230 西より天騒ぐ 10
「《天》位を得る者はどのようなものかなんて、もはやどうでもいいことだろう」
「ああ、まったくだ!」
リストは笑い、俺は吠える。
絶技を込めた神話級の武器がぶつかり合い、お互いに壊れた。神話級の武器に宿っていたエネルギーはすさまじく、超級の魔法に匹敵する衝突によって空間が壊れた。
空間の割れ目から除くのは暗黒。あふれ出すのは夜を素地とした虹色に変化する燐光。
世界の法則を乱す混沌粒子が溢れ出した。
ラーナと遊んだ時にもこいつが出てきた。
こいつがあると魔法もまともに動かなくなるし、武器や防具がその性能を発揮できなくなる。
ていうか俺自身、あれに触れたら体がまともに機能しなくなったり、異形化したりする。
ろくでもない存在だ。
「ちっ」
「ははっ! はっ‼」
気体に戻らなくなった魔杖剣雲来・風来を捨て、俺は舌打ちする。
リストの笑い声が苛立たしい。
なにかと思っていると奴の周りで新たな変化が起きていた。
「これは大収穫だ。どうもありがとう」
「……ざけんな」
リストの嫌味に、さすがに俺もひきつる。
奴は俺が退避した混沌粒子を自分の周りに集め、そして一振りの武器を作った。
大鎌だが、いままでの死霊刀繭墨とは違う。金と銀を組み合わせたような派手な逸品だ。
そして武器が出来上がったとともに奴から感じる気配の濃度が上がった。
「素晴らしい逸品だ。……そうだな、聖霊刀綾衣とでも名付けようか」
うっそだろ。
どういうことだ?
いま、奴は混沌粒子から武器を作ったのか?
しかも武器から溢れ出る威圧感。
間違いなく、さっきまで使っていた死霊刀繭墨よりも強い。
「おや? もしかして君は、これができないのかね?」
「……うるせぇ」
「ははっ! 主戦場を混沌粒子で満たしたのは意図あることだったのだろうが。そうか、ダークエルフはこれを君に教えなかったのか。……君、本当に大事に思われてるのかね?」
「必要以上に甘やかさない、いい女なんだよ」
「そうかね?」
聖霊刀綾衣・【神器覚醒】・【裏式狂舞】×十.
「っ!」
迫りくる大鎌の群れが黒から金色に変わる。
もちろん、繰り出される技の速度、威力、範囲。全てが強化されている。【雷天眼】の転移を使うのが遅かったら
「しかしだとすれば、君、これ詰んでないかな?」
「…………」
「君が私に対抗して強い力を使えば使うほど、世界は壊れ混沌粒子が溢れ出す。私はそれを利用して強くなる。君は武器を失い弱くなる」
「…………」
「彼女は私をのことを知っていたはずだ。それなのに君にこの程度のことも教えていなかった。この差は死を意味するというのにね」
「…………」
「その女は本当に君のことを思っているのかな? ただの勘違いではないのかね? あるいは君の片思いではないのかね? 遊ばれているだけでは? いい玩具だろうね。田舎者の庶民勇者よ。誰にも愛されてこなかった哀れな半端者よ。自分を認めてくれた女に犬のようにすがり、犬のように捨てられるのだ」
「……言いたいことはそれだけか」
「まだあるが、希望するなら反論を聞こうか?」
「おお、じゃあ、聞いとけよこの野郎」
暢気な会話の間にまた包囲されないように気を付けつつ、俺は言い返す。
「まず言っとくが、ラーナはいい女でいい女でいい女だ。それ以上ではあってもそれ以下じゃねぇ。俺を捨てたとしてもそれは変わらねぇ。ここで俺が負けるとしたら、それは俺が弱いせいであって、ラーナがどうこうじゃねぇ。あいつが俺に何も教えなかったのだとしたら。それはあいつが、ほっといても俺は勝手に覚えると思っていたからだ。悪いのはそれに応えられない俺の弱さだ」
ていうか、そもそも……だ!
