258 新米伯爵はやり放題 18
娘が来たかぁ。
「シャアランだったか?」
「そう! シャアランはシャアランだよ!」
呑気と言いたくなるぐらいに元気に明るく竜娘シャアランが応える。
「で、俺の娘なんだっけ?」
「そうだよ! ママとパパの娘だよ!」
そりゃあ、大体の生物はママとパパの子供だろうよ。
問題なのはママが誰で、パパが誰かってことだ。
「俺が父親?」
「うん!」
「ママは?」
答えはわかっているようなものだが、一応は確認しなくてはなるまいよ。
「ママはレイファだよ! パパ、わかってるでしょう?」
「わかっていても確認しなくちゃいけないことが世の中にはあるんだよ」
ていうことは、やっぱりか。
レイファとの房中術による戦いは俺の勝利かと思っていたが、これは、どうなんだ?
俺は抜かりなく避妊の魔法を使ったはずだ。
レイファは俺の魔法を破って懐妊した。
ならばそれはあいつがそれを狙ったということだ。
なんのために?
いや……。
あいつがどうしてタラリリカ王国に拘っていたか?
それは《勇者》の血筋が目当てだったはずだ。
そこに、天へと至る竜という種族の宿命を加味すると答えは出てくる。
レイファは房中術の使い手として、そして女として、天へと至る者を生み出したかった?
その結晶がシャアランってことか?
母親に似て出るところが出て引っ込むところが引っ込んだ良い体だ。
それなのにピクリとも来ないのは、やはり娘だとわかっているからなのか。
「……で、その娘がここに何しに来た?」
まぁ別に認知するのは吝かではない。いきなり思春期真っ盛りみたいな娘ができるのはどうなのかという思いがあるが、それはとりあえず置いておくとして。
だがこの娘、そんなものを求めて来たとは思えない。
「だから言ってるでしょ? 遊んでって」
「遊ぶって、なにで?」
シャアランは俺と同じ色の長い髪を揺らし、翼を消すと構えて見せた。
だが俺は、それに知らないふりをする。
「……生まれてどれくらいだ? 人間なら赤ん坊くらいだろう? ていうことは、積み木はまだ早いか? ガラガラか?」
「ガラガラより、バキドカがいいな!」
明るくそう言い切り、シャアランは飛ぶようにして距離を詰める。
ふむ。
バキドカ(こぶし)ね。
先制の一撃をしゃがんでかわす。すり抜け様に背中を叩こうとした癖の悪い尻尾を掴んで振り回すと、シャアランは「うひゃあ!」と叫ぶ。
そのまま遠くに放り投げてやった。
「ガキが戦場に来るんじゃねぇ」
お空の星となった竜娘に言ってやる。
「あら、お優しい」
俺の対応にノアールが意外という顔をする。
「ご自分の子供だと、やはり戦いづらいですか?」
「……俺をなんだと思ってるんだ?」
「え? 外道か戦闘狂だと思ってますけど」
「…………」
はぁ、嫌になるわぁ。
「俺はこれでも紳士で通ってるんだぞ」
「どこの業界でですか? あるいはその辞書、紳士の意味が違っていると思いますよ」
「ほんとに、お前はどんどん生意気になっていくよ」
「わたしにとってのマスターの魅力は戦闘力と性欲ですから。大丈夫です、尊敬してます!」
「そりゃどうも、ありがとよ」
俺たちの茶番のせいで帝国軍の連中はすっかり冷めちまってる。
「さて、どうするね? まだやるか?」
「やるよ!」
答えたのは帝国軍の騎士ではなく、空から戻ってきたシャアランだった。
戻ってきた勢いで放って来た拳を受け止めると悔しそうに睨んでくる。
「もうパパ! ちゃんと遊んで!」
「まったく。火遊びが好きな娘を持つと気苦労が絶えなくなりそうだな」
「火遊びなら知ってるよ! こういうの!」
シャアランが口から火炎を吐く。
それは瞬く間に俺を包むが、この程度の炎で俺が焼けるはずもない。
【疾風】
魔法で風を起こして振り払うと、シャアランは嬉しそうに笑顔になる。
「やっぱりパパは凄いねぇ」
「俺たちにはまず話し合いが必要だと思うね。親子の対話的な」
「知ってるよ! 拳で語るって奴だね!」
「違う」
「違わないもん! あっ、そうだ!」
なにを思い出したのか、シャアランは懐からなにかを取り出すと、それを地面に投げた。
「魔導王の婆ちゃんからこれ、プレゼントだって」
「プレゼント?」
いや、それより婆ちゃん?
やだね。子供ってさらっと真実を見抜くっていうことかね?
面白れぇ!
「やっぱりパパはモテるね!」
「これが好意ある贈り物に見えるのか?」
シャアランが投げたものは指の先ほどのガラス玉のようなものだったのだが、地面に放られるとともに仕込まれていた魔法陣が起動し、形を変化させていく。
ふうむ。あいつまた強くなったかな?
前回の蟲だらけのときに魔力発生炉の爆発で魔力を吸っていたし、あるいは蟲どもに対してもなにかをしこんでいたかもしれない……か。
まぁ、着実に敵が強くなっていることは、いいことだろう。
ガラス玉から誕生したのはなかなかの大きさのゴーレムだ。
骸骨的な姿はあいつの好みでもあるのだろう。幽体的な部分も存在する半分不死系魔物、半分ゴーレムという雰囲気のそれが高らかに吠え声を上げて、砦へと向かう。
「え? なんでそっちに行くの?」
「魔導王のばっちゃは俺を襲うより砦を破壊した方が嫌がらせになるってわかってるからさ」
「ええ! そうなの!」
「そうなんだよ。ノアール」
「はーい」
「任せた」
「任されました」
黒馬ノアールから下りると、ゴーレムに瞬く間に追いついて前に回る。
「よっ!」
黒馬の背からひょこりと少女ノアールが生えてくる。相変わらず大太刀竜喰らいは取り込めていないようだな。
「とうっ!」
と跳躍するとゴーレムの物体部分である腹を蹴った。
ゴーレムは勢いを止められ、その場に足を止める。着地したノアールがその場に立ちふさがる。
「この先に行きたければわたしを倒していきなさい!」
幽鬼的な雰囲気を宿すゴーレムに決めて見せると、そのまま大太刀竜喰らいを抜こうとして……。
ガッ。
「あ、あれ?」
武器に抜くのを拒否された。
そんなのはお構いなしにゴーレムはもたもたするノアールに迫る。
黒馬ノアールに拾われなければそのまま踏まれていただろう。だからといって死にはしないだろうが。
それはそれとして、少女ノアールは黒馬の上で憤慨していた。
「あれだけ好きにしておいていまだに抜かせもしないとは! もういいです。もう頼りません。あなたなんてフンッです」
そうは言いながら背中から神話級武器を外さないノアールは腕を変形させて新たな武器を取り出す。
【変幻盾】
鎖を備えた投擲武器にもなりえる盾を生み出すと砦へと進む幽鬼ゴーレムに投じる。
少女が投げたとは思えない勢いで円盾はゴーレムの頭部を打ち、再び進撃を止める。
「あなたの相手はわたしだと、言ったはずですよ?」
のけぞったゴーレムはようやく砦からノアールに意識を向けた。
この少女を倒さなければ砦に向かうことはできないと、ようやく理解したようだ。
『庶民勇者は廃棄されました2』の発売日がオーバーラップ文庫のサイトにて発表されました。
10月25日発売です。
EXエピソード他、色々と加筆修正していますのでお楽しみに。




