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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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247 新米伯爵はやり放題 07


 退屈な地下迷宮だが俺の持ち迷宮となった不死王の試練場のことを考えると参考になる部分もある。

 元の持ち主であるリストヤーレはあれを自分の城としてしか使っていなかったので、誰かに試練を与える作りに放っていない。

 類別するとしたら攻城戦型地下迷宮とでもいうものだ。

 初期の状態では門を開けた先にある玄関口から上へと向かう階段まではいきなり大量の不死系魔物に襲われるという単純にして質の悪い物量戦となっており、基本役割分担の少数精鋭である冒険者たちにとっては相性の悪い場所となっている。

 なのでいまは、その玄関口にたどり着くまでの間に俺が何層かの地下迷宮を追加している。

 そこを切り抜けたような猛者たちなら、玄関口での物量戦でいきなり全滅することもないだろうし、他の冒険者たちと連携することを考えるようになってくれるかもしれないと期待している。

 風神の試練場は悪く言えば目新しさがないが、よく言えば基本に忠実の地下迷宮なので、作り手側の目線に立ってみると学ぶ部分は多い。


「攻城戦型って考えてると、こういうのを並べるのは悪手だよな」


 つまり、不死王の試練場と風神の試練場を重ね合わせるとしたら、こちら側にあるものはやってはいけないもの……ということになる。

 攻城戦型地下迷宮であるなら、城を攻めるという物語性が重要となる。俺が初心者用の繋ぎとして作っている部分にもそれはあるべきだ。

 いまのところは兵士っぽい感じの不死系魔物を配置することでそれっぽくしているが、それだけではやはりだめか。


「秘密の抜け穴とそれを守る兵士たちって感じか。水路とかいいよな。となると水路に潜む魔物って線もいけるか」


 城に入った後にもそれはあるべきだろう。そういった一貫性は攻略の糸口にもなる。

 誰にも攻略できないものを作るだけなら、入り口に大ボスを置いておけばいいだけの話だ。難解な迷宮も必要ない。単純な強さによって蹂躙すればいい。

 だが、そんな迷宮には誰も近寄らない。冒険者たちは命を捨てに来ているわけではないのだから。

 試練場として挑戦者を招き寄せ、そこで人々が戦うことに意味が存在する以上、『がんばれば攻略できるかも』という感覚を常に目の前にぶら下げさせておかなくてはならない。

 そして物語性の部分。つまり、この地下迷宮にはこういう大ボスがいて、それに連なってこういう連中がいるんだから、こういう装備でいこう、というということになる。物語性はそのまま攻略の糸口になる。

 不死系魔物だらけだからそれ用の装備を揃えて立ち回りを覚えて頑張って頑張って最奥まで辿り着いたのに、そこにいたのは不死系魔物とは何の関係もないかっちかちのゴーレムでした、なんてのはただの嫌がらせでしかない。


「だから、迷宮の最奥には吸血鬼を置いたんだよな」


 とりあえず、弱めに設定した神祖を置いてみた。弱めといっても神祖という格を維持しようと思えば限度がある。そこまで辿り着くような冒険者を殺すような愚を犯したくないのでできれば手加減ができるようにはしたいのだが、能力値以上の細かい設定はなかなか難しい。


「やっぱ、あそこの主人はイルヴァンにすべきかな」


 あの試練場の頂点に君臨する程度の実力はすでにある。しかもわざと負けたふりだってできるわけだし。あいつ自身が傀儡を操って正体を隠すことだってわけはない。


「まぁ、しばらくは踏破者なんて現れないだろうけどな」


 そこまでぬるい作りにはしていない。

 少なくとも玄関口の物量戦を攻略するにはある程度の人数が必要になるのだ。そこまでの数が集まるまでは抜け穴部分の迷宮でちまちまと戦い、生まれたアイテムを拾って生計を立てる感じになるだろう。


「となると通路部分でも無作為で強いのが出てくるようにするかな」


 挑戦者の実力に応じてか、それとも倒された魔物の数に応じてか……何らかの引き金を用意して魅力的なアイテムを落とすかもしれない強者を出現させるというのはありかもしれない。


「しかし、そっちにしてもどれぐらいの戦闘でどの程度の物が誕生するか。法則をきっちり把握しないとな。大盤振る舞いすると損するだけだ」


《神》位を得た恩恵なのか、その部分に関してはざっくりとした理解は存在するのだが、細かく詰めていこうとすると不透明な部分は多い。やはりまずは経験してみるしかないということか。