「他人を当てにするとか……あの地獄を抜けてきた割にはぬるいことを言うなぁ! 死の勇者‼」
「そうか、では己の弱さを嘆きながら死ぬといい」
つまらないという顔でリストは聖霊刀綾衣を構えなおす。
俺は転移で均衡の真反対に移動した。
だが、お互いにこの超エネルギーの均衡を維持するという枷があるため、あまり離れた場所には動けない。
だが、考える時間が欲しい。
戦闘から一瞬でも切り離された場所で思考を突き詰めたい。
それはどこだ?
「あっ!」
あった。
すぐに場所を見つけて追いかけて来た大鎌から逃れ、俺は無限管理庫に飛び込んだ。
ここならば時間制限付きではあるが考える余裕がある。
無限に広がる空間には、いままで俺がここに放り込んだ様々なものが保管されている。
魔杖剣雲来・風来の代わりを求めながら、俺は考える。
武器を再生させたり、新しく作ったり……あれはどういう仕組みだ?
あいつが死なないのは偽魂石の仕組みを解析して迷宮にそれを取り込んだからだと見当付けている。
現在もランザーラ王国を飲み込み中のゾンビ禍とそれに伴って拡大する奴の迷宮から考えても、的外れだとは思えない。
だとしたら、これもまた迷宮が関係しているのか?
迷宮……迷宮と考えるから何かおかしな誤解をしてしまう。
その多くが迷宮という形で残っているからそう勘違いしてしまうが、本質はそこにはない。
魔力炉しかり、【天雷眼】しかり、連結生成しかり……あれは、紋章の組み合わせによって誕生する新たな力、新たな現象だ。
「なら、武器を再生したり新しく作ったりする機能があってもおかしくはないってことか? どこにあった?」
あったのだとしたら、太陽神の試練場を侵食した時に手に入れていてもおかしくない。
「俺が気が付いていないだけ。紋章の組み合わせでそれが発現するなら、そういう可能性だってある」
次の武器を選ぶ。
ランスに斧をくっつけたような無理やり感のあるハルバード、鬼角ダルダンチュアにした。
防具は……まぁいいか。現状、触れられたらすぐ壊れる以上、あまり役に立っていない。
「さて、時間がないぞ」
紋章が原因で確定として、それはどういうものなのか?
いや、物品を作るっていうと、あれか?
昔を思い出した。
まだ、ユーリッヒやセヴァーナと戦神の試練場で修行していた頃。
武器に困って試練場の魔物から奪ってやりくりしていた。
迷宮産の魔物は死ととも所有していたなにもかもを消してしまうが、殺す前に奪ったものは一緒に消えないのだとわかって、それを利用して壊れた武器の代わりを手に入れていた。
その時の経験をもとに、地獄ルートでは黄金騎士から黄金の剣を大量に奪ってやった。
それは今でも無限管理庫で黄金の山を作っている。
太陽神の試練場でも雨霰と降り注ぐ矢をかき集めて換金してやった。
武器を作る能力は迷宮には存在する。
さっきの奴が再現した座頭猿魔どもだって当たり前に武器を持っていたじゃないか。
古代人の迷宮には宝物がほとんどないが、神々の試練場にはいくらだって財宝が現れる。
そういう機能がないから、ではないのだとしたら?
「無から有が作れるわけがない。試練場ではドロップ品があったりもした。迷宮での戦いは挑戦者だけでなく、迷宮の創造主にとっても利益があるのだとしたら……?」
そういう力の流れか?
「答えは手に入れたかね?」
時間切れだ。
無限管理庫から放り出された俺をリストが待ち構えていた。
「さあ、どうかな?」
「そうか。では死にたまえ」
「うるせぇ、てめぇが死ね!」
揶揄する笑みに怒鳴り返し、俺は鬼角ダルダンチュアを繰り出した。
放たれた技と技のぶつかり合い。
鬼角ダルダンチュアはあっさりと砕けたのだった。
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