91 太陽神の坊 1
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冒険者の宿でベッドに転がったら一気に腰が重くなった。
埃の溜まった部屋を掃除したらそれ以外にやる気が起きなくて三日ほどゴロゴロした。
四日目にニドリナに蹴られた。
「休憩は終わりだ」
「うーん。まだめんどいな」
「試練場へ行く話はどうした?」
「それなぁ……」
おれはのっそりと起き上がってあくびをする。
ラーナに圧倒的差を見せつけられ、おれはこれから先の目的ができた。
強くなる。
あの地獄を潜り抜けたことなど、まだ始まりでしかなかったのだ。
おれはまだまだ強くなる。
強くなれる。
おれが勇者なのか冒険者なのか、あるいはそれ以外のなにかなのかとか、そんなことを考えているよりははるかにわかりやすい。
結局、いまのおれには強さしかないのだ。
ならばその強さを究極にまで極めることを考えてなにが悪いというのか。
ということで、強くなることが目的である。
となるとどこでそれをするかなのだが。
有名どころだと他の神々の試練場になるのだが、戦神の試練場以外は他者に開かれていないからな。
入ろうと思うと手続きとか政治的思惑とかが絡んでいてめんどうだ。
戦神の試練場におれたち三人が揃ったのだって、そういうのの化学反応の結果らしいしな。
どうやって入るべきか……。
というわけで方法を考えていたらなんだか面倒になってきたのだった。
「……もぐりこむか?」
「あそこは入り口を神官が管理しているからその方法は無理だ」
「なら、許可証の偽造とか?」
「無理だ」
「なら、そこらの神官脅して……」
「どうして普通の方法で入ろうと思わない?」
ニドリナにまともなことを言われておれは「うーん」と唸った。
「で? まともな方法ってどうやるんだ?」
「知らなかったのならそう言え!」
「いや、入るのが面倒ってことしか知らなかった」
「まったく……」
ぶつぶつ言いながらニドリナが説明してくれた。
各神の試練場に入るためには貴族と神官からの推薦状が必要になるのだそうだ。
「貴族からな……それならルニルに頼めばいいんじゃないか?」
「そうだな。そのことに気が付いてくれて嬉しいな」
「バカにされてるなぁ」
「バカだろう」
もちろん、貴族からだけでなく神官からも推薦状を得なくてはならない。
「この近くの試練場というと?」
「グルンバルン帝国の太陽神の試練場。インタニーア王国の地母神の試練場だな。美神や楽神、賢神はここからでは遠いし、四霊神や眷属神たちの試練場は神出鬼没だ」
「なるほどな」
「だから行くなら地母神……」
「いや、太陽神だろう」
「は?」
おれの言葉にニドリナが信じられないという顔をした。
「お前……たしかグルンバルン帝国の勇者に嫌われているよな?」
「そうだな」
「なら、なぜ?」
ニドリナはユーリッヒが手を回しておれを太陽神の試練場に入れなくすることを怖れているのだろう。
「そうした方が面白いだろう?」
そう言ったおれに、ニドリナはとても長いため息を吐いた。
反論するのもバカバカしいと顔に書いてあるのだが、おれは無視する。
「では、太陽神に仕えている高位の神官の推薦状を手に入れなければな」
「スペンザにもいるだろう。行ってみるか」
「そうだな」
そういうわけで向かったのだが、神官には会えなかった。
受付に出た神官が困った奴を見る目でおれたちの対応をする。
「神官長はお忙しい方です。お約束がなくてはな」
「そうか」
「それに、お言葉ですが試練場への推薦状でしたら功績のある方でなければ」
「功績というと、どういうことを?」
「そうですね。神殿への奉仕などになります」
「奉仕というと?」
「神殿の清掃や活動の補助などですが……冒険者の方でしたら神殿から出ている依頼を無償で行っていただくなどもありがたいです」
「なるほどな」
「あっ、もっとわかりやすいものもありますよ」
「と、言うと?」
とおれの質問に神官はにこにこして答えなかった。
いや、その態度がいろいろと教えている。
腹の辺りで組まれていた手がこっそりと丸を作っていた。
銭、金貨、マネー。
最後に物を言うのはお金である。
「なるほどね。よくわかった。ちなみにおいくらほど?」
「それは、お気持ちとしかお答えできかねます」
