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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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79 風は暗所より 3

ただいまアルファポリスの「第11回ファンタジー小説大賞」にエントリーしています。

よろしければ投票をお願いします。(2018/09)


 ルナークたちが捕まってから一週間が過ぎた。

 事前に危機を察知して身を隠したニドリナだが、その身はいまだに大要塞の中にあった。さすがに人類の最前線にいる戦士たちの気配察知は見事だが、それでもニドリナを捕らえきることはできない。


 悠々と一週間を過ごし、そして今日、地下牢へと向かった。

 死にはしないが、弱ってはいるだろう。


 そんな彼に救出を条件に取引を持ちかけ、彼に奪われた金塊を取り返す。

 それがニドリナの算段だった。


「ふふ……食べ物を与えられず拷問にあっていればさすがのあいつも弱っていることだろう」


 その姿を見れば少しは気分がすっとするかもしれない。


 気配を殺して牢番の横をすり抜け、奥へと向かっていく。地下牢には他に誰もいない。こんなところでわざわざ牢に入るような不心得者もそうはいないのだろう。


 牢へ近づくと聞こえてきたすすり泣きにニドリナはわずかだが心が躍った。


 だが、目にした現実が心を冷めさせる。


「もう、勘弁してくれよう」

「いや、そんなこと言われてもな」

「だってよ。ありえないだろ」

「でも、わかるだろ?」

「わかるけどよぉ……でもだからって、だからって……腹が減ったからって普通に飯食ってるってなんだよ!」


 泣き叫ぶ拷問官の前で、ルナークはパンに焼いた肉と野菜を挟んだものを食べていた。しかも分厚い肉からは湯気が上がっている。

 出来たてとしか見えない。

 反対の手は金属製のマグカップがあって、そちらも湯気が上がっている。


「ていうか! 毎回毎回! どうやって枷を外しているんだよ!」

「もごもごもへもへ……」

「食いながら喋るんじゃない!」


 見た目は粗野げな拷問官にマナーを叱られ、ルナークは噛みちぎった肉を嚥下した。


「そこはそれ、技術だよ」

「技術で済ましてんじゃねぇ……」


 そう言って拷問官はその場で嗚咽を上げ、ルナークはかまわずにサンドイッチを食べ終わり、マグカップの中身を飲み干した。


「ていうか大要塞の料理番っていい腕してるよな」

「食堂まで行ったのか!」

「しかも高級将校用の食材は良いものが揃ってた」

「しかもそれ将軍用の料理か!」

「今度はお前の分も持ってこようか?」

「マジかお願いしま……じゃねぇんだよ!」

「相変わらずノリツッコミがうまいなぁ」

「ああ! もうしらねぇ! もうしらねぇ!」


 拷問官は自棄気味に叫ぶと牢から出て行った。

 それを見送り、ニドリナはさてどうしたものかと開いた口をなんとか塞いでルナークを見た。




 ニドリナが来ていることには最初から気付いていた。


「よう、元気にしてたか?」


 拷問官が十分に去ってから、おれはマグカップにおかわりのコーヒーを淹れながら声をかけた。ポットごと盗んだのでまだまだ余裕がある。

 高級品のコーヒーを作り置かせておくなんて、ほんと大要塞の偉い連中は贅沢してるものだ。


「お前は……元気だな」

「いやぁ、牢に繋がれて拷問三昧の毎日だぞ? 元気なわけないだろう」


 砂糖壺からドバドバと砂糖を足しながらおれは笑って答える。


「ニドリナはおれが弱っているのを期待したのか?」

「ああ」

「ははぁ……それならいまが恩を売る好機だな」

「よく言う」

「いやいや、マジで。他の連中はどうしてる?」

「自分で調べろ」

「いや、これでなかなか難しいんだぞ。おれが拷問されてるのに平気なのがバレたらあいつが罰せられたり交代させられたりするだろ? そうならないようにお偉いさんが来てるときはやられた振りしたり、他の連中が巡回に来るときの予定表を確認したりとな」

