92 太陽神の坊 2
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青年の名前はシビリスというそうだ。
「さっきは依頼を横取りしたみたいになってしまってすいません」
「ああ……別に気にするな」
そう思うなら、そもそもあのときに渡せばいいじゃないかと思うのだが、口にはしないでおいた。
「それで?」
「見ればお一人の様子。僕たちも最近冒険者を始めたばかりでまだ仲間を集めている途中なんだ。よければさきほどの依頼、一緒にこなしませんか?」
「ふうむ?」
ああ、また勧誘か。
めんどい。
ニドリナを仲間にしてからその手の勧誘は途絶えていたんだが、彼女とはさっき別行動の話をしたばかりだ。
最近始めたばかりというから、おれのことも知らなかったのだろう。
いや、言うほど冒険者として活躍もしてないから知られてなくて当然なんだけどな。
うーん。
「あの……」
おれが黙り込んでいるとシビリスは困った顔をした。
さくっと断ってしまえばいいんだが、方向が同じなんだよな。移動中に姿が見えるのは鬱陶しい。
と、おれはそこで鎧に薄く描かれた紋章に目が止まった。
「もしかして、太陽神の神官?」
「あ、はい。聖戦士目指して修行中なんです」
なるほど。
聖戦士修行中の太陽神の神官に恩を売るのも、ありかもしれない。
「なら、いいぜ」
というわけでシビリスとその仲間たちとともに依頼をこなすことになった。
シビリスの仲間は魔法使いのセリと戦士のキファ、そして斥候のガダルの三人だった。
ガダルはおれよりも少し年上の男性で、残りの二人はシビリスと同い年くらいの女性だった。
女性陣二人は冒険者になるべくスペンザの街に来たばかり、ガダルは別の街で冒険者をしていたが、パーティを抜けて流れて来たばかりという話だった。
おれも簡単に自己紹介をする。
仲間がいるが、そいつはいま別行動中。一人だと基本素材採集をしている。
「なにができるんですか?」
魔法使いのセリが挑戦的な口調で聞いてきた。
「ちょっと、言い方が失礼じゃない?」
「だって、なんだか装備がぱっとしないんだもの」
キファが窘めたのだが、セリの反論に苦笑を浮かべる。
言いたいことはわかる。
おれの格好は暗殺者が着ていたものを改造した革の服に、なるべく目立たない形にさせた黒号を吊るすというもの。
戦士と呼ぶには軽装で、斥候と呼ぶには武器が重そう。確かに職業的なわかりやすさはないな。
「聖戦士のなり損ねだ」
いろいろと考えた結果、以前にケインたちに言ったものを思い出した。
「聖戦士?」
「そう。戦神のな。だけどあいにく神様の方がおれを気に入ってくれなかった」
「……それなら剣だけでなく魔法も使えるんですね」
「ああ。怪我の回復なら任せとけ」
愛想よく答えたのだが、キファの声が少し引きつっていた。
「でも、それならシビリスがいるじゃない」
セリは言いたいことを言う性格のようだ。
まぁ、たしかに役割分担的におれはいらない子だよな。
「なら、シビリスが攻撃寄り、おれが回復寄りでいいだろ? どうせ今回限りだ」
「え?」
「お仲間に嫌われたんじゃしかたないだろ。別に不和を撒いてまでこのパーティに居座りたい理由もない。おれには他に仲間がいるしな」
「な、なによそれ……」
「お仲間って、もしかしてあの仮面を被ってる斥候か?」
少し勢いが減ったセリに変わって聞いてきたのはガダルだ。
「ああ」
「仮面の下はきれいだよな。ガキっぽいが」
「まぁな。ていうかさっき喫茶室にいたのか?」
「ああ」
「目敏いな」
「それがおれの仕事だ」
ガダルがにやりと笑い、それで会話が途切れた。
セリはキファに小声で注意されている。パーティ内の不和がどうとかそんな感じの言葉が聞こえてくる。
