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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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257 新米伯爵はやり放題 17

 派手なことをやったおかげで帝国軍が砦に兵力を差し向けて来た。

 攻めて来た兵力は三千ほどか。

 攻城は兵力三倍だったか? その理屈からしたら間違ってはいないのだが、奴らは俺がここにいることを忘れてしまったのか?

 あるいは俺という兵力をいまだに甘く見積もっているのか。

 どちらにしろ、この砦がその程度の兵力で落ちることはないがな。

 実際、俺が出るまでもなく敵さんは攻めあぐねている。

 卵型の砦には進入路として正門と上部の穴があったのだが、その二つともが消えうせてしまったからだ。

 進入路の見当たらない砦を前に敵は魔法や攻城兵器による壁の破壊を試みているが、それもうまくいっていない。

 普通の城壁だってそれらには耐えるようにできているのだ。急造とはいえ俺が作ったものがそう簡単に壊れるものか。

 そもそも、この砦は建築物の形をした土精王……精霊なのだ。

 召喚魔法によって呼び出されたこいつは俺が魔力の供給を切らない限り、土でできた体を癒し続ける。

 そして砦内は紋章を使って迷宮化しており、魔力発生炉も設置してある。

 実質的に無限に再生を続ける砦ってことになる。

 敵軍の悲しい努力が砦内部にかすかな音で響く。


「寝覚めに聞くには清々しくない音だな」

「それはそうでしょうね」


 シアンリーと朝食を摂りながら、その音を聞く。

 連中、俺たちが手を出さないのをいいことに昼夜関係なく攻城兵器や魔法をぶつけてくる。


「こちらが反撃をしないのだから、音でこちらに負荷を与えようとしているのよ」

「なるほどね。……こちらがたまらず出てくるのを待ってるってわけか」


 今朝の食事は野菜と鳥の蒸し焼きソースがけに温かいスープ、そして山盛りのパンだ。バターやジャムも全ての兵士に配れるだけあり、外の騒音に反して兵士たちの顔は明るい。

 これも物資が頻繁に運び込まれているおかげだ。

 いくつか暗い顔があるが、それはきっといまのこの音とは関係がない。


「こちらが出てくるのを待ってるのか? だとすると、出ない方が正解か?」

「出てこなかったらいずれ去っていくことになるわ。どこかで反撃は試みないと」

「ふむ」


 シアンリーは姫ながら兵法に明るい。

 俺が思ったことを口にすればそれを現実的な兵法として組み直してくれるのだ。

 亡国の危機に震えているだけは嫌だと試練場の最下層に辿り着けるだけの実力を身に着けただけでなく、戦争の作法も身に着けているのだからかなり以前から鍛えていたのだろう。

