163 国境異変 1
その後、一日経ったがルアンドルに変化はなく、安全は確認されたとして親娘の再会はなった。
さすがにこらえきれず涙を流すルニルアーラにもらい泣きする者たち多数だ。
コルヴァンドももらい泣きしていた。
うん、わかってた。
性格悪い奴で紹介してもらったが、最初に話したときからそんなでもないってすぐにわかった。
ていうか本当に性格