243 新米伯爵はやり放題 03
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ノアールとイルヴァンだけを連れてファランツ王国に行くことになった。
そのイルヴァンだが、この間の戦いで《上位吸血鬼》から昇華した。
普通に考えれば《太祖》や《神祖》になっていたのだろうが、イルヴァンのそれは違った。
得たのは《雷血女公》という称号……いや、魔物のそれは称号ではないか。
格、とでもいえばいいのか。
これが《太祖》や《神祖》より格上なのかどうかはわからない。
強さは上だろうけどな。
イルヴァンは影の中、ノアールは剣の姿になって俺の腰にある。
その形がかなり特異だ。
ノアールにやった大太刀竜喰らいを巻き込むような形で鞘が形成され、交差するように短めの剣が収まっている。
俺がやった他の武器のように一口で食べようとしたらできなかったのだ。
そこはさすがに神話級だということか。
ともあれ一度やったものを預かるのも変な話なのでこんな形で持っていくことになった。
「じゃ、行ってくる」
「お願いしますよ」
「行ってらっしゃい」
ラナンシェとテテフィに見送られて【雷天眼】による転移を行う。
すでに飛行型監視迷宮【雷天眼】の一つがファランツ王国の上空を飛んでおり、その視線が目的の屋敷近くの森を捉えている。
次の瞬間、俺の姿がそこにある。
魔法としての洗練化が進んでいるので、初期のような気持ち悪い姿になることもない。
「さて……」
森の向こうに見える立派な屋敷に向かって歩いているとざわざわと気配が近づいてきた。
周辺に配置された屋敷の護衛たちだ。
かなり厳重な警備を敷いているので、俺がいきなり現れたから驚いたのだろう。
包囲網を作るために視線の外側で蠢いている。
「タラリリカ王国のアストルナーク・ダンゲイン伯爵だ。冒険者のルナークでもいいぞ。ランダルス公爵閣下に会いに来た!」
俺の言葉で警備の連中がさらに戸惑うが、すぐに誰かが連絡を取っている音が聞こえてくる。かすかなその音を聞き取りながらその場で待っていると、やがて一人が姿を見せた。
「お待たせいたしました。主人がお会いするそうですのでご案内いたします」
「よろしく頼む」
斥候らしい軽装の男に案内されて門にまで辿り着くと、そこから執事に代わって屋敷へと入る。
ランダルス公爵はすぐにやってきた。
「よくきてくれた」
白髪白髯の大柄な男のアーゲンティル・ランダルス公爵は相変わらず元気そうだった。
「すまないね。今は戦争中だから警備が厳重でね」
「グルンバルン帝国だな。身内にも裏切られて大変だな」
「彼の場合は仕方ない。王子とはいえ生まれたときから継承戦争に敗れているからな」
裏切りというのはファランツ王国出身の勇者、ザルドゥル・ケントーリのことだ。
彼はファランツ王国の第三王子なのだが、新たにグルンバルン帝国の皇帝となったユーリッヒに忠誠を誓い、ファランツ王国との戦争では先陣を切って戦っている。
「とはいえ劣勢であることには違いない。国内は大混乱だよ」
そう言っているアーゲンティルはとても冷静だ。
それから俺が爵位を取っていることへの祝いの言葉などをもらい、本題へと移った。
「それで、今日の目的は?」
「ああ、それは……」
と、俺はタラリリカ王国の現状を語り、目的を話した。
「ふむ、物資かね」
「ああ」
「ご存じの通り、ここも戦時中だ。高値になるよ」
「それでもタラリリカ王国よりも安いだろ」
「それはそうだ。ああ、だが集めるまでに時間はもらうぞ」
「わかった」
ふむ、時間ができるか。
それならなにをするか?
「暇を持て余すならこの国にある試練場に行ってみるかね?」
「うん? あるのか?」
「あるよ。秘しているけどね」
「なんで秘すんだよ」
試練場の地下迷宮があるなら人集め、金儲けに最適だろうに。
「国の騎士団や戦士団の専用に使われているんだ。完全に秘しているわけではないよ」
「ああ……」
それは理解できる。
だが、戦神の試練場一つで街ができている様を見ているとやはりもったいないと思う。
「それ、行ってもいいのか?」
「許可証を発行するから行ってみると良い」
「そうさせてもらおうか」
話はそれで決まった。
どれも許可証は近日中に用意できるというので滞在先を決めることにする。
屋敷に泊めてもらえるかなと思ったが駄目だった。
「そういえば、お孫さんは元気か?」
「……ああ、元気だよ」
最初に会った時に助けた孫娘のことを思い出して聞いてみる。
これぞ深窓の令嬢と言わんばかりの儚げな美少女だった。
そのおまけのように聖戦士修行しているはずのシビリスとかいうののことも思い出したが、まぁそれはいい。
「店を一軒任せてね、商人修行をさせているよ」
「へぇ」
「なんだね?」
一転して不機嫌になったアーゲンティルが俺を睨む。
どうやら商人修行させているのはかなり不本意なようだ。
箱入りにしていたいのにそうできないのが気に入らないのだろう。
だが、力ずくで箱にも入れられない
「孫には手を出さないでくれたまえ」
「大丈夫。俺は相手の意思を尊重するから」
答えにならない答えにアーゲンティルが目尻を吊り上げたので俺は逃げ出した。
見送りの執事に試練場が王都の近くにあることと、王都でお勧めの宿屋を聞いておく。許可証などはそちらに送ってくれるそうだ。
「伯爵様」
黙って見送られるのかと思ったら違った。
「ご主人様はミリーナリナ様を大変、心配しておられます。どうかご様子を見てあげてくださいませ」
「公爵は行かないのか?」
「あまり頻繁にいくとミリーナリナ様に嫌われてしまうと」
その様が想像できて笑ってしまった。
こんなご時世なのもあるが、爺馬鹿なのもあるだろう。俺は店を覗きに行くことを約束し屋敷を出て【雷天眼】でファランツ王国の王都ランツに飛んだ。
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