85 路傍の石のように 5
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こうすればこの事態を打開できる。敵を倒すことができる。
そう思いながらも現実の体はその通りには動いてくれない。あるいは思考に肉体が追いついてくれない。
どれだけ体を鍛えようとも、魔力を練り上げようともその問題が解決することはなかった。身体能力の上昇に合わせて知覚も向上されることが原因だとわかっていたが、どれだけ訓練を重ねても、その二つが同調することはなかった。
知覚の感度を落とせばよいのだという考えはグアガラダインにはない。一度見てしまった高みから下りる気などない。自分にはまだ登れる高みがあるのだと考えれば訓練への気分を維持できるが、しかし実戦ではその誤差で命を失いかけない事態に陥ったこともある。
その苛立ちへの解としてゾ・ウーが用意したのが強化装甲服だった。金属生命体を繊維とするこの装甲服は装着者の神経と同調し、脳からの肉体への指示をより早く受信し、そしてより速く肉体を動かすことができるようになった。
こうしてついにグアガラダインの知覚と肉体は完全に同調した。
その成果は三人の勇者を相手にしたことで実証できた。
自分は強くなった。
そう思っていたのだが。
「うっわ、すっげぇ毛むくじゃら」
矢を放って距離を保とうとするザルドゥルを着実に追いつめていると、いきなりそんな言葉をかけられた。
グアガラダインは緊張した。冷や汗が溢れ出て止まらない。
気付かないままに、その男は自分の間合いに入り込んでいたのだ。
「アスト!」
ザルドゥルがそう呼んだのは青年に成り立てのような男だ。年代的には四人の勇者とそれほど違いはなさそうだ。
とは思うのだが、どうにも違和感を覚えもする。外見通りの若さを感じながら同時に年経たエルフのような静謐さがあるようにも思えるし、眼光の奥に血に狂ったオーガよりも恐ろしいものが存在しているような印象を受けもする。
外見以上の深さを持った青年は、構えもなく無手のままグアガラダインの間合いにさらに深く入り込んでくる。
「まぁもう存分に暴れたろ? 帰れ。な?」
「ぬうあああああああああああああ!」
気軽に声をかけてくるアストと呼ばれた青年にグアガラダインは横薙ぎの一閃を叩き込んだ。
青龍偃月刀の軌道は間違いなく青年の胴体をクリファと同じ運命にするはずだったのだが、寸前で姿を見失う。
「どこへ!?」
まさかいまのグアガラダインが見失うなどあるはずが……そう思っていると視界が手で隠された。
「じゃあ、寝ろ」
冷たい言葉が耳を打つや、その手がグアガラダインの顔を掴み、そしてそのまま押し倒す。
グアガラダインは為す術もなく後頭部を地面に打ち付けられ、意識を断ち切られたのだった。
「ア……アスト?」
信じられないという空気を含んだ言葉を無視し、おれは血まみれのザルドに近づくと怪我の具合を確かめた。
顔の半分に裂傷が刻まれ、あちこちにも骨折の後がある。自分で回復魔法をかけたのか、それら全てが中途半端に傷を埋めているという状況だった。下位の回復魔法で重傷を治そうとするとこういうことになる。
「片目、見えてないだろ? 半端に治しやがって、これを治すのは手間だぞ」
一度回復魔法で治癒した傷をさらに完璧な状態に戻すというのは案外手間なのだ。
「おれよりも、ユーリッヒを頼む。魔王が……」
「魔王?」
「ああ……鉄塊王ディザムニアだ」
ちらっとクレーターの中央を見るとドワーフらしき強そうなのとユーリッヒが対峙している。少し遠巻きに対決を囲んでいるのはオーガの部隊か。
連中の視線は全ておれに向けられていた。
「ユーリッヒをたすけてくれ」
「あいつがおれにたすけられることを望んでいると思うか?」
「うっ……」
おれの問いにザルドが言葉を詰まらせる。
そう。望んでいるはずがない。そしておれがあいつを恨んでいることもザルドは承知している。
それでもザルドはなにかを言い募ろうとする。その態度は最初に会ったときのようなふざけた雰囲気はない。誰よりも生真面目な顔でユーリッヒの命を願う。
「あいつとお前の出会いが最悪だったことは承知している。だが、あいつはこれからの人類に必要な男なんだ」
ザルドゥル。