シビリスは少し先を行きガダルとなにかを話している。こっちは小声でよく聞こえない。
とはいえ聞き逃すはずもなく、おれはもうすぐ到着する山を見上げた。
治安調査の目標の一つである砦の一部がここからでも見える。
遙かな昔、近辺を根城にしていた盗賊団を退治するための駐屯地として使われていたものの一部だそうだが、いまではそれを山賊に利用されそうになっている。
山に入ると、おれは肩にかけていた籠を手に持ち、見つけた薬草や山菜を採取していく。
治安調査依頼は向こうの提案で手伝うことになっているが、おれの採取依頼はこっちが勝手にやることになっている。
調査依頼の方は洞窟と砦跡の二箇所を見ることになっている。
たぶん、二箇所を移動している間に溜まるだろうとは思うが、そうでなかったら一人で居残りだな。
テテフィと夕食を一緒にする約束をしているから、できればそんなことになりたくないんだが。
「手伝うわ」
そんなことを考えていると、セリが数枚の薬草の葉をおれに差しだしてきた。
「この依頼は共同じゃないぞ?」
「知ってるわよ!」
セリが真っ赤な顔で叫んだ。
「大声出すなよ。無駄に魔物を呼ぶぞ」
「ご、ごめんなさい。魔物、いるの?」
「それを調べに来たんだろ」
「うっ……」
そんなことを言いながらひょいひょいと薬草や山菜、ついでにキノコも拾っておく。依頼は受けていないが後で売ればいいし、売れなければ自分で食べるだけだ。
「さっきはごめんなさい」
黙々と薬草採りを手伝っていたセリがそんなことを言った。
「実はこの依頼が初めてで緊張してたから」
「そうか」
「だから、イライラして八つ当たりしちゃった。ごめんなさい」
「いいさ。そんな気分のときもあるだろうよ」
おれの返事にセリがきょとんとした顔で見てきた。
「なんだよ?」
「意外、もうちょっと嫌味を言われるかと思った」
「初めての仲間を警戒するのは冒険者としては良い傾向だと思うぜ?」
「そ、そうかな?」
「できたら、それは嫌味ではなく相手の行動を見ることに集中した方が良いと思うけどな」
「うう……やっぱり嫌味は言うんじゃない」
「嫌味じゃなくて助言だ」
まぁしかし、セリのおかげで依頼分の薬草と山菜が最初の調査地点である洞窟に着く前に集め終わった。
「さあ、行こうか」
「待った」
シビリスが景気よく洞窟に洞窟に入ろうとしたが、おれがそれに待ったをかけた。
「なんだい?」
「魔物がいるだろ?」
「なっ!」
おれの言葉に全員が驚いた。
「どうして、それがわかるの?」
「むしろどうしてわからない?」
キファの質問におれは洞窟から少し離れたところにある草むらを蹴り分けた。
そこに少し乾いた糞が溜まっていた。草の合間に穴を開けて、そこでする知恵はあるようだが、あいにくと穴から外れたものが散らばっている。
「一人だと採集ぐらいしかやらないけどな、それでも魔物がいそうな場所は鼻が利くようになった。穴まで掘る知恵があるってことはゴブリンとかだろうな」
「……シビリス、気をつけて行こう」
「あ、ああ……」
キファが納得してくれ、シビリスを促す。
「いや、依頼は調査だろ? 倒せば追加報酬はもらえるかもしれないが、無理に倒す必要もないぞ」
ゴブリン本体はまだ見ていないが、この糞の山は危険を感じて撤退したという理由にはなるだろう。
「あ、ああ……そうだった。どうする?」
シビリスは完全に混乱した様子でおれに意見を求めてくる。
「とりあえず、砦の方も見てみたらどうだ?」
さっきの感想も添えておれがそう言うとシビリスたちはそれに賛同した。
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