「どうして拷問官を守ろうとする?」

「いや、あいつ母親思いの良い奴だからな。こんなところで罰せられて職を失ったらかわいそうじゃないか」


 おれの言葉にニドリナは信じられないという顔をした。

 いや、まぁ信じられないだろうけどさ。事実は事実だ。


「これから先、どうするか考えているのか?」

「その方針を決めるためにもルニルの様子とか知っておきたいんだよな。あとはナズリーンとかケインたちとかもな」

「それは、どうしてた?」

「ルニルが自分の目的を諦めてたら見捨てるし、他の四人は本心から裏切ったのなら……わかるだろ?」

「わかりたくないな」


 嫌そうに顔を歪めるニドリナを見ながらコーヒーを飲む。

 砂糖を入れすぎた。甘い。


「だいたい、わたしがそれをして、なんの得がある?」

「得か……そうだな。金塊返してやるって言ったら?」

「なに?」

「ここに来たのも金塊目的だろ? だから、いいぜ。さっき言った情報を集めてきたら金塊は返してやる。一個や二個じゃない。全部だ」

「本気か?」

「本気かどうかは、お前が信じるかどうかだな」

「っ!」


 おれの言い種にニドリナは怒鳴りかけたが、すぐにその言葉を呑み込んだ。


「いいだろう」

「よし、頼んだ」


 複雑な表情で去っていくニドリナを見送り、おれはポットのを足して甘さを調節したコーヒーを啜った。


 三日後、ニドリナがやってきた。

 そのとき、拷問官は拷問代わりにママンの手料理の素晴らしさについて熱く語っていた。

 やばい、いままでの中で一番きつい。


 それがようやく終わって、ほっとしたときにニドリナは姿を見せた。

 おれが困っているのを見るのが大好きな彼女にしては、嬉しそうな顔をしていなかった。


「それで、どうなってる?」

「連中は魔族と交渉したという事実をルニルの口から認めさせたいようだが、彼女はそれを頑なに拒んでいる」

「認めたらそこでタラリリカ王国は終わり、ってところか。ひどい目にはあっているのか?」

「いや。さすがにそこは一国の姫だ。無碍に扱って証拠を得られなければ糾弾されるのは勇者たちだからな。勇者にだってやって良いことと悪いことがある」

「なるほどね。それで?」


 おれは次の情報を求める。

 ルニルのがんばりはある意味予想通りだ。

 さてでは、他の四人はどうなんだろうな?


「ナズリーン、ケイン、ダンテス、ステンリール。四人が密告をしたのは事実だ。調書を調べたし、本人たちもその目で確認したが拷問も魔法による【洗脳】の痕跡もなかった。完全に自分の意思での密告だ」

「そうか」


 ナズリーンはともかく、ケインたちはおれをこの騒動に巻き込んだ張本人たちだろうに。

 それなのに、密告したのか。

 裏切ったってことだ。


「……やってくれたなぁ」


 おれの呟きにニドリナが顔をしかめる。


「お前は……暗黒街のボスが似合いそうだな」

「冗談じゃない。あいつらこそ裏切りが日常じゃないか」

「では、庶民は裏切らないのか?」

「うん?」

「冒険者は裏切らないのか?」

「なんだ?」

「お前は裏切られることに怒りを覚えるようだが、裏切らない人間なんてどこにもいない。誰もが勝手に期待して、勝手に裏切られたと感じるんだ。お前がどれだけ気をつけたとしても、そんな勘違いで怒る日が来るだろうし、お前もまた誰かを裏切るだろう」

「……あいつらを許せっていうのか?」

「そうじゃない。完全な人間なんているはずがないんだって話だ。お前はもう少し人間を知るべきだ」

「人間……ね」

「誰だって期待を裏切るんだ。お前もな」

「……なんか、含んでないか?」

「なにも含んでなんかいない!」


 顔を真っ赤にして怒りながらも、声はちゃんと抑えているところはさすがニドリナだ。


 おれは彼女を宥め、それから報酬の話をした。


「それで、金塊はどうする? いま渡すか?」

「いま渡されても、持ち運びに苦労するだけだ」

「そうか?」


 確かに重いだろうが、ニドリナならなんとかしてしまいそうな気もする。

 だが、無理だというのならそうということにしておこう。


「それならどうする?」

「どうせ脱出するのだろう? わたしはスペンザに戻っている。ルニルが帰国しても接触してこなければ、テテフィという娘の命を代わりにもらうことになると知れ」

「おお恐い」


 よくわからない彼女の怒りをやり過ごし、おれは一人になった。


 さて、いざというときに誰を助けるかは決めたが、問題はいつってことか?


 そのいつは、意外に早く訪れることになる。


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