58 夜と地下決闘
黒号を抜いたおれの前でなにもなかった空間に黒い霧が集まり、そして形をなす。
髑髏甲冑の群だ。
「あなたの強さなら、これぐらいは、なんともない、のでしょう?」
言葉を短く句切る独特の話し方がイラッとさせる。
【真力覚醒】・付与・【剛風】
「あんた、そんな話し方だっけか?」
風属性を付与した黒号で髑髏甲冑を薙ぎ払いながら尋ねる。
「最初に会ったときはもうちょっと流暢だった気がするけどな」
「あの話し方は、しんどい」
「ああそうかい」
大盾構えて集団で潰しに来る連中から逃れれば、蜘蛛っぽい動きをする連中が空中戦を仕掛けてくる。
かと思えば今度は腕にクロスボウを取り付けた連中がチクチクと矢を撃ってくる。
前衛、後衛、遊撃ときっちり役割が別れている。
まったく面倒くさい。
【蛇蝎】
逃げ回りながら黒号を変化させ、大楯構えた重そうな奴に巻き付け、空中での軌道を確保する。
ただ、そうすればこちらが着地する位置が読まれることになる。
側にいた他の大楯構えた前衛型が即座に包囲網形成のために動き出し、遊撃型と後衛型は着地点に襲撃をかける準備を行っている。
その速度は人間ではなかなかできないだろう。
だが今回はその速さが命取りだ。
あ、命はないのか。
重唱・付与・【剛風】・【飛針突】
着地点に集結した連中を剣身から生まれた針の雨が襲う。
もとよりドワーフの錬金術士によって作られた希少級の武器である黒号の切れ味は素晴らしい。そこに二重がけした【剛風】の魔法によって威力と速度が底上げされ、針は髑髏甲冑たちを余裕で貫く。
倒れた髑髏甲冑は黒い霧となって消えていこうとするのだが、そこで変化が起きた。
解き放った【飛針突】の針もまた霧状になって戻ってくるのだが、そのときに髑髏甲冑の霧を巻き込んで戻ってきたのだ。
どうやら、自分が噛みついた獲物を逃す気はないらしい。
「その剣、知っている。ドワーフの『魔太子』ゾ・ウーの剣。なんで君が?」
「他剣の空似だ」
うおお、早速ばれたか。
ていうかあいつ、黒号もってけっこう活動してたんだな。
成長する剣って割りにあんまり成長していないように感じたから新品かと思ったんだが。
「なんでもいい。それより、もっと他に隠しているものを見せて」
そう言うや、髑髏甲冑の数が元に戻る。
なるほど、これぐらいの数のゴーレムを製造するのは魔導王にとっては苦ではないってことか。
魔力の最大量は魔導王の方が圧倒的に上ってことだな。
目の前にいるゴーレムどもが【上位召喚】かそれ以上の魔法であることは確かだ。
それをこれだけの数、一度に使うというのはいまのおれにもできない。
つまり、おれよりも魔力量が多いということになる。
魔力量の多さはそのまま魔法の威力や精度に関わる。魔法の重複発動である重唱や連唱をどれだけ重ねられるかという部分は魔力量にかかっている。
骸骨甲冑を大量召喚する魔力量を攻撃魔法の圧へとすり替えれば、この広間でおれは逃げ場なく焼かれることになるだろう。
それを魔導王がわかっていないはずはない。
つまりは、遊んでいる。
おれの実力の底を調べるためにこういうことをやっているのだ。
魔導王の興味は、本当に、ただそれだけってことだ。
「……まだ、やる気になっていない、ね」
「いやいや、そんなことはないぜ」
倒しても倒してもすぐに数が戻る骸骨甲冑相手に、おれは黒号で切り倒すだけだ。
手を抜いていると思われてもしかたがないだろう。
【真力覚醒】と付与で攻撃力を上昇させた黒号なら骸骨甲冑の堅さをものともしない。
なのでだらだらと戦い続けることも可能だ。
とはいえ、それでは解決しない。
この数を召喚できる魔力は膨大だが、回復させる手段にも手抜かりはないだろう。とっくに回復しているだろうからこれを何度でも繰り返すだろう。
つまり、消耗戦に意味はない。
「そっちも、疲れてない、みたいだし。ちょっとルールの追加」
「うん?」
「時間制限」
広場の奥にいきなり光が刺さる。
するとそこに人影が三つ。吊るされて現われた。
ケイン、ダンテス、ステンリール。
姿を見せないと思ったらとっくに捕まっていたのか。
「五分以内に、全滅させないと、この三人の首を、順に落とす。で、どう?」
「はっ!」
言ってくれる。
「イラッとしたぞ。シルヴェリア」
「呼び捨て、許して、ない」
「お前の許可なんざどうでもいいな」
五分だ?
