228 西より天騒ぐ 08
二つの力が衝突している。
一つは光と音の集合体、雷。
一つは静謐な黒、死。
かつて謁見の間であったこの空間で黄金と黒のエネルギー塊が衝突し、せめぎ合っていた。
絶妙な均衡によってその位置にとどまる二つの超エネルギーだが、続く供給によってその均衡は簡単に揺れ動き、その余波がそこら中にばらまかれる。
鮮烈なる轟雷は刃のごとく周囲を切り裂き、陰鬱な死は命を焦る粘体のように乱れ飛ぶ残骸を砂に変える。
完全に均衡が崩れたとき、そこで生じる破壊はいかばかりなものか。
周辺一帯を焦土に変えるのは当然だろう。
あるいはランザーラという国を消滅させてしまうかもしれない。
あるいはもっと広く……。
そして『世界の牙』……人類と魔族が争った主戦場のように狂った法則によって虹色の光がたゆたう空間となりはてるのか。
そんな危険な状況をしり目に、二人の超人は戦い続ける。
暴風に弄ばれるにはあまりに巨大な、ことによってそれ一つで民家にも等しいほどの体積を持つ建材がぶつかって来ようとも気にすることなく、己の技と力をここぞとばかりに発揮する。
「はっ! はははははははははははっ‼」
気分よく俺は笑う。
殺さんとする意思が迫ってくる。触れただけで俺でさえも命が失われる強力な殺意と確定した死だ。
概念としての死が現実の生命活動を停止させる。
この黒い死を前にすればあらゆる活動する物体はそれを止めてしまう。
俺や、おそらくはラーナでさえも例外ではないだろう。
すでに偽魂石が二個吹っ飛んだ。
荒れ狂う死は俺を一飲みにしてやろうと触手を伸ばしてくる。
だが、楽しい。
「蟲人の後だとこういう分かりやすい殺意の方がありがたいぜ!」
むしろほっとする。
命のやり取りというのはこうでなくてはいけない。自殺できないから殺してくれなんて言ってくるような連中とやり合うぐらいなら、殺意を以て前に立ってくる奴らの方がはるかに健全だ。
宙を飛ぶ俺は暴風を掻き回して伸長する無数の黒い鎌から逃げ回る。
もちろん、反撃も忘れない。
魔杖剣雲来・風来・【神器覚性】・【剣神斬華】×十。
魔杖剣雲来・風来は形のない武器だ。気体金属とでも表現するしかない不可思議な霧が俺の両腕にまとわりつき、その時々に応じて必要な形を生み出す。
使いこなすには《剣聖》以上の実力が必要というとても厄介な武器だ。
というか《剣聖》やその先の《武聖》となってもあまり使いこなせる気がしなかったのでお蔵入り状態だった。
だがいまは自己成長する生体金属剣ノアールっていうもっとわけのわからないものを使っているせいか、なんだか妙に使いやすく感じる。
まぁ、あいつみたいに時々持ち主の動きを無視して食欲を優先することもないしな。
そんな魔杖剣雲来・風来で放った特大の連続斬撃波は、一発ごとに別の武器に変化したためにその形も軌道も摩訶不思議なものとなってリストに向かっていく。
「ふふ……怖いねぇ」
同じく暴風の中を移動するリストはそんな呟きを漏らしながら死の鎌を振るって斬撃波を迎撃する。
その様子に俺は舌打ちする。
わかっていてもその結果はむかつく。
むかついて、わくわくする。
「気体金属剣での予測不可能な攻撃で遠距離を埋め、近接した瞬間に必殺の技を繰り出す気だね。怖いですね。まったく怖い」
「読み切っておいて、よく言うぜ」
「それはもちろん。あなたよりは長生きですから」
「ああそうかい!」
こっそりと背後に回り込もうとしたリストの黒鎌をかわし、俺はまたあいつの隙を伺って動き回る。
