67 戦場観戦 2
「そういえば、『魔太子』って何人いるんだ?」
タラリリカ王都での講義の時にした質問だ。
人類側の勇者に関してはよく知られているが、魔族側の情報というのは実はあまりない。どの種族がどんな風に恐ろしいとかいう噂は流れてくるのだが、詳しいものは聞かない。
例えばエルフは森で人を迷わし、トレントに首を吊らせるとか。ドワーフは人間で実験を行うとか。
『勇者』に対応する存在として『魔太子』がいることはわかっているが、それが何人でどの種族なのかは知らされていない。
ケインたちがゾ・ウーを見てすぐに魔太子だと判断していたので、戦士団として一度でも戦場に出ていればその情報は知らされるのかもしれないが、それが庶民に流れてこないというのはなぜだろうか?
「大要塞と戦場のことはあまり語りたい気分にはならないからね」
とそのとき講師をしていたケインが苦い顔でそう言った。
「とにかく、魔太子だ。現在こちらが確認しているだけで四人。人類側と同じだね」
もちろん、その中におれは入っていない。
「この間見たドワーフのゾ・ウー。それからハイエルフのミュアリント。オーガのグアガラダイン。ゴブリンのクウザンの四人だ」
「ダークエルフは?」
「うん?」
「ダークエルフの魔太子はいないのか?」
「確認されている限り、いないね」
そうか、いないのか。
これはどういうことか。
幾つか可能性を挙げるとして……。
一つ、そもそも『魔太子』ではなかった。『勇者』『魔太子』でなければあの地獄には入れないなんて条件があるかどうかもわからないからな。
一つ、おれと同じように死んだ扱いされている。
一つ、『魔太子』として認められていない。
他にも可能性があるだろうが、考えられるのはこんなところだろう。
とりあえず、彼女は魔族側として大要塞で戦っていることはない。あるいは実力を発揮する気がないのは明らかだ。
そうでなければ、いまだにこの戦いが均衡を保っているわけがない。
やはりあの光球は警戒用だったようで、大音響が響き渡るとともにおれにかけられていた【隠身】の魔法はかき消えてしまった。
なにか異変があったとき、【解呪】となにかでかい音の出る魔法を撒き散らしながら消滅するという魔法なのだろう。
「ふうん。面白いな。これは人類側にもあるのかな?」
だとすれば是非とも教えて欲しい。
こちら側に近いところにあったのは人類側の警戒用魔法なのだろうから、きっと同じものはあるだろう。
ともあれ、大音響とともにおれの位置が暴かれたわけで、どちらの陣営からもすごい勢いで視線が集まるのを感じた。
うーん、これは来るな。
思った瞬間に、来た。
【火矢】に【風弾】【氷矢】【岩弾】等々……各種属性の遠距離攻撃魔法にさらに矢が加わり雨霰と襲いかかってくる。
「うわーお」
この数は、なかなか壮観だ。
などとのんびりしていられない、各種耐性強化の紋章を展開しつつ、回避補助技能の【流水】の強化版【幽風】を使用。さらに自動防御魔法【飛神盾】×3を展開する。
さすがにこの数を属性ごとに選別して捌くなんてのはめんどくさい。
同時展開した三枚の【飛神盾】で魔法や矢を弾きつつ、その隙を抜けたものを回避していく。
さて問題は、反撃だな。
なにもしないってわけにはいかないから【爆炎球】を二~三個放り込んでおく。
だが、着弾点に辿り着く前にいまだ放ち続けられる攻撃魔法の雨によって迎撃されてしまった。
それは予想の範囲内だ。
問題なのは本気で反撃するかどうか。
塹壕に隠れながら攻撃してくるのは、ゴブリンの魔法使いたちとコボルトの弓兵隊だ。
ダークエルフ族ではない。
だが、ダークエルフがどれぐらい魔族に肩入れしているかわからないのに、ここで好き放題暴れるわけにもいかない。
ここにダークエルフがいるとわかったのだから、好き放題に暴れるのは彼女と接触してからでいいだろう。
