164 国境異変 2
ルニルアーラたちに見送られていざスペンザへ。
……といきたいのだが、その前に王城の解放作戦を見届けることになった。
一番の理由は黒号を解放するというものだ。
最初は置いていくつもりだったのだが、黒号がそれに大反対をしたのだ。
「というわけで、影武者よろしくな」
「ひどいです。ついていきます」
「いや、影武者をいきなりやめるってわけにもいかんだろ?」
「いいえ、ついていきます。待ってください。すぐに人質の場所をはっきりさせますので、突入部隊を用意してください」
「ええ……」
「お願いします」
と、まぁ……こんな感じで「お願いします」を連呼されたのでルニルアーラに頼んで突入部隊を編成してもらった。
一番の大駒である国王はすでに確保し、黒号という内通者も存在している。そこに東西の不穏な状況も加われば、王城奪還作戦をためらう理由もないだろう。
隊長はハラストだ。
実力的にも問題ない。
この間の太陽神の試練場で集めた素材で新しい武器を作っている。
見た目には他の騎士たちの長剣と変わらないが、それはハラストがそう望んだからだろう。代わりに刃部分が微かな光を放っている。
あの発光部分が刃となるのだろうが、それだけなのかどうかは使っているところを見なくてはなんとも言えない。
それでも上位の希少級というところか?
「そういえばニドリナの武器を頼んだのと同じ鍛冶師か?」
「いいえ、違いますよ。僕は騎士たちを相手にしている城仕えに鍛冶師に頼みましたから」
「そうか。あいつ、何してるんだ?」
「スペンザで冒険者をしているのではないですか?」
「やっぱそれだろうなぁ」
ハラストも俺と同じ結論になったのでやはりそうなのだろう。
となれば、魔物の異常発生とやらに嬉々として対処しているかもしれないな。
そんな感じで気負いなく出撃したハラストを見送って、午前中には全てが終わった。
人質もほとんどが無事だ。何人かは負傷していたが、重傷者はなし。死者に関しては作戦開始前に死んでしまっていたのだからハラストたちの責任ではない。
救出した侍女たちに擦り寄られているハラストの姿を他の騎士が理不尽だの爆発しろだの言っているのを聞きながら、おれは少女の姿に戻った黒号を出迎えた。
「ご苦労さん」
「置いていこうとしましたね。ひどいです」
「こいつがあるから問題ないと思ったんだけどな」
分体として残されていた剣を叩いたのだが、黒号は納得しなかったようだ。
「ひどいです」
「やれやれ」
機嫌を悪くした女性を宥めるのは得意ではない。こういうときは逃げるか贈り物でもするのが一番だと思っているのだが……いまは逃げるわけにもいかないから贈り物しかないわけだが、はてさて、この武器から誕生した少女にはなにを贈ればいいのやら。
「まぁ、これから魔物と大量にやりあえるから、機嫌を直せ、な?」
「ふん」
「だめか……」
食欲で満足しないとは贅沢な奴だな。
イルヴァンなんてだいたいこれで解決できるんだけどな。
さて、それなら……。
「名前……」
「え?」
ぽつりと思いつきを口にすると黒号が反応した。
「黒号って名前。その姿だといまいち嵌まってないよな。変えるか?」
「……なにか良い名前があるのですか?」
食いついたな?
てことは、黒号自身、少女の姿で黒号と呼ばれることに抵抗でもあったのかもしれない。
「うーん……」
とはいえ思いつきで口にしたからな。
良い名前が思いついているわけもなく。
……と。
おや?
ふわっとその単語が頭に浮かんだ。
「ノアール」
「え?」
「たしか、別の国の言葉だが黒って意味だ。意味は変わらず発音は変わる。いいんじゃないか? どうだ?」
「…………」
俺の提案に黒号は反応の良くわからない無表情で停止した。
「ど、どうなんだ?」
なんでこっちが緊張しないといけないのやらと思いつつも、反応を待ってしまう。
「いいです」
ようやく口を開いたノアールはやはり無表情のままだ。
だが、拳を握った手を胸の前で振る。動きだけは興奮した様子を見せている……んだよな、これ?
「素敵です。ありがとうございます」
「そうか、そりゃよかった」
まぁ、黒号よりノアールの方が可愛げがるような気はするな。
「なら、ノアールよ。そろそろ出発しようぜ」
「わかりました。では……」
と、機嫌を直した黒号改めノアールは全身を震わせたかと思うと、いきなり変化を始めた。
少女の姿から黒い塊となったかと思えば膨張して形を変えていく。
そして整った形は鬣を振り乱す見事な黒馬だった。
「なんでもありだな」
「質量の許す限り、どんな姿にもなれますよ」
「本気でなんでもありか」
「情報のないものにはなれませんので」
「へいへい。じゃあいくか」
そんなわけで、今度こそルニルアーラたちに見送られてスペンザに向けて出発した。
馬形態のノアールの速度は凄かった。
なんか後々、街道を駆け抜ける黒い不吉な風って噂が立ちそうなぐらいに早かった。
人を轢かなかったのが奇跡だ。
轢いてないよな、たぶん。
ともかく、スペンザに辿り着いた。
門は閉ざされ、街に入る人々の列はどこにもなかった。少し離れた場所で馬から人に戻したノアールと門に近づくと、固く閉ざされた通用口の覗き窓から声が届いた。
「いま、街は大量の魔物侵入の危機にあって閉門している。避難しに来たのであれば南にある砦へ迎え!」
「冒険者のルナークだ。冒険者たちはどうした?」
おれはタラリリカ冒険者ギルドの登録証をかざしつつ、問いかけた。
と、覗き窓の向こうでなにやら動きがあった。
「薬草採りのルナークか! 知ってるぞ」
待て、俺は衛士に薬草採りとかいう二つ名で覚えられていたのか?
いや、否定はしないが。実際、一人働きの時はほとんど薬草採取の依頼しかしないしな。
しかし……。
「……どうせなら女たらしとかがいいな」
と、思うのだが。
ううむ、まだまだ修行が足りないということだな。
それはともかく……だ。
「もう、冒険者の討伐隊は編成されたのか?」
「ああ! すでに北の平原に移動しているはずだ。いまから参加しても報酬は手に入るらしいぞ」
「わかった!」
話が聞ければスペンザに入る必要はない。
テテフィの安否を確認しておきたかったが、街の中にいる彼女が今回の件で危険な目に合うのはまだ先だろう。
必要な情報も聞いたのだし、さっそくそちらに向かうとしよう。
「あんた、あの仮面の姫様はどうした?」
「あん?」
と思っていたのに、そんなことを言われたものだから足が止まってしまった。
「討伐隊にいなかったか?」
「いや、見てないぜ」
「なんだって?」
「おれは討伐隊の出発のとき当番だったんだ。だから、最近噂の仮面の姫様を見てやろうと思ってたんだが、それっぽいのはいなかった。その女の子はまさか違うよな?」
ノアールに視線が集まっているようだが、さすがに説明がめんどい。無視することにした。
「うーん。いま、別行動中だからわからん。まぁ、おいおい合流するだろうさ」
衛士にそれだけ答えて俺は北に向けて移動を開始する。
連中の目が届かなくなった場所でノアールを再び馬に変化させて北へ急ぐ。
しかし、ニドリナが討伐隊に参加していないだって?
「なにしてんだ? あいつ」
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