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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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88 世界を壊す茶番劇 3

ただいまアルファポリスの「第11回ファンタジー小説大賞」にエントリーしています。

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 主戦場に残っていたユーリッヒとザルドゥルが生き残りをまとめて大要塞に戻り、アルヴァリエトリの懇願で救出されたオーガの魔太子も大人しく退いていった。


 それでも魔族側の塹壕帯にはまだいくつかの気配の塊が残っている。アルヴァリエトリが撤退を叫びながら大要塞に向かったのだが、その言葉を聞かなかった者たちがいるようだ。


 獣王は自分の言葉を聞かない者たちを無理に退かせようという気はないらしく、さっさと大要塞に入っていった。


「わーるいこと考えてるだろう?」


 剣のやりとりをしながらおれが言うと、ラーナは素知らぬ顔を通す。

 笑みで誤魔化すことすらしないとは。

 ああ、これは本気で悪いことを考えているな。


「まぁいいさ。乗ってやるよ」


 さっきから無数の視線がおれたちに注がれている。単純な感覚強化の魔法だったり、それとは違う遠くを見る魔法だったりするのだろう。魔導王の【瞳】ほどの精巧さはないが、知識欲がそこに込められている。


 突然現われたおれがなんなのかを知りたいというのもあるだろうが、それ以上にラーナのことを知りたがっているように感じられた。


「ありがとう」


 素直な感謝の言葉も、斬撃を放ちながらでは真実味に欠ける。

 そしてそれが最後の一撃だった。


 おれたちが持っていた伝説級武器……焔刃紋戦太刀と月代山影がぶつかり合い、そして砕けた。


 瞬間、万を超える斬撃によってこの場に収束していた衝撃が解放を求めて膨張を開始した。

 そこにあったのはもはやただの斬撃の名残でも真空波でも衝撃波でもない。純粋なる力の結晶体であり、ある意味ではおれたち二人の愛の結晶だ。


 それは二振りの伝説級武器の粉砕をきっかけに解放され、無音のエネルギー波となって拡散する。


 誕生したエネルギーは見事な球形を維持しながら膨張を続け、周囲の土砂を飲み込み、人類側のクレーターを、そして魔族側の塹壕帯をその内に取り入れた。


 膨張が停止したエネルギーの拡散は抵抗の少ない空へと指向していき、雲を巻き込んで空を突く。

 そのときには赤い炎へとエネルギーは遷移し、周囲に高熱を撒き散らしていた。


 塹壕帯に残っていたバカどもはこれで死んだな。

 大規模魔法と同じぐらいのことがおれたちにできないと思ったか?

 自分たちの頂点にいる大魔王を舐めているからそんなことになってしまうのだ。


 そんなことを考えながらキノコ雲を見つめるおれは空にあり、その姿は先ほどとは違う。退避のついでに無限管理庫に入って装備を整えたのだ。


 天雷大聖という名の長剣を手に雷獣戦衣という名の上衣を着ている。雷属性で揃えたのは聖霊の関係もあっておれとの相性がいいからだ。


 雷獣という魔物の毛皮を使って作られた上衣は飛行を可能にする。飛行に魔法の一手を奪われないようにとこの選択にした。


 さて、ラーナはどうしたかな?