初撃の【天雷天破】があんな形で食い止められて以来、ずっとこうやって牽制をやりあっている。
……っと、あいつの番だな。
常に俺の側に張り付き、隙あらば襲いかかってくる黒鎌とは別のものが接近してくる。
残骸から残骸へとを跳んで近づく姿は昔に見た懐かしい姿だ。
「今度はお前か! 座頭猿魔‼」
「キッ!」
右手に剣、左手に鎖を握った盲目の火猿は俺の声を聞きつけて鎖を投げつけてくる。
あれに捕まったら死ぬまで一対一の決闘を強制される。
「悪いな! 今日はお前に付き合う暇はねぇ!」
「ギッ!」
飛来してきた鎖を切り落とし、返す刀で首を切り、その体を四分五裂に切り分ける。連中の生命力を舐めてはいけない。奴らの決闘に対する執念はすさまじく、首が落ちてもまだ動くなんてざらにやってのける。
一体倒してこれで一つ切り抜け……というわけにはいかない。
「けっ!」
前面にいきなり現れた光景に、思わず笑いそうになる。
無数の座頭猿魔が進行方向から姿を現し、鎖を投じてくる。
「だからっ! 遊んでる暇はねぇ!」
【雷帝】
駆け抜けた轟雷が盲目の火猿たちを焼き払う。
魔法を放った瞬間の停止を狙って黒鎌たちが殺到してくるが、こっちだってそれを狙われてることぐらい承知の上だ。
全部かわして再び移動を開始する。
「……ちっ」
よけきったと思ったが、そうじゃなかった。
修羅王の戦衣の裾が黒ずみ、風に吹かれて崩れた。
神話級の装備がいとも簡単に穴をあけるか。
「まったく、厄介だなぁ!」
「笑いながら言うことかね?」
座頭猿魔の影に隠れていたリストが距離を詰めてきた。
死霊刀繭墨・【神器覚醒】・【裏式狂舞】×六。
「ううおっ!」
【雷速】
襲いかかる無数の黒鎌から雷の速度で退避する。
「くっそっ! 普通にかっ飛ぶだけじゃだめだな」
離れた場所で顕現した俺は真っ黒になった修羅王の戦衣を破り捨てた。
偽魂石は砕けなかったが代わりに神話級の防具が壊れた。
どっちにしても痛い。
どちらも二度と手に入らないからな。
「当たるとだめなら当たらなきゃいい」
だが、どうやってそれをする?
「んんん……ああ、手はあるか」
とはいえ、ここは奴の庭だ。
あいつを支える強大な魔力はこの巨城型迷宮にあるのはわかる。
いや、場合によっちゃ、もうこの国全体が奴の力の根っこになっているだろう。
「うざい即死攻撃をどうにかするのも命題だが、まずは奴の庭を荒らすしかないよな」
ていうか、それも進行中だ。
太陽神の試練場でやったことを繰り返すだけだ。
たとえリストが何百年かけてここを用意していようと神の迷宮に敵うわけがない。
「後の問題は……」
魔杖剣雲来・風来・【神器覚醒】・【雷帝】・重唱・属性上昇・属性超上昇・付与・【剣神斬華】
【極光神槍】重唱・属性上昇・属性超上昇×十。
雷帝を付与した【剣神斬華】で奴の攻防の要となっている黒鎌・死霊刀繭墨を打ち砕き、そこに出来上がった隙に【極光神槍】をねじ込む。
光の速度で結果をねじ込む【極光神槍】によってリストは心臓を貫かれ、そこから発する熱量によって瞬時に塵に変わった。
そのはずだ。
手ごたえもあった。
だが、次の瞬間には奴は別の場所にいる。
砕いたはずの黒鎌、死霊刀繭墨まで復活している。
「偽魂石を持ってたら賭けの品にするはずもないよな。さてさて、どういうカラクリか」
面白い。
とても面白い……が。
こいつを見つけ出さない限り、俺に勝機はない。
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