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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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76 エルフ族会議 4

ただいまアルファポリスの「第11回ファンタジー小説大賞」にエントリーしています。

よろしければ投票をお願いします。(2018/09)


 長い余興がようやく終わり、少し休憩した後に会議が始まることになった。


 おれはルニルの後ろに立ち、護衛の役を務める。

 本当はこんなめんどうな場にはいたくなかったが、さすがにルニルを一人にするのはかわいそうに思えたからだ。


 まったく、ルニル命のくせにどうしてナズリーンは大要塞に戻ってしまったのか。

 ちらちらとルニルを飛び越えて向けられてくる視線を煩わしく思いながら、おれは素知らぬ顔で直立不動を維持する。


 こんなのは魔物の群の中で十数時間も息を殺し続けたことに比べればなんともない。


 会議そのものはそれほど紛糾することはなかった。

 すでにラーナがエルフ族と人類領が内密で交流するという方針をエルフ内の重鎮たちに浸透させていたのだ。

 今回はその相手がタラリリカ王国となり、相手の要請を受けて方針に多少の変更があったことを通達するための集まりだった。


 エルフたちはまだ少し人類領の国家と関わることに抵抗があるようだったが、それでも反対意見を明確に表明する者はいなかった。


 ただ「ラーナ様の想い人がおられる国なら」という発言が気にならなくもない。

 いや、おれはただの雇われ者でこの国とはそんなに関係がないぞ?


 と、言いたかったがこれでまた会議が紛糾するのもめんどうだと黙っていることにした。


 まっ、向こうが勝手に勘違いしているのだから知ったことではない。

 どうせ向こうだって自分に都合のいいことを隠しているに違いないのだから。


 会議が終わればそのまま宴会となった。

 ルニルはラーナを介して各エルフ族の族長たちと顔合わせを行っている。


 おれはなぜかアルヴァリエトリに気に入られ、酒瓶片手に絡まれてしまった。


「いやぁ。強いな。さすがに強い。まぁ、本気出したおれほどじゃないけどな」


 みたいなことを言っている。

 清々しいんだか負けず嫌いなんだかわからない奴だ。


 アルヴァリエトリの絡み酒から逃れようと生贄ミュアリントを探したのだがハイエルフの魔太子はさっさと逃げ出していた。


「なぁなぁ、ところで、ラーナリングイン様はどうなんだ? 実際どうなんだ?」


 と、鼻の穴を広げて聞いてくる姿は絶対に魔王ではなかった。

 語ろうかとも思ったが、気が付いたらラーナが細い殺気をおれの背中にぶつけていたのでてきとうに言葉を濁すしかなかった。


 そんな宴会もいずれ終わり、解散していく。アルヴァリエトリも部下らしきエルフたちに引きずられていった。


 これでここでのやるべき事は終わった。ルニルが明日帰ると言うので、おれはラーナの部屋に忍んでいき、最後の夜を惜しんだ。


 離れるとなると寂しいが、タラリリカ王国との連絡方法が確立すればいつでも会えるようになる。

 ラーナはおれにその方法を伝えた。

 それはおれが考えたものと違いはなかった。


 そう言うと、ラーナが意味ありげに答えた。


「そういえば、アルヴァリエトリらとやりあっているとき、紋章で増やしていたな」


 なにを、と聞き返しはしなかった。そうか見抜かれていたのかと頭を掻くのだが、逆にラーナは確かめたその事実に興奮したように唇を重ね、覆い被さってきた。


「わたしが三百年かけて辿り着いた境地に、わずか半年で踏み込んでくるなんて……」


 そのことが嬉しいのか、悔しいのか。

 興奮した顔でおれを責めてくるその姿からは判じかねた。


 攻守を入れ替えながらおれたちは一晩愛し合った。

 それは奇妙な交合だった。愛の確認や快楽の貪り合いともなにか違う、奇妙な緊張感を伴って体を重ね合う。


 獣王たちとの戦いなどお遊びだった。


 おれもラーナも声を殺して真剣に行為に没頭した。気分の盛り上がりなどあったものではない。


 それでも蜜が枯れることはなく、怒張が萎えることもなかった。


 果たしてその交合の末でなにが決したのかはわからない。

 夜明けの疲労に充足感などなかったが、それでも最後には微笑みと唇を重ねた。



 一晩明けて、朝食を共にするとおれとルニルはエルフたちに見送られて転移装置に入った。

 入ったときよりは好意が少しは混ざっているような気がする。

 アルヴァリエトリらとの戦いに少しは意味があったのだろうと考えると、やった甲斐があったというものだ。


 転移が終わると、あの大岩に隠された地下空間だ。

 だが、出迎えてくれたダークエルフの女は緊張した様子だった。


「外で何者かが待ち構えています」


 そう言われ、外の様子を映像で見せてくれた。


「これは……」


 ルニルが息を呑む。

 そこにいるのは大要塞の戦士団らしき連中だった。人数にして五十人ほどか。見知った連中はいないし、鎧に刻印された紋章はタラリリカ王国のものではなかった。

 おれも知っている紋章だ。


「グルンバルン帝国の戦士団だ」


 ルニルが苦い声を滲ませた。

 そしておれは、いまだに彼女が気付いていない事実を見つけてしまった。


 戦士団の奥に隠れるようにしてナズリーンがいたのだ。


「これは……ばれたと考えるべきか? どうする?」

「どうする……って?」


 ルニルはショックで混乱しているようだった。

 だからおれが現実をわかりやすく切り分ける。


「皆殺しにするか、おとなしく捕まるか」


 できるかどうかはわからないが、ここにいる連中を皆殺しにしてしまえばおれとルニルがどこから出てきたかの証拠……すくなくとも現場の証拠はない。

 素知らぬ顔で大要塞に戻ることも、あるいは可能かもしれない。


 だが、その場合はナズリーンも一緒に殺さなければならないだろう。


「そんな……」


 ようやくナズリーンがいることに気付いたルニルが口元を押さえて、よろめく。そんな彼女の背中を支え、おれは問いかける。


「気を失ってる場合じゃないと思うぞ。どうする?」

「だが、あれは……彼女が人質になっている」

「そうか? おれの目にはあいつが共犯になった可能性も見えてるけどな」

「そんなことっ!」


 否定したい気持ちを発露させたルニルだが、すぐにその言葉を呑み込んだ。

 ルニルも、その可能性を心のどこかで認めてしまったのだろう。


 変ではあったのだ。

 魔族領の都市、ゼルベニアの見学に行ってすぐに大要塞に戻ると言いだし、しかもケインたち護衛を全員引き連れていった。

 戻るだけならそれこそ斥候のステンリールがいれば済む話だった。

 それなのに全員……あるいはケインたち三人も裏切ったと考えるべきなのではないか?


「……いや、人類的に考えれば裏切者はおれたちか」

「…………」


 おれの呟きがだめ押しになったのか、ルニルは顔を押さえてその場に座り込む。

 だが、すぐに立ち上がった。


 あの一瞬で目元を赤く腫らしたルニルはまっすぐに映像を睨み付け、言った。


「このまま出る。わたしたちは間違えていないのだから」


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