「……マスター、本気で退屈なんですね」


 もはや弓を構えることすらせず歩いている俺にノアールが呆れた声をかけてくる。


「お前でも片づけられるんだから俺が何かする必要もないだろ?」

「まぁそうですけど」


 途中からはノアールに試しに戦わせてみたのだが、思いのほかよくやれている。もとよりノアールはかなりの物量を少女の形に圧縮しているような状態なのだ。右手一本でもその質量を開放すれば大量の武器となって溢れ出し、襲いかかってきた魔物たちを武器の雪崩に呑み込んでいく。

 こんな初心者向けな魔物たちにやられるわけもない。直接噛みつかれたとしてもそのまま呑み込んでいくだけだろう。


「……ていうか、そいつは使わないのか?」


 俺が大太刀竜喰らいを指さすと、ノアールはむっつりと頬を膨らませた。


「……抜かせてもらえませんから」

「あーあ」

「なんですかその反応は⁉」

「いや、振られたのかなと……」

「ふっ! 振られていませんから⁉」

「刀だけに振らせてくれない」

「もう最低です。マスター最低」


 ぷりぷり怒るノアールが先行し次々と魔物を倒していく。

 俺はその後をのんびりと付いて行くだけでよかったので、また不死王の試練場の改良についてあれこれ考えていく。

 そんなだらだらとした地下迷宮攻略の末、どうやら最下層に辿り着いたらしい。

 それまでに出てきた階層ボスもノアールの物量戦で下してきたので、今回もそのままで行くつもりだった。

 だった……のだが。


「先客がいますね」

「だな」


 聞こえてくる音だけ状況を予測する。


「うーん? でもこれなんだ?」

「魔物と人の戦いではなく、人と人の戦いですよね」

「多対一。一の方が勝ってるな。こんなところで人間同士の殺し合いか?」


 攻略の途中で深刻な仲間割れでも起こしたのか?

 そんなことを考えているが俺の足は止まらず、もちろんノアールの足も止まらなかった。

 騒動の現場に至る長い道をぶらぶらと歩いていると、爆発とともに重そうな鎧を着た戦士? いや騎士が転がってきた。兜まで被った重武装の騎士だ。

 うん? ただの騎士じゃないな。鎧に太陽神の印がある。あるいは聖戦士か?


「ぐう……あっ!」


 俺の足下で呻いていた聖戦士? が兜越しに俺と視線を合わせて驚いた声を上げた。


「兄貴‼」

「は?」


 兄貴? なんで兄貴?

 と思っているとこちらに殺気が飛んでくる。

 いや、そんな気になる単語を出されたら見殺しにはできんよな。


「いま話し中だ」


 殺気の正体は矢だ。

 手を軽く振った衝撃波でそれを打ち落とす。


「殺すのは後にしろ」


 向こうにいる誰かにそう声をかける。そいつは俺にも殺気を向けたが、なにか驚く気配を見せて止まった。


「で、お前誰?」

「お、俺ですよ。シビリス。シビリス・バイウッケンですって」


 バタバタともがくように起き上がったそいつは兜を外した。

 いや、命狙われてる最中に兜を外すって……こいつ、なかなかのバカだな。


「……ああ」


 だが、兜を外した素顔には覚えがある。

 人に好かれそうな美形が兜に蒸されていた。


「思い出した。そういや、いたな。そんなの」

「うわぁ、ひでぇ……」

「ミリーナリナは覚えてたぞ。ここに来る前に話してた」

「うう……」


 情けなさそうに顔をしかめるイケメン。

 シビリスはタラリリカ王国の太陽神神殿大神官の息子で、俺に間抜けな詐欺を仕掛けて逆襲されたバカだ。

 その後、色々あってこの国に連れて来てミリーナリナを助ける時に利用した。

 そしてそのままアーゲンティルの行為でファランツ王国で聖戦士としての修業をしていたんだったか?

 そしていま、風神の試練場にいて俺の足下に転がっている。

 こいつがここにいるのは、わかる。


「で? なんでそっちはここにいるんだ?」


 俺はシビリスと戦っていた一人の方に声をかけた。


「お前ってこの国を裏切ったんだろ? ええと……ザルドゥル?」

「……そういう君はタラリリカで貴族になったのではなかったか?」


 そこにいるのは元ファランツ王国の第三王子で風の《勇者》ザルドゥル・ケントーリだった。


『庶民勇者は廃棄されました2』の刊行に向けて加筆修正中です。

色々とエピソードが変化していますのでどうかお楽しみに。

また、まだ一巻を購入しておられない方は下のリンクから各種サイトに移動できますのでこれを機に是非。

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