金帳消し付きで返してやるので太陽神の試練場への推薦状を寄こせという内容だ。もちろん仕返しを警戒してなにかの弱みは手に入れておかないといけないだろう。
手紙を書き終えたシビリスは再び【睡眠】と【麻痺】をかけて影獣の中に放っておく。ラナンシェに預けておいても迷惑なだけだろう。
「そのまま逃げてくれるなよ。君の身柄は姫が保証している。なにかあれば姫の責任になるんだからな」
「三日で解決できなかったら一度戻る」
渋い顔のラナンシェにそう告げ、おれはニドリナを連れて【飛行】の魔法を使って空を飛んだ。
あ、手紙は風の精霊に預けて神殿の礼拝所に置いてくるように命じた。
二度とごめんだというニドリナの言葉で影獣の中には収めず、彼女にも【飛行】の魔法をかけ、その制御をおれがするという形で行く。
もちろん【透過】をかけているので誰の目に止まることもない。
「クシャラオ伯爵は幾つかの場所を点々とすることで自分の居場所を特定させなかったが、いまいる場所は突き止めた」
とのことなので、ニドリナの示す地にまっすぐ向かう。
ニドリナがかつて予想したように、彼は新しい暗殺組織設立のために人材を集めている途中だった。
隠れるようにして作られた山荘で後ろ暗そうな連中とともにいるところを急襲する。
おれが派手に暴れている間にニドリナが伯爵を確保する。とくに話し合ったわけではないが、自然とそういう役割分担になった。
集められていた人間の内、成人は問答無用で叩き殺し、子供は生かしておいた。やはり子供を殺すのは後味が悪い。かといってこの後の世話をしてやれるような基盤もない。とりあえず縄を打っておいて、さてどうしたものかと考える。
考えながら、山荘にあった金目の物は全て無限管理庫に投げ込む。
そうしていると、ニドリナが伯爵を確保した場面に出くわした。
「ニドリナ! いままでの恩を忘れてこの扱いはなんだ!」
とか伯爵が騒いでいるが、彼女はまるで気にしていない。
「裏切りに目くじらを立てていてはこんな商売はできないでしょう? そもそもわたしは技術を提供し、ちゃんと対価をもらっていた。立場は対等であって恩の押し付け合いはなかったはずでは?」
ニドリナの冷静な言葉に伯爵は唸るのみだ。
おれも伯爵相手に「どやぁ」な感じで会話を楽しみたかったが、あいにくと今回はラナンシェに急げと言われている。
イルヴァンもいないのでさっさと神祖に擬態して伯爵を魅了し、必要な情報を抜き出した。
財産の在処と、会長との接触方法を聞き出す。財産の方は何カ所かに分散しているようだった。賢いやり方なのだろうが、集めるこちらとしては手間だなと顔をしかめてしまう。
そして会長との接触方法だが、伯爵も直接的な方法は知らなかった。
何人かを間に挟まなければ会長に会うことはできなかったらしい。そのときにしても姿を隠されていて、素顔を見ることもできなかったという。
しかしそれなら、その次の人間から聞けばいい。
伯爵の処分はニドリナに任せ、おれは子供たちの所に向かった。
縄を解き、それぞれに奪った金の一部を渡す。
「お前たちの人生に責任は持てないから悪人になるなとは言わない。だが、悪人になったらおれにこんな風に殺されることもあるって覚えとけ」
そう言ってすぐ側にある大人連中の死体を示すと、子供たちは何度も頷いてから逃げるように山を下りていった。
いろいろと辛い人生なのだろうが、強く生きて欲しいと思う。
そうしているとニドリナが出てきた。血の臭いがしたから片付けたのだろう。
とりあえずすぐいける場所にある伯爵の財産は回収する。それだけで一財産どころではない額になった。
残りも後できちんと回収することにしよう。
それから二日かけて五人ほど裏社会の要人を襲撃し、ついに会長の居場所が判明した。
いや、会長も実は名前だけの影武者で黒幕的な人物がその人なのだが、面倒なのでその人物を会長ということにする。
ファランツ王国公爵アーゲンティル・ランダルス、だそうだ。
たしか勇者の一人ザルドゥルの国だったか。重傷だったがはたしてあいつはどうなったのかと思いつつ、おれたちはファランツ王国に入り、公爵領に向かった。
ニドリナとの作戦会議の結果、ここは堂々と行こうとなった。
暗殺しに来たのでない。金にはならない手打ちの話をしに来たのだ。
公爵が屋敷にいることは知っている。
