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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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226/265

226 西より天騒ぐ 06


 白い部屋に兄一人。

 その兄を、タイタニスは信じられない思いで見つめている。

 兄の名前はストルード。

 ランザーラ王国の王太子だった人。

 なぜか廃嫡されてタイタニスがそれになった。

 どうしてそんなことになったのか信じられなかったけれど、いまはわかる。

 首に付けられた二つの穴。

 吸血鬼。

 血を吸う鬼が一国の王になれるわけがない。


「そんな、どうして……」


 兄は意志の強い人だった。頼りになる人だった。

 幼さが消えない中性的な容姿のせいで陰口を叩かれるタイタニスとは違い、ストルードは雪に負けない武骨な好男子だった。

 そんな彼がどうして吸血鬼の誘惑に負けてしまったのか。


「どうして、兄さん⁉」

「どうして、どうしてと……うるさい!」


 吠えた兄の口からありえないほどに肥大した犬歯がこぼれ出た。


「ひっ!」


 恐怖におののく弟の顔で我に返ったストルードはその場で膝を突き、頭を抱えた。


「逃げろ、タイタニス。ここにいてはいけない。今すぐに国を出るんだ」

「え?」

「あの方はこの国を生贄にして死を超えるつもりだ」

「死を、超える?」

「そうだ」

「え? でも、吸血鬼……なんでしょ?」

「そうだ」

「吸血鬼が、なんで? え? 死を超える?」


 もう超えているのではないのか?


「そんなこと、あんな奴の考えが俺にわかるものか!」


 空白の時間が二人の緊張を少し抜いた。


「くっ……」

「あは……」


「「はははははははははは……‼」


 少しだけ笑う。

 わずかばかりに抜けた緊張によって、逆に自分たちがどれだけ精神的にすり減っているのかを理解してしまったからだ。

 それを癒すために放たれた笑い声は、しかし自分たちの悲しい現状を押し付けるだけにとどまる。


「逃げられないよ、兄さん」

「……どうしてだ?」

「逃げ方がわからない。ここにどうやってきたかもわからないんだ」


 そして、城の外に出られたとして、一人であの豪雪地帯を抜けられるとは思えない。

 ダンゲイン伯爵は助けてくれるだろうか?

 そもそも、彼らはまだ生きているのだろうか?

 ……途中から合流した狂戦士たちはすでに城を脱し、今度は王都からタラリリカ王国への脱出口の途中だと知ったら、タイタニスはなにを思うだろう?

 だがそのことは、この場の誰も知らない。

 踊らされてやってきた第二王子はただここで茫然とするだけだ。

 そして彼らを躍らせた厚化粧の吸血鬼というのもすでに滅んでしまっている。


「そうか。仕方のない奴だな」

「……僕たちはここで死ぬの?」

「いいや、死ねないんだ。俺がこの儀式の現在の核なら、お前はその予備だ。何があっても生かされる」

「その……あの方っていう人のために?」

「ああ」

「そっか……」


 ずっと静かだった空間も気付けばなにか騒々しい。

 だけど音はこの白い空間の中で起こっているのではない。

 どうやら外で起こっているようだ。

 それを確かめたくても、外に行くための道はどこにもない。


「なにが起きてるの? 兄さん?」

「わからない」

「僕たちはこれからどうなるの?」

「わからない」

「わからないだらけだね」

「ああ……俺たちの人生なんて、わからないことだらけだ」

「わからないっていえば、兄さん」

「うん?」

「兄さんって、結婚してたよね?」

「ああ」

「子供もいたよね?」

「ああ」

「それなのに、どうして吸血鬼になれたの?」

「…………」


 吸血鬼に噛まれて吸血鬼になるのは童貞と処女だけ。

 不意に思い出した記憶にタイタニスは自分自身で首を傾げた。

 なんでいままでそれを思い出さなかった?

 いや、どうしてこんなことを知っている?


「……なんで、僕はいまこんなことを?」


 でも、もしこれが事実なら、どういうことなんだ?


「……あなたは、兄さん……なのか?」

「…………カハァ」


 静かに声を零すストルードの笑み。その邪悪さを目の当たりにした瞬間、タイタニスは息を呑んだ。



特設サイトができました!

https://over-lap.co.jp/narou/865545098/


「庶民勇者は廃棄されました」第一巻 六月二十五日に発売されました。

特典SSのリストです。購入の参考にしていただければ幸いです。

■アニメイト

「冒険者的方向性の違い」


■ゲーマーズ

「初めての庶民勇者」


■とらのあな

「目覚めの吸血鬼」

+【有償特典】タペストリー


■メロンブックス

「ある朝の冒険者ギルド受付」


■特約店

「酒場で冒険者相手に語ること」


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