意外に熱い男だったかと思いつつ、おれはにやりと笑った。
それに嫌な予感を覚えたようだが、おれとしては知ったことじゃない。
「おれにたすけられることほどあいつにとって屈辱はないだろうな」
そう言い捨てると、おれはクレーターの中央へと向かう。
その行く手を遮ろうとオーガの部隊が迫ってくる。
そいつらへの対応はもう決めてある。
「こいつはどうなるかな?」
おれは黒号を抜く。
黒号【真力覚醒】・付与・【上位召喚】・水精王・【王獣解放】
ゾ・ウーの使った【狂餓解放】を応用してみた。召喚した水の上位精霊を媒体として姿を与えようという試みだ。【狂餓解放】は制御が利かなそうだったからな。こっちなら命令を聞くはずだ。
地面に突き刺した黒号は魔法の完成と共にその体積を膨張させ、異形化を開始する。
簡単に説明すれば、それはヒドラをよりひどくした多頭竜だ。金属の鱗は黒と赤で照明弾の光を照り返し、赤紫色の瞳は眼光を放ってオーガたちを見据え、その巨大で無数の顎で次々と捕らえて噛み砕いていく。
全部ではないだろうが相手もゾ・ウーの新兵器を使い、こちらもゾ・ウーの剣でやり返している。
その状況が少し面白いなと思いながら多頭竜の影で無限管理庫に入り、以前に使った焔刃紋戦太刀がすぐ近くにあったのでそれを引っ張り出した。
無手でもやれるだろうが、なんだか格好が付かない気がしたのだ。
「貴様は何者だ!?」
ドワーフ魔王の誰何をおれは無視し、近寄らせないユーリッヒを遠くから確かめる。無傷ではないがたいした怪我もしていない。【聖霊憑依】の維持限界が近いぐらいか。
……つまらん、もっと負傷していたらよかったのに。
「貴様っ!」
無視と取られたか魔王が怒鳴ってくる。
「なぁ、もうここらで痛み分けってことにしないか?」
「なんだと!?」
ディザムニアだったか? 魔王に向かっておれはそう言った。
「見当たらないし、クリファは死んだんだろ? こっちはゴブリンの魔太子を殺した。戦士たちも計算に入れたらこっちの方がきつい目にあっているが、ここらで手打ちってことにしてやってもいいぜ?」
「ふざけるな!」
おれの提案はあっさりと却下されてしまった。
うーん、冷静に状況を分析すればここらが引き時ってわかるだろうに。あれだな。いきなり均衡が崩れて慌てているのは実は攻め側も同様だったってことか?
まぁ、それならそれで。
「なら、あんたの首も飛ばすか」
そうすれば、さすがに魔族の連中もびびるだろ。
「ふざけろ!」
おれの気軽な調子にディザムニアは髭まみれの顔を真っ赤に染めた。
【王霊装威】・【無情残虐】・【真力覚醒】・【剛剣轟断】
怒りのディザムニアが聖霊の昇華した王霊を身に纏い、作り上げた巨剣によって剣技を放つ。
「魔王が威を受けるがよい!」
別名は……鉄塊王だったか。巨剣を振るって迫る姿は確かに鉄塊王って感じだ。さっきの戦士たちを潰したやり方にしてもそうだな。あれはアルヴァリエトリにも感じなかった魔力の大きさだった。
ゾ・ウーの強化装甲服以上の隠し球がありそうだが、それを暴く暇はなさそうだ。
焔刃紋戦太刀【真力覚醒】・【覇雷】・重唱・付与・【鋼滑り】
壊すものを気にすることもない。殺しを禁じられてもいない。周りへの余波も考えなくていい。
こんな楽な場所で、たかが魔王一人を相手におれが苦労するはずもない。
斬。
魔王の巨剣がおれに迫るが、かまうことなくそれを巻き込む軌跡で斬鉄の技を放つ。
巨剣を斬り飛ばし、そしてそのまま切っ先はディザムニアの首に届く。武器特有の炎と付与した【覇雷】が放つ余波は魔王の首を焼き、クレーターの向こう側、待機していた魔族の軍にまで届いたようだった。
さらに被害が拡大したようだが、それは撤退を命じなかった魔王の責任だ。
おれの知ったこっちゃない。
「まったく、なんでこんなことになってんだ?」
オーガの部隊を食い尽くした黒号に戻るよう命じ、おれはため息と共にそう語りかけた。
誰に?
決まってる。
「なぁ、ラーナ?」
「ごめんなさいね。どうも悪樹王が暴走したみたいで」
そんなことを言いながら空から下りてきたのはラーナリングイン。
大魔王だった。
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