応対に出てきた執事にスペンザの街での衝突について話し合いたいと告げる。最初は知らないとかなんとか言っておれたちを追い払おうとしていたが、ここに着くまでに襲撃した伯爵含めて六人の名前を告げると、その執事は青い顔になって主人に伺いを立てに行った。
戻ってきた執事はおれたちを応接室に案内した。
そこで出されたお茶で喉を潤していると、白髪白髯の大柄な男が入ってきた。老人と呼ぶには動きが良い。
「スペンザでとある部門に問題が発生した……という報せが来たのは今日だ。相手はルナークという名前の冒険者だそうだが?」
老人は対面に座るなりそう言った。
「おれがルナークだ」
と答え、空になったカップを執事に見せておかわりを催促する。
「勇者アストは雷の聖霊に庇護されているというが、問題解決への動きも早いのだな」
「その名前をそちらが広めたいのなら止めないけどな、何か得でもあるのかな?」
「ないな。特にはない」
こちらのことを知っているぞと脅したいのだろうが、それならまずはここに辿り着くまでにおれたちがやらかしたことを調べるべきだろう。
「困ったほどに優秀だな。うちの一族のきれいどころを嫁にもらってくれんかな? 十年後には王にしてやるぞ」
「いや、悪いがやることがあるんで椅子を磨く仕事は勘弁願いたいね」
「はっは、国王をそんな風に言うか」
「誰かに頭を押さえられたら王様なんてそれぐらいしかやることがないじゃないか」
「ふうむ。まぁ儂もそこまで長生きはできん。そちらのお嬢さんや魔導王殿の秘密は是非とも知りたいがね」
「…………」
と、茶目っけのあるウィンクをされて、ニドリナは視線を逸らした。
なるほど、ニドリナのことも知っているか。
それにしてもこの老人、おれたちにわかりやすい敵意を向けてこないな。そんなことをするようでは世界を股にかけた大組織の頂点にはいられないってことなのかもな。
「踏んではならない尾があるということだな。今回はその勉強になったとということで手を打ちたいのだが、どうかな?」
「物わかりが良いのはありがたいが……ここに来るまでの間にもそれなりにやらかしてるわけなんだが、それもチャラでいいのかね? ついでに大神官の息子の借金も」
「もちろん。それも含めての勉強代だ」
うーん。あやしい。
あやしいのだが、こちらにとってはその方がありがたいのも事実。
鎧を着て戦場に立てばそのまま将軍とか呼ばれそうな老人は、おれの視線を笑顔で受け止めている。
「ああ、そうだ」
と、なにかを思い出したように呟いた。
ほら来た、とおれは内心で身構えた。
「それでは信じられないというのであれば、どうかな。儂に恩を売る気はないか?」
「恩?」
「孫娘が被っている受難を取り除いて欲しい」
「受難?」
「知っている」
首を傾げるおれの隣でニドリナが言った。
「三人目の娘の子だ」
「さすがは夜姫、詳しいな」
「夜姫?」
なんだその呼び名? とおれが隣を見るとニドリナがすごい勢いで目をそらした。
「そんな呼び名があったんだ。へぇ」
「わたしが名乗っていたわけじゃない!」
不本意だ! とニドリナは唇を尖らせた。
「呪いを受けているそうだな」
と、ニドリナはむりやりに話題を元に戻した。
アーゲンティルもこちらのバカ話に付き合うほどはくだけてはいないらしい。
すぐに話を続けた。
「三女は大変な器量よしでな、求婚の申し出も多かった。その中に一人、儂にとってはなんの役にも立たない、娘も嫌がっているしつこい男がいてな、それが呪いの元となっている」
「犯人がわかってるなら駆除すればいいんじゃないか?」
「したんだ。だが、呪いは残っている。神官どもにも試させたが、いまだに呪いは消えていない」
「死んでなお呪う、か。死霊にでもなっているなら駆除するが……」
「倒し方はある。だが、それに成功した者はいない」
「へぇ?」
「どうかね? この問題を解決してくれるなら、我々の間に起きた問題の手を打つだけでなく、相応の報酬を支払うと約束しよう」
「報酬もらっちゃ恩を売るにはならないが……」
「儂にとってこの問題は金ではないんだよ。むしろ、君が来てくれたことを運命だと思っている」
おおう。裏社会の大物が自分の弱みを晒してるよ。
なるほど……面白い。
「成功は約束しない。だが、やるだけのことはやろう」
「人魔の戦を壊した君にできないなら、誰にもできはしない」
アーゲンティルが大きな手を伸ばしてきたので、おれはそれに応えその場で握手をした。
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