「この程度を相手に、五分とはずいぶんと自信過剰だな」
「なに?」
「いいぜ、なら、ちょっとだけ見せてやる」
【聖霊憑依】
「むっ」
おれの体に力が降りてくる。
瞬間、おれの体が光を放つ。光は蛇の如くのたうち、黒号へと走る。
【雷鳴轟閃】
薙ぎ払いの一閃に宿るの聖なる雷だ。それは【蛇蝎】の薙ぎ払いよりも速く鋭く駆け抜け、骸骨甲冑たちをすり抜けていく。
その衝撃は少し遅れて連中を襲う。
次の瞬間には紫電の華を開かせて、骸骨甲冑たちが破裂していった。
「これで全滅」
「そんな……」
「おや? まさか意外な結果かい?」
シルヴェリアの驚きを感じながら、おれはケインたちを解放し、【下位召喚】で使い魔を呼び、おれの背後に移動させる。
「まさかまさか……まさかとは思うがこの『勇者』アストを相手にこの程度の連中が本気で通用すると思っていたのか?」
おれの問いかけにシルヴェリアは答えない。
そうだ。
これが『勇者』の力だ。
世界の森羅万象に宿る意思、精霊たちの最上位存在、聖霊。勇者は必ずいずれかの聖霊の庇護を受ける。
おれの聖霊の属性は雷。
【聖霊憑依】は勇者のみが使えることのできる特殊技能だ。自らを庇護する聖霊をその身に宿すことにより、身体能力や魔力の上昇、さらにその属性に応じた力を使うことができる。
これぞ『勇者』としての全力戦闘状態だ。
あくまで、『勇者』として、な。
「嘘だよな、シルヴェリア? お前は『魔導王』だ。『勇者』が昇華した存在だ。まさかまさか、『勇者』よりも劣ることしかできないなんてないよな?」
「き、貴様っ!」
「だから、ルール追加だ。次のお前の攻撃を凌いだら、この下らん遊びは終わりだ。ルニルとナズリーンを解放しろ。おれたちは明日から大要塞だぞ。ガキの我が儘にいつまでも付き合っていられるか」
「ガキ……ガキだと?」
シルヴェリアが怒りに震えているのがわかる。
姿を見せないがきっと顔を真っ赤にしているだろう。
それでいい。
いまは冷静な判断をさせないことが重要だ。
「ガキにガキと言ってなにが悪い。男の●↑○見て動揺するような奴はガキって言うんだよ」
「アンデッド、相手に興奮する、ような変態に、言われたくないな」
「ああ、そうだな。挑発しといて逃げるのがお前だったなシルヴェリア。なら、今回も逃げるか? 逃げるのはいいんだが、それは負けを認めたってことだ。二人は返せよ」
「……調子に、乗るなよ、平民が」
「はっはっはっ……クソ貴族らしい素敵な言葉だ。ぶん殴ってやるからさっさと次を出せ、引きこもり」
「後悔、するなよ」
そしてシルヴェリアの魔力が広場に凝縮する。
今度も召喚か。
そしてそこに現われたのは広場を圧迫するような鉄の巨人だった。
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