表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

198/265

198 狂戦士と吸血鬼の狩り場 1


 ……と、考えてはいるものの世の中そううまくいくものでもないだろう。


 その日の内にスペンザを出てタランズに向かう。

 リンザの案内でダンゲイン家の別邸でラナンシェと合流した。


 待ち構えていたのは二人同時に相手にする楽しい夜……ではなく、ただひたすらの書類整理だった。

 ラナンシェが独自に雇い入れた調査員たちや大工たちとの契約書や、後を継ぐに当たっての手続きなど……とにかく俺のサインが必要な書類を山と抱えて待ち構えていたのだ。


「わたしだけが苦労してそれで終了なんて思わないでくださいね」


 ラナンシェの笑顔には殺気があった。


 やれやれと徹夜でそれらへの書類の確認を終え、仮眠を挟んでから城へと向かう。


 俺たちがやって来るとすぐに案内に者がやって来た。

 リンザとラナンシェは待機用の部屋で別れた。

 案内された部屋はいつもと違った。


 円卓の置かれた会議室だ。

 部屋の奥には玉座が置かれているので、そこにルニルアーラが座るのだろう。


 では、今回は内密の話ではないということか。

 円卓にはすでに先客がいた。

 格好から推測するに貴族と騎士と文官だ。

 何人かは知っている顔のような気がする。騎士たちの何人かは戦士団に所属していたのかもしれないし、貴族はこの間の騒動でルニルアーラの周辺にいたのかもしれない。


「ダンゲイン伯、こちらに」


 名前は知らないが顔を知っている(かもしれない)という連中が席に誘導してくれたりと親切にしてくれるので、逆にやりづらい気分になった。


 部屋の死角に紛れ込んだニドリナが俺を見て笑っている。


 どうもなにかの会議をするために集められたようだが、議題がなにかを聞かされていないようで、それを推測する雑談が会議室を埋め尽くしていたのだが、やがてハラストが現われて玉座の前に立った。