とはいえ、陽動として名乗り出てここに堂々と立った以上、無様に逃げ帰るだけというわけにもいかないし「他の勇者にできないことをやってやる」という基本方針を覆す気もない。
というわけで、一人火力体験会の開催だ。
いつまでも続く攻撃魔法の雨を受けて流してかわしてを繰り返し続ける。
「へいへい、どうしたどうした? もっと強いの撃って来いよ!」
と、声を張り上げてみるが、射撃の音で全てかき消えてしまう。
しかし煽っているのが態度でわかるのか、はたまたたった一人がいつまで経っても死なないことに苛立ったのか、攻撃の密度がさらに増していく。
三枚の【飛神盾】はぐるぐると回って攻撃魔法を防いでいく。
これを厄介と受け止めたのだろう。ゴブリンの魔法使い部隊は爆裂魔法を上空へと解き放った。爆発する球体を形成して解き放つのが爆裂魔法だが、その球体が飛翔する軌跡はある程度は操作することができる。
もちろん、それをするには魔法使いの力量が必要になる。技能の補佐を得られない真正の力量だ。
爆裂魔法の球体はおれの頭上にまで昇った後に落下する。
おれが退避すればいい話なのだが、遠距離攻撃魔法が前面と左右斜めの三方向から襲いかかっている状態でしかも【飛神盾】を抜けてきたものを避けている。そう簡単には移動できない状況だ。
このまま魔法を増やせなければ……だが。
おれはさらに【飛神盾】を二枚増やし、上空の爆裂魔法に対応する。
降り注いだ爆裂魔法はそれによって防がれる。
うん。
十分に目立ったかな?
魔法を増やされると思わなかったのか、こちらへの攻撃に乱れが生まれた。
五枚の【飛神盾】を前面に並べておれの姿を隠すと、【神走】の高速移動で一気に自陣の塹壕に飛び込んだ。
「ただいま」
と言ってみたが将軍を始め周りの戦士たちはぽかんと口を開けてなにも言ってくれない。
「困ったな」
なにか言ってくれないと、こちらも反応に困ってしまう。
「じゃあ、これからどうする?」
おれの姿がなくなったことで魔族側の塹壕からの攻撃は収まった。
そのことにようやく気付いた将軍が我に返る。
「……とりあえず司令部支所に移動して派遣した部隊の帰還を待ちます」
「了解」
司令部支所というのは広い塹壕帯の各所にある中継拠点だ。その場を担当する戦士団の上層部がそこに詰め、指揮と通信、情報の整理が行われる。
他の塹壕よりもさらに深くに掘られた完全な地下室であり、召喚された風の精霊が大気の管理を行っている。
「……あまり、無茶をなさらないでください」
ようやく落ち着いたのだろう。将軍が苦々しい顔でそんなことを言う。
「あなた様がすごいのはわかりましたが……王子はそのようなことはできないのですから」
「そりゃ、すまん……」
「まぁ、このままタラリリカ王国に所属なさるのでしたら、話は別となりますが」
「うーん……本気の雇われ者はそんなに興味がないんだよな」
「では、もう少しご自重を」
「できたらね」
おれの返答に将軍がさらに苦い顔をする。
諦めた将軍は部下を使って司令部支所の整理を始めた。しばらくはここで仕事をすることになるのだから、自分たちの使い勝手をよくしたいのだろう。
おれはやることもなくここでだらだらとするしかなかった。
そんなことをしている間に派遣した偵察部隊が次々と帰ってくるのだが、肝心のルニルたちが帰ってこない。
いかんな、なにかあったか?
将軍の顔色がどんどんと悪くなっていく。
「おれが探しに行こうか?」
「大丈夫です」
何度も胃の辺りを撫でているから提案するのだが、将軍は頑なにそれを拒む。
そうしていると、ニドリナが一人で戻ってきた。
「攫われたか、それとも襲撃か?」
泥だらけのニドリナにそう尋ねると、彼女は心底疲れた顔でおれを睨み告げた。
「ダークエルフの女がお前を連れてこいと言っている」と。
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