238 女王の戴冠 03
帰って来たらめちゃくちゃ怒られた。
「理不尽だと思わないか?」
「ええと、みんなそれだけ困ったんだと思いますよ?」
テテフィは癒し。
これはもう不動の事実だ。
ラーナとの長い長い戦いになんとか決着をつけて戻って来てみると、みんなに寄ってたかって「遅いなにしてた」と怒られた。
誰一人として心配という言葉を使わなかったのはどういうことだろうか。
納得いかないぜ。
「ええと……でも、わたしの一件からなんだか大変なことになったみたいで」
「うん? あ、ああ……それは気にする必要ない」
そういえば、テテフィがヤグオートに襲われたのも今回のきっかけの一つだな。
「あれは俺をおびき寄せるための罠だったんだからな」
「そ、そうなんだ」
テテフィにはランザーラ王国がゾンビ禍に飲まれて滅んだという話と、俺はそれを企んだ吸血鬼の王と戦って勝ったという話しかしていない。
まっ、色々あって神になりましたなんて言っても「あなた頭大丈夫ですか?」をテテフィなりの優しい言い回しで言われるだけだしな。
「まぁとにかく。そういうわけでランザーラ王国が滅んだからいろいろと後始末が大変なんだよな」
タイタニスがやってきて降伏を申し入れてきた以上、あの土地の管理はタラリリカ王国が行わなくてはならなくなったのだが、なにしろ役人も含めて主要都市にいた者たちはほとんどが死んでしまったので残された書類から調べなおさないといけないし、生き残った者たちもこんな危険な場所にはいられないとこちらへの移民を希望している。
彼らの受け入れをダンゲイン領が行えと大臣連中から圧力がかけられている……と、すでにダンゲイン伯爵領の内政を仕切っているラナンシェが胃薬欲しそうな顔で俺を責めた。
「まぁね。引っ掻き回すつもりで行ったのに滅びちゃうとは思わないだろうな。ってことはわかるんだが、だからって全部俺のせいにされても困るよな」
「ええと……それで……聞いてもいいですか?」
「うん?」
「どうしてわたしたち、ここにいるんですか?」
テテフィが不安げに辺りを確かめる。
ここはスペンザ冒険者ギルド内にある応接室だ。
内密な話とか偉いさんとかと話をするときとかに使われる場所だ。
「いや、だって俺って一応は伯爵じゃん?」
「そうなんですけど。でも、どうしてわたしまで?」
「それはテテフィが今回の肝だから」
「どういうことです?」
テテフィの疑問に答える前に奥の扉が開いてギルドマスターが現れた。
「お待たせしました。ダンゲイン伯爵」
何度か見たことあるギルドマスターがやりにくそうな顔で俺に挨拶してくる。自分ところに登録していた冒険者が貴族……しかも伯爵になるなんて考えたこともなかったろうしな。
「それで、今回のご用は?」
「タランズの冒険者ギルドではもう話したんだが、うちの領で試練場の入り口が見つかる予定だ」
「予定?」
「あ、違った。見つかったんだ」
「はぁ……」
はっはっはっ。あぶねぇあぶねぇ。
「俺が作るから」とか言ったら頭のおかしい人扱いだからな。
正確にはランザーラにあるあの巨城への転送用迷宮をダンゲイン伯爵領に設置したのだ。
ちなみにあの巨城の名前は不死王の試練場っていうことにした。これからまた調整していくつもりだが不死系魔物ばかりを出す予定だ。
「それで、だ。入り口を中心に新しい街を作るつもりなんだよ。人口も増えたしな。で、冒険者ギルドも作ってもらうつもりなんだが……そこにこのテテフィを派遣して欲しい」
「え⁉」
俺の申し出にテテフィが驚いた顔をした。
「き、聞いてないです⁉」
「うん。言ってなかったから」
「なんで⁉」
「いや、だって顔見知りが多い方がいいかなって……嫌か?」
「嫌っていうか……びっくりしてるだけですけど……」
「ああ、ちょっといいかな?」
ギルドマスターがそっと手を上げた。
「その件に関してはタランズのギルドマスターにも人手を出して欲しいと言われているから、これから希望者を募るところだった。だからテテフィは行きたいというのなら、こちらは特に問題はない」
「そうか。そりゃよかった」
「そういうわけで、後はそちらで話し合いをしてくれ」
「了解」
そう言って、ギルドマスターは応接室を出ていった。
話の分かるおっさんでよかった。
「で、嫌か?」
「嫌っていうか……その、なんだか話が急だったから」
「正直俺も、普通の冒険者としてここに来ることはほとんどなくなるだろうからな。テテフィがここにいると会う機会がなくなっちまう」
「あ……」
「まぁ、テテフィがこれを機に俺と手を切りたいっていうならそれを止める気もない。俺の女性観はもう知ってるだろうしな」
俺だって色々考える。
あのヤグオートのきっかけになった一件。俺の側にノアールがいたからテテフィは嫉妬した。
つまり、彼女は俺に気がある。
気があるが俺の女癖が悪いこともわかっている。
だからどうしたもんかと悩んでいるのだろう。
「どうする?」
「…………行くわ」
「はやっ!」
「な、なんですか⁉」
「いや、『考えさせて』とか言われると思ってたからな」
「もうずっと悩んでるからいまさら考えても答えは変わらないから」
「お、おう」
「たぶん、わたしはあなたのことが好きよ。あなたはきっと、わたしのことが一番ではないだろうけど」
「ぐっ……いや、まぁ……なんといいますか」
おおう、他の女相手なら堂々と言い切れる自信があるのにテテフィだとそうはいかない。
元聖女の清廉な思考が俺を威圧する。
不真面目は許さないこの空気感が俺は苦手だし、そして俺がテテフィに惹かれている部分でもある。
テテフィは今回の誘いを俺が一つの区切りにしようとしていると察したのだろう。
俺は基本、遊べる女しか興味はない。だから本来、テテフィは興味の外にいるはずなのに、いままでずっとつかず離れずの関係を続けてきた。
それが他の連中にどう思われているのかは知っていたし、それを訂正する気もなかった。
なかったことだが、もしもあの時期にテテフィが誰か別の男に興味を持っていたら、俺は嫉妬していたことだろう。
身勝手な話だ。
今回、俺は伯爵になり領地経営に関して大きな動きができ始めた。
きっとしばらくは動けなくなることだろう。
そうなったら気軽にスペンザに来ることもできなくなる。
だから、テテフィにこの話をした。
俺みたいなんが付きまとっているせいでテテフィが幸せを逃しているのだとしたら申し訳ないからな。
だからこれを機にどうするのか彼女に尋ねたわけだ。
相手に判断を任せるなんて……って思いもあるが、まぁ仕方ない。
俺はこんな性格だしな。
「それに……」
そんな俺を見ながら、テテフィが珍しく悪戯っぽい目を俺に向けた。
「あの時追いかけて来た真意をもう少し確かめてみたいから」
「お、おう……」
上目遣いにそんなことを言われて、俺はぐっと来た。
「……ちょっとこれからお持ち帰りしてもいいかい?」
「それはだめです」
きっぱりと断られた。
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