 と、気配がした方を見れば彼女もとっくに準備を終えて近づいて来ていた。


 月天羽衣に夜啼之弓だ。

 月属性で揃えてきているが……さて、この属性はどんなものだったか。

 おれと同じ考えで揃えているのだとしたら、ラーナの聖霊は月属性ということになる。


 雲よりも高い位置にいるおれたちの頭上には見事な円を描く月がある。

 月属性が月下にいるとは、これは油断のできない状況だな。


 まぁ、そこら辺はこっちもいろいろと考えてはいるが。


「雷雲の上に雷聖霊の勇者がいるとか、ゾッとしないわね」


 おっと、すでにラーナは気付いているか。

 爆発でできた雲を足下にとどめさせ、雷雲を形成していたのだがとっくに見抜かれていたようだ。


「そっちこそ、ずいぶんと珍しい聖霊に気に入られているんだな」

「ふふ、その様子だとあなたも対処が確立できていないみたいね」

「さあて、どうかな?」


 いや、できてないけどな。


 月属性を使う魔物がいなかったわけではないが、そういう連中は往々にして近接戦に持っていくと簡単に勝つことができた。

 だが、さっきの剣でのやり合いからして近接戦が不得意なはずもない。


 精神侵蝕とか認知錯誤……幻影を得意とするイメージだが、はたしてそれだけなのかどうか。


「謎は女を魅力的に見せるものよね」


 月光を浴びてラーナは妖艶に微笑む。


 そのすぐ後に矢を放ってくるのだから、まったく油断がならない。


 夜啼之弓から放たれる矢はただの矢ではない。

 特殊な波動を撒き散らしながら駆け抜ける矢は、周囲に幻を発生させる。


 ラーナの姿がそこら中に現われ、夜空に原色が散りばめられていく。


 さっそくわかりやすい月属性で攻めてきたか。

 周囲に現われた幻のラーナの実在感はクウザンの霧よりもはるかに上だ。

 さすがに幻と見きってあえて受けるとか、そんなことは怖くてできない。


 ならば……全て受けるか避けるかしてみせるしかないだろう。


 天雷大聖を構え、おれは全方位から襲いかかる矢に対応していく。虚実混ざった攻撃に対する基本的な対応だ。

 ラーナの数はどんどん増えていき、降り注ぐ矢はすでに雨となっている。


 天雷大聖は振るごとに雷光を放ち、雷蛇が周囲を走るのだが、矢への対応は全て剣身で行った。雷を無効化してくる可能性もあるし、別の考えもある。


 こちらもいつまでも受け身でいるわけにはいかないしな。


 空のあちこちを移動して矢を切り落としたり回避しつつラーナの幻を追いかけて一つ一つ潰していく。


 しかしこのままだと、最初の剣同士のやりあいと同じでお互いに武器を壊す結果になるだけだ。

 お互い伝説級の武器なら余裕を持って所蔵しているだろうが、しかしもったいない使い方になる。


 しかし、本物のラーナの位置がわからない以上、こちらは後手に回るしかないわけで……さて、彼女はなにを考えているのか?


 と、いっても……完全に読めていないわけでもない。


 こんな空の上で戦っていたら、あいつらには見えないからな。


 周囲に十分な魔力が満ち、おれがいまだと読んだとき、無数にあったラーナの幻が全て消え、天上にただ一人が残った。


 引き絞った弓には月気を吸った魔力が収束している。そこに生まれた青い光におれはぎょっとした。


「死光か!」


 あのダンジョンでも希にしか見られなかった毒の光だ。あれを間近で受けたらさすがに洒落にならん。


 死光は月属性だったのか。


「死なないでね」

「無茶を言う!」


 即座にこちらの準備していた策を実行する。

 天雷大聖を振りまくって発生した雷気をこちらも溜め込んでいたのだ。


 収束させた雷気を込め、おれは天雷大聖を振るう。


【死矢奮迅】

【魂斬夢幻】


 奇しくも共闘で使った技をどちらも選び、月気と雷気が衝突する。

 衝突した二つのエネルギーはおれたちが放射を維持することでその場で停滞していたが、おれが不意に横に退けたことで均衡が崩れるや、二つの属性が混ざり合ったエネルギー球となって大地へと一直線に下っていった。


 すでに大爆発によって地下深くに抉れていた地面にそのエネルギー球は飛び込んでいく。

 即座の爆発は起こらなかった。

【死矢奮迅】と【魂斬夢幻】二つの技の影響がいまだにそれには残り、地面を貫き切り裂いて、下へ下へと向かっていく。


 これこそが、ラーナの望んでいた展開だ。


「しらねぇぞ」


 次に起こることを予想し、おれは思わずそう言ってしまう。


「いいのよ。とことんまでやってしまいましょう」


 結果を確かめるべくゆっくりと高度を下げるおれたちの所にやがてその音が届いてくる。


 重苦しい振動音。

 不吉さを漂わせたその音とともにそれが姿を現わす。


 地面を裂いて吹き上がる。


 それは溶岩だ。


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