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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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212/265

212 太陽の階段 02


 皇帝アイドナッハの死によってグルンバルン帝国の歴史は幕を下ろすことになる。

 が、そのことを人々が知るのはもう少し後のことだ。


「…………」


 血に濡れた玉座をユーリッヒは黙って見下ろす。

 すでに死体は片づけられた。


「皇帝になった気分はどうだい? ユーリ」

「悪くはない」

「おっと、もうこんな気安い口調は許されませんな。陛下」

「そうだな」


 振り返ればそこに立っているのはザルドゥルだ。

 ファランツ王国に所属する風の勇者は、当たり前のようにそこに立ちユーリッヒが掲げる新たな紋章が刺繍されたマントを羽織っている。


「次はファランツ王国だ」

「ああ」


 ユーリッヒの宣言をザルドゥルは涼しい顔で受け入れた。


「いいんだな?」

「いまさらだね。俺があの国に愛着があると思うかい?」

「いま見えていることが全てではない。それは、自分の心だって同じだ」

「……思慮深いお言葉、敬服の至り、だ。だが、余計な心配だよ」

「ならばいい」

「そう、いいんだよ。なにしろこれが俺たちが出会ったときに掲げた理想じゃないか」

「ああ、そうだな」


 この世界は狂っている。

 どうして人々の中から勇者が選ばれ続ける?

 どうして人類領と魔族は戦い続ける?

 魔太子と呼ばれる存在と勇者との違いはなんだ?

 選ばれし者の責務というが、選ぶ対象を選んで(・・・・・・・・)きただけではないのか?

 雷の勇者アスト。

 庶民の中から見いだされた勇者。

 奴を見たときからユーリッヒの中にこの疑問は浮かび続けてきた。

 浮かんでは握りつぶしてきた。

 貴族とは正しく人の上に立つ存在であり、故にその身を犠牲とすることも厭わない。

 だからこその高貴な存在であると。

 だからこそ、勇者は貴族の中からしか生まれないのだと。

 だが、奴は庶民の中から現れた。

 ユーリッヒの考えがただの勘違いであると。

 貴族という階級を守りたい連中によって刷り込まれた欺瞞でしかないのだと、嘲笑されているかのようだった。

 お前は誰かによって作られた都合のいい嘘を崇高なものだと思い込んでいるだけだと、そう言われているかのようだった。

 だからこそ、奴は消えなければならないと思った。

 強く、そう思った。

 生まれたときから教育されてきた世界が嘘だといわれて、それを信じることなどできるはずがない。

 なんとしても消さなければならない。

 だが、アストは消えなかった。

 死ぬこともなかった。

 その姿はまるで、数多の苦難を生き延びる英雄のように、真なる勇者のように見えた。

 誰かに用意された迷宮で、誰かによって最適化された試練で、誰かによって用意された装備で、ただ進むべき道を進んでいるだけの自分とは違うのだと……。

 お前は違うのだとアストの姿はユーリッヒにそう言い続けていた。

 それを認められるわけがなく、それを許せるはずがない。

 お前は偽物なのだと言われて冷静でいられる者がどれだけいようか。

 己の間違いを素直に認められる人間がどれだけいるだろうか。

 ユーリッヒは冷静ではいられなかった、認められはしなかった。

 だが、その事実を消そうとする行為が、そのまま奴への試練となっているという事実が許せなかった。

 止められない憎悪と、それを押しとどめようとする正義感のぶつかり合いはユーリッヒを壊し続けた。

 全てから目を閉ざしていたセヴァーナはわからなかっただろう。


「奴は本物だ。だが……だからこそ」


 この世界は狂っている。

 王も貴族も庶民も、全てが間違っている。

 この世界のあり方も間違っている。


「世界の、間違いを正す? 崇高、だね」

「っ⁉」


 謁見の間に響いた新たな声にザルドゥルが緊張した顔で振り返る。

 知らない声ではない。

 むしろ知っているからこそ、死の予感に顔をひきつらせた。


「あなたたち、のおかげで、計画がだい、なし」

「魔導王シルヴェリア……陛下」


 クマのぬいぐるみをひきずる目つきの悪い少女がぽつりという風情でそこに立っている。

 その姿にザルドゥルは喘ぐ。

 彼女の強大な力の前では全ての勇者が成すすべもなかった。

 だからこそ、ザンダークの支配者としてそれぞれの国で甘やかされてきた勇者たちを押さえつけることができていたのだから。


「アスト、に関わったらどうなるか、もうすこし、で思い、知らせられたのに」

「……魔導王殿のたくらみの邪魔となったのは詫びよう。だが、貴様の私怨に付き合ってはいられない。私には私の理想がある」


 冷たく返すユーリッヒにシルヴェリアは色素の薄い唇を引き延ばして笑った。


「太陽王、あなたは、どうやら、見えたよう、ね」

「なにをだ?」

「この、世界の、真実」

「…………」

「人が、作った、階級社会なんて、砂の城、でしかない」

「そうだな」

「見た、でしょう? あれこそ、が、絶対的階級社会。本当に、戦うべき、真なる人類の敵」

「…………」

「ねぇ、手を、取り合い、ましょう?」

「…………」

「いまの、わたしたち、なら、きっと……」

「ならば真の姿を見せろ」

「っ⁉」

「いつまでその哀れな呪われた少女の影に隠れているつもりか?」

「ふ、ふふ」

「私は太陽王。全ての真実はこの光の前から隠れることはできない」

「ふふふ……でも、それも、正解ではない、わたしもまた、魔導王」


 笑うシルヴェリアの影からゆらりと長身の女性が現れる。

 引きずるクマのぬいぐるみの背中が裂けて、骸骨が姿を現す。


「妾たちこそが魔導王」


 優美な女が言う。


「一千年、の、時を潜り抜けた、最古の王」


 骸骨が途切れ途切れに喋る。


「そしてあたしが現代の魔導王。この不老を哀れと言うなんて、あなたも愚かね太陽王」


 突然に流暢に、そして幼い声で喋った少女の挑発に、ユーリッヒは動じなかった。


「目的はなんだ?」

「あなたの感じたことへの怒りこそが正解よ、太陽王」

「この世界、は、不平等」

「誕生した瞬間からそれは決まっている。王と貴族と庶民、そんな何かあったら簡単に覆るような脆いものではない。絶対に揺るがすことのできない完璧な階級制度が存在する」

「妾たちはそれを破壊する」

「それこそが、魔族との戦いを、回避する、道」

「そのためには」


「「「神を殺す」」」


「なぜならば……」


 魔導王の決意を受けてユーリッヒは口を開く。


「人間、エルフ、ドワーフ……亜人を含めた全ての人間種は、神を生むための子種にしか過ぎないからだ」



「庶民勇者は廃棄されました」第一巻 6月25日発売です。

Amazonで予約可能です。

よろしくお願いします。


アキバblog様にて「庶民勇者は廃棄されました」1巻の記事が掲載されました。

http://blog.livedoor.jp/geek/archives/51584668.html

第一巻発売に向けて6月中から発売日6月25日周辺まで不定期ながら更新していきたいと思います。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最近この小説を見つけて、楽しく読ませてもらっています。 どれほど力を手に入れようと俗物的な人間臭さの抜けない主人公はどこか憎めません。欲求に正直な主人公を羨ましいとすら思ってしまいます。 …
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