「なるほどなるほど」
この神官が明言できないだけなのか、あるいはお気持ちという言葉で無限に引き出させる気なのか。
というわけで一旦撤退し、冒険者ギルドの喫茶室に移動した。
「さて、どうするかね?」
よく冷えた果実水を飲みながらおれは問いかけるが、ニドリナもはっきりしたことは言わなかった。
来たときに依頼札を確認したが、太陽神神殿からの依頼は幾つかあった。
巡礼者の護衛や神殿で使う素材の採集などの依頼だ。
素材なんかは別の依頼のついでで集めて来ればいいだろうが、しかしこんな地味な依頼を幾つこなせばいいというのか。
一発で推薦状を書いてしまうような派手なものはないものか。
「金の延べ棒一本出した方が早くないか?」
気楽に言うと睨まれた。
「それはお前が用意するんだろうな?」
「あの村から手に入れた物を全部売り払っても延べ棒にはならないだろうなぁ」
一部の毒薬とかは下手に売りさばくと衛士に追いかけられそうになるものもあるしな。
無限管理庫の武器を幾つか売ってもいいが、それはそれで目立つことになりそうだし。
「あっ、例の貴族のとこに挨拶しに行くか?」
例の貴族というのはニドリナが作った暗殺者集団やブラックドラゴンとかいう恥ずかしい名前の集団を作っていた黒幕のことだ。
ニドリナはその貴族の正体を突き止めていると言うし、鉄拳交渉しに行ってもいいのではないかと思うのだが。
昔の偉い魔法使いも言っていたではないか、「悪人に人権はない」と。
「そうだな。うちも潰れて、ブラックドラゴンも活動が低下しているとなると他の組織を作る投資を始めるかもしれないな。そうなると手持ちの財産が減ることになる。……減る前に回収に向かうべきかもしれないな」
「そうだろう。そうだろう」
「なら、わたしはそいつを探しに行くとしよう」
「うん? 居場所はわかってるんだろう?」
「そんな簡単な相手ではない。わたしは探しに行くから、お前は神官たちの心証を少しはよくする努力をしておけ」
「心証ねぇ……」
「無駄に喧嘩を売るんじゃないぞ」
念を押すとニドリナは果実水を飲み干して仮面を被り直し、去っていった。
果実水を飲むニドリナの姿を盗み見していた何人かが残念げなため息を零す。
まぁな、普通に美少女だからな。ニドリナはそれが嫌で仮面を被っているが、できればいつもそれを外していて欲しいと願われているのだろう。
まっ、ニドリナがそうしたくない以上、おれも知ったことではないが。
しかたないのでついででこなせる素材採取系の依頼札をとり、同じ場所でなにかないかと見ていると治安調査の依頼札を見つけた。
スペンザ近辺の洞窟や打ち捨てられた遺跡・砦などを見て回り、山賊や魔物がいないかどうかを確認する依頼だ。
神殿からの依頼は薬草の材料になる物で、治安調査の方は薬草が採れる山の中にある洞窟と昔の砦を調べてこいというものだった。
ちょうどいいなと思ってそれを取ろうとしていると、横からそれを取られた。
「うん?」
「失礼」
そう言って去っていったのは立派な鎧を着た若者だ。青年になったばかりという雰囲気だが、金髪碧眼の良い見た目と育ちの良さを感じさせる颯爽とした所作が人の目を引いている。
そのまま受付へと向かっていく背中を少しだけ見、おれは気分を切り替えた。
まっ、こういうのは早い者勝ちだしな。
というわけで同じ場所で採れるだろう薬草や山菜の依頼を確保しておく。あの山なら普通に鹿や猪なども狙えるが、そっちは確保してからでも問題ないだろう。
「お久しぶりですね、ルナークさん」
にっこりと笑うテテフィの笑顔には毒しかなかった。
ああ、そういえば、まだ前の依頼の事情説明をしていなかったなぁ……と思い出す。
「こんなご依頼でいいんですか?」
「嫌味はいいよ。聞きたいなら夕食の店を選んどいてくれ」
「……奢りですよね?」
「逞しくなったなぁ」
アルビノの美女は周囲にいた男どもを魅了する笑みを浮かべて、おれに依頼札の半券を返した。
さて、夕食の約束も取り付けたし、夕方までにはこの依頼も終わらせないとな。
「ちょっといいですか?」
そう思っていると声をかけられた。
振りかえると、そこにいたのはさっきの立派な鎧を着た青年だった。
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