「ルニルアーラ姫、ご入室!」


 その言葉とともに円卓に座っていた全員が起立する。俺も遅れて立ち上がり、玉座へと向かう彼女を見送った。

 彼女の着席とともに俺たちもそれに倣う。


 やれやれ、堅苦しいなぁ。


「本日、皆に集ってもらったのはランザーラ王国への対処です」


 表情を冷たく固めたルニルアーラが口を開く。


「先日の連続した騒動で対処が遅れていましたが、我が方の問責の使者に対し、ランザーラ王国はいつも通りの答えを返すのみでした。


「領地の正統性ですか?」

「相変わらず懲りない国ですな」


 そんな言葉が円卓の上を滑っていく。

 話に耳を傾ける限り、ランザーラ王国がこちらへ攻めてくる理由にあるようだ。

 土地には名前も境界線も付けられるわけはないので、いちゃもんを付けようと思えばなんとでも付けられるのだろう。


「しかも今回は停戦交渉にも応じませんでした」

「ほうっ! 奴らはまだやる気……ということですな!」


 ルニルアーラの言葉に戦意を剥き出しにしたのは騎士姿の老人だ。

 騎士団長とかお偉いさんっぽいな。

 王城奪還のときに本拠にいたのは見たな。誰だろうなぁ。


「今回は人類領全体が連動した作戦。ランザーラ王国が先んじて停戦交渉に応じるわけにはいかない……ということでしょうな」

「だけではあるまい。長年の障害だったガルバーズ殿を倒し、奴らは調子に乗っているのよ。いまこそ領土を増やす好機だとな」

「うっとおうしい奴らだ」


 その後に続くのはではどうやってランザーラ王国と戦うか……という話となる。

 しかしそうなると、急に会議の声が鈍くなった。

 前回の戦いでの損耗も回復しておらず、さらに東の国境にも不安がある。

 いままでは東の国境は人類領会議直轄領と接していたため、あるいみで安全を保証されていたから全力でランザーラ王国と戦う事ができた。

 だが、これからはそういうわけにはいかなくなった。


 なにより、こんな状況でいま現在もランザーラ王国が存在しているということは、タラリリカ王国とランザーラ王国の戦力差はそれほど大きくない、ということでもあるだろう。


 戦力配置を大きく変更せざるをえない現状で、ではどうやって侵攻する気のランザーラ王国と対処するべきか……円卓にいる連中は頭を悩ませている。


 ……というのはわかるのだが、それ以上のことは俺にはわからなかった。

 俺もそんなに頭よくないからなぁ。


「……一つ質問があるのですが、よろしいでしょうか?」


 俺は手を上げ、口調も貴族向けに整えて発言した。


「どうぞ、ダンゲイン伯」

「では……」


 ルニルアーラの許可を得て、俺は立ち上がる。


「先代であるガルバーズの遺体なのですが、現在はどちらに?」


 戦場で死んだガルバーズの遺体を撤退の際に回収できなかったとリンザは悔いていたのだ。

 できることなら引き取って墓に入れてやりたい。


「残念ながら引き取ることはできていません」

「向こうがどうしているかは?」

「わかりません。ですが、名のある将兵の遺体はそれだけで交渉材料となります。放置ということはないでしょう」

「わかりました。ならばまず、わたしがその交渉の使者となりたいのですが、よろしいでしょうか?」

「……なにを考えているのです?」


 俺の提案にルニルアーラは氷のように固めていた表情に亀裂を入れ、円卓の他の連中もざわついた。

「弱腰な」という呟きが聞こえてきたし、俺のその対応を気に入らない空気がある。

 どうも遺体を引き取りたいという提案が弱腰と受け取られたようだ。


 ふうむ。

 吸血鬼の件もあってランザーラ王国に入りたかっただけなのだが、これは案外うまくいくかもな。


 俺は貴族の演技を続けて説明した。


「あいにくとわたしはタラリリカ王国民としても貴族としても経験が浅いもので、細かい事情はわかりかねますが、その提案を行えばわたしが相手から侮られるということは確かなようですから。なればこそ、できることもありましょう」

「実際には、どのようなことをするつもりなのですか?」

「相手の反応次第ですね。大人しく遺体を返されては為す術もなく戻るしかありませんが、もしそうでなければその交渉を理由にランザーラ王国領内に留まる大義名分を得ることができる。その間に、存分に調べられることを調べましょうし、すでにそのような情報がこちらで揃っているのなら、それを利用する下地を作りましょうし、それさえもすでにあるのなら、実行に移しましょう」

「なにをです?」

「たとえば、内乱などは?」


 俺の言葉で今度は円卓が静まりかえった。


「我が国にも騒動の種はあった。ならば奴らにも似たようなものはあるでしょう。なければ作りましょう。内乱が無理ならば魔物の大発生とかはどうですかね?」

「……それは、卑怯ではないかね?」


 そう言ったのは比較的若そうな貴族だった。


「卑怯? どこがです?」

「戦争で事を決するのではなく、策謀で事を為そうとすることが、だよ。ダンゲイン伯爵。君は元々冒険者だったからわからないかもしれないが、貴族というものは……」

「わたしの経験で得た教訓で言わせてもらえば、貴族というのは思ったほど上等な生き物ではない、ということですが?」

「なっ!?」


 なにか外面だけの綺麗事を言おうとしたようなので、俺はさっさと黙らせる。


「自分の立場を守るためならば平気で他人を陥れる。それが貴族であるし、さらに大きな目で見ればそんなことは誰だってやっている。自分の商売を守るために商人は他人を蹴落とすでしょうし、自分の畑を守るために農民は冒険者に魔物退治を依頼する」


《勇者》を貴族で独占するために、庶民を排除しようとしたり、な。

 特権やらなにやらと飾り立てられているが、結局のところそこにあるのは自分たちが生活するための仕組みであり、貴族であろうともそれを守っているに過ぎないのだから、それは畑を守るためにゴブリンを殺す農民と同じ、ということになる。


 とはいえ、排除される側がその恨みを呑み込む必要もない。

 自分のために既存のものを打ち壊してはならない、という理屈はないのだから。


「ならば国とて国境を守るためになんだってやるべきだ」


 俺は強く主張した後で、それに……と付け加える。


「わたしの配下となったダンゲイン狂戦士団ですが、前回の戦いでかなり損耗してしまった。補充には時間がかかるのでまずは質の向上を図りたいと思っています」


 なんやかやと言ったが、俺の本命はこれだ。

『葉隠』を完成させるためには、なんとしても奴らを俺の手で鍛えなければならない。

 そのためのちょうど良い騒動を俺は求めているのだ。




よろしければ評価・ブックマーク登録をおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