 たいしたものだ。


「なら、そろそろ出た方がいいかな?」

「それは例の部隊と時間を合わせた方がいいわね。どうせあなたのことだからむちゃくちゃするんだろうから、目くらましの役にも立つわ」

「いいね。もう俺のことが分かったのか」

「非常識っていうのはわかったわ」


 シアンリーは不機嫌に言葉を重ねる。


「いまは非常識に驚いている暇なんてないのよ。わたしの国がなくなるかどうかなんだから」

「……だなぁ」


 覚悟は良い。

 こうなってくると本気で戦おうとしていない俺が悪いみたいな感じになるな。

 まぁ、だからって、なにをするわけでもないんだが。

 俺が砦から出たのは昼食を終えてからだった。

 天井の一部を開け、ノアールと共に外に出る。

 完全武装の黒馬とそれに乗る完全武装の俺。

 前回、帝国軍の本陣に乗り込んだ時と同じ格好だ。


「出たぞっ!」


 俺の姿を見つけて帝国軍の連中が動きを変える。

 攻城兵器はその場に放置し、《魔法使い》たちの前には騎士が立つ。

 俺が出てくるのを完全に待っていたようだ。

 調子に乗って侵入されては話にならないので、天井の穴は塞ぎ、俺は地面に降りる。


【突撃】


 身体強化の魔法をかけられた《騎士》たちがランスと盾を構えて一挙に迫ってくる。全身鎧に盾まで構えた《騎士》たちの質量攻撃だ。


「無茶をする」


 同士討ち覚悟の攻撃に呆れながら、俺は迫る無数のランスの先を左の籠手で揃って受け止める。


「「「「っ!!」」」」


 驚く《騎士》どもを無言で押し返す。

 宙を舞う全身鎧の騎士どもの隙を突いて迫ってくるのは射撃系魔法だ。


【剛火矢】

【烈風斬】

【轟水刃】

【鉄芯弾】


 各属性の強めの射撃系魔法だ。

 一応は、俺向けに実力者を揃えたってことだろう。

 だがそれでも、その程度だ。

 俺はハルバードを振るってそれらを全て切り裂く。ノアールはそれらの魔法をきっちりと喰い。宙で霧散させる。

 待ち構えた末の渾身の攻撃が無為に終わり、連中に動揺が走る。


「さて、これで諦めるわけじゃないよな?」


 俺の安い挑発に《騎士》たちが乗る。


「グルンバルン帝国に栄光あれ!」

「「「「栄光あれ!!」」」」


【忠勇決起】


《騎士》たちが身体強化系の特殊技能を発揮する。

《狂戦士》の【狂化】と似たようなものだ。能力上昇度は【狂化】ほどではないが、その代わり使う者が多ければ多いほど、その数値が高くなっていく。

 軍隊で使うのに理想的な特殊技能だな。

 俺を囲んでいる《騎士》は百人ほどか。選りすぐりの連中が先ほどよりも強くなって攻撃を仕掛けてくる。


【突撃】


 再びの【突撃】はさっきとはキレが違った。

 しかも時間差をつけて来たので同じ受け方はできない。


「うーん」


 と唸りながらハルバードから手を離すと一人目のランスを掴んで振り回し、その後に続く《騎士》たちを薙ぎ払う。振り回された騎士は三人目を打ったところで吹き飛んでいったので四人目を掴んで同じことをする。

 そんなことを延々と繰り返す。

 俺の周りで《騎士》が次々と吹き飛んでいく様は、まさしくちぎっては投げ、だろう。

 螺旋を描くように俺を囲んで【突撃】してくる百人の騎士たちによる連携攻撃はそのようにして防ぎ切った。

 残るのは死にきれずに呻く《騎士》たちの山。


「うーん」


 それを見て俺はもう一度唸る。


「もう少し華麗に返したかったんだがなぁ」

「それなら、ひたすら受け止めるっていうんはどうですか?」


 黒馬ノアールがそんなことを言う。


「うーん。お前を信頼はしてるが、俺の戦い方がそもそも回避優先だからな」

「ええ、なんですかそれ。信頼して受け止めてくださいよ」

「そうだなぁ」


 追撃もせずにノアールとだらだらとしているものだから、負傷した《騎士》たちは《魔法使い》によって回収され治療を施された。

 その間の俺を引き留めるために無数の矢が降り注ぎ、それが鎧の上で虚しく弾かれていく。


「ていうか、いままさにお前を信頼して動いていないよな?」

「ええ? こんな小雨を攻撃とか言わないでくださいよ」

「いやいや、立派な攻撃だぞ? 千人もの射手が矢を撃ってるんだからな?」


 三千の兵力で攻めて来るなんて舐めてるのかなと思ったが、実際に見てみると違うな。

 城攻め……というか壁殴り要員は千人ほどか。

 残りの二千人は俺を殺すために編成されているようだ。

 精鋭《騎士》百人に、攻撃を担当する精鋭《魔法使い》が三百人。千人の射手。そして彼らの補助や強化を担当する六百人。

 ヴァリツネッラ要塞を攻める十万の軍団から選び抜かれた三千人が俺の前にいるのだ。


「ふむ、これぞまさしく一騎当千だな」


 地面に刺していたハルバードを拾い、矢の雨に向ける。


「だけどどうせなら万人之敵と呼ばれたいな」


 どちらも昔の武将……なのだろう。地獄ルートで見つけた戦記物にあった記述で、大活躍した武将をそう呼び現わしていた。

 矢の雨に向けたハルバードは不可思議な引力を発揮し、矢を引き寄せ、そして取り込んでいく。

 その異様に驚いて矢が止まったところで、ハルバードが見る間に姿を変えた。

 クロスボウに近い形をした何かだ。矢が番えられる場所に円筒が置かれたような形をしていて、少々照準が付けにくい。


「形は一考すべきだな」

「まぁ、お試しですから」


 ノアールの思い付きに従う形で引き金を引く。

 内部で機構が動く感触が伝わるとともに、円筒から矢弾が矢弾が次々と吐き出されていく。

 放っているのは先ほど吸収した敵の矢だ。

 驚きの速度で放たれる矢に射手たちが次々と倒れていく。

 それに驚いた射手たちは戦列を崩して後退していく。

 特に狙いも付けずに撃ってみたが、それなりの戦果だな。


「さて、まだ遊ぶのか?」


 クロスボウをハルバードに戻し、俺は治療を終えた騎士たちに声をかける。

 彼らは一様に絶望した表情を浮かべていた。

 それでも逃げるという選択肢を選ばない辺り、流石は《騎士》だ。

 背後の《魔法使い》どもは逃げたそうにしているがな。


「ううん! 次はシャアランの番だよ!」


 いきなり空から降りて来たそいつはにっこり笑って俺の前に立つ。


「ああ……たしか、娘か?」

「そうだよ! 遊んでパパ!」


 爬虫類の翼を生やした娘はそう言って俺に明るく笑いかけた。


『庶民勇者は廃棄されました2』の発売日がオーバーラップ文庫のサイトにて発表されました。

10月25日発売です。

EXエピソード他、色々と加筆修正していますのでお楽しみに。

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