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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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89 世界を壊す茶番劇 4

ただいまアルファポリスの「第11回ファンタジー小説大賞」にエントリーしています。

よろしければ投票をお願いします。(2018/09)


 幼い頃から知っていた女性が乾き死んだ。

 そのことに色々な思いが交錯するのだが、それが表情に出ることはなかった。余りに急な出来事のためか、心が麻痺してしまっているのかもしれない。


「……ルナークの関係者なのか?」


 口から出たのはそんな質問だけだった。

 それに、吸血鬼はナズリーンの喉から牙を外すことなくこちらを見、微笑みと共に人差し指を立てた。


 秘密。

 あるいは知らない方がいいということだろう。


 その仕種から、元は貴族の令嬢なのではないかと思えた。

 だがそれもたいして意味のある気付きではない。


 大事なのは、そこにいるおそろしいものが敵ではないということだ。

 そして、それを使役しているだろうもっと恐ろしいものはどこでなにをしているのか、という疑問。


「失礼します!」


 凛とした声とともにドアが開けられたとき、ルニルは少しだけ思考に埋没していた。

 ハッとして我に返ると吸血鬼の姿はなく、代わりにラナンシェが立っていた。


 ルナークに突っかかった女戦士は顔を青くさせてこちらを見ていた。


「どうしたのですか?」

「大変な状況になっていまして……」

「大変……とは?」

「出撃していた戦士団のほとんどが壊滅。そのために現在、謹慎中のタラリリカ戦士団の出動を要請したいのですが、将軍はルナーク王子……いえ、あなたの命令でなければ動かないと」

「あなたは出撃しなかったのですか?」


 言葉を濁すラナンシェにルニルは質問する。彼女はグルンバルン帝国の所属だったはずだ。


「……実を言うと、わたしもこの前の一件で謹慎処分を受けていたものですから」


 恥じるように声を細めてラナンシェは答える。

 それはあなただけの責任ではないでしょうと思ったが、口にはしなかった。


「さきほどの震動ですか?」

「はい」

「なにが起きているのですか?」

「それは……」


 今度の言い淀みは言いたくないのではなく、どう説明すればいいのかわからない、という様子だった。


 そして、次なる震動が起きる。


 その正体を確かめようとルニルたちが外に出て目撃するのは、大要塞の前に広がる巨大な赤い海だった。



†††††



 おれたちの作り出したクレーターに溶岩が満ちるのを見下ろしながら、尋ねる。


「で、これからどうするんだ?」

「そうね……目的は達成したわね」

「戦場が潰れた。これからは内乱が起きるんじゃないか?」


 ここは戦場であると同時に北と南を繋ぐ唯一の道でもあった。

 道があったから両者はそちらから訪れる者を怖れて戦いになった。

 そしていま、道は潰れた。


 人類と魔族、お互いにわかりやすい敵を失った両者は、研いだ牙を向ける先を求める事になるだろう。

 元より一枚岩だったわけではないのだから。


「最初はここをそのまま残して完全な均衡を作る気だった。だけど、その必要がなくなった。だって、あなたが帰ってきたから」

「おれ?」

「魔太子も魔王も、あなたの前では敵にすらなれない。クウザンとディザムニアはいい生贄になってくれたわ。あなたという存在を魔族たちに強く刻みつけることができた」

「おれとお前で均衡を作ろうっていうのか?」

「いいえ。違う」

「うん」

「わたしたちで………………のよ」

「なに?」


 その言葉を聞き返すことはできなかった。

 唇で言葉を防がれてしまったからだ。


「だけどあなたはまだ、わたしよりも三百年分弱い。まずはその時間を埋めてきなさい」

「それは、どういう……」

「魔力発生炉を迷宮作りのためではなく、その身に打っているでしょう? その発想は素晴らしいけれど、まだまだよ」


 そのことはアルヴァリエトリらとやりあったときに見抜かれたことはわかっていた。

 おれ自身、まだ模索中であることは認めているが、しかし……。


「あなたのそれ、その三百年後を見せてあげる」

「なに?」

「それを見て、対策してきなさい。できるものなら」


 その挑発に、受けて立つと答える暇もなかった。


 なにかに突き飛ばされるように、おれとラーナとの距離が開く。

 そのなにかは、強い力だ。


 いまのおれが強いと感じるような力だ。


 死光のそれとはまた違う、単純にして強力な力。

 膨大にして超高密度の魔力が発生し、おれとラーナの間に壁を作った。


 そこでおれは、見た。


 ラーナの背後に展開する光の紋様を……。


 それは……。


「蝶の翅?」


 紫を基本として変幻する光の線が複雑に折り重なっているが、その外側の形が蝶の翅に似ていた。


 そしてそれは、ただの飾りではない。


「はっは……こいつはすげぇ」


 さっきまでの戦いが子供のお遊びに思えるほどの濃密な魔力が放たれている。

 そしてまた、これでもラーナが抑えた状態だということがわかってしまうのが腹立たしい。


 三百年の差か。


 おれをただ待っていただけではなく、はるかに追い越していったわけだ。

 それはとても彼女らしいと……おれは腹立たしさとともに納得する。


 ラーナがただの、待つだけの女であるはずがない。


 彼女はただ一人であの地獄を下った末で出会ったのだから。


「……ところでラーナ」

「うん?」

「腕試しはまだ終わっていないよな?」

「あら……まだする気?」

「もちろん。ルールの変更はなしでいいよな?」

「いいけど。……ふふ、手加減はしないわよ」

「上等だ!」


 こうしておれたちはまたしばらく戦いを続けた。

 そのおかげでかつての戦場はさらにすごいことになったのだが、それはまぁ……もうここまで来たらどうってことないだろうと勝手に思い込んでおく。


 そうやって夜明けまで思う存分に戦い続け、おれたちはとりあえずの別れを告げた。


 タラリリカとのあれこれはちゃんと続行するそうなので、すぐに再会する事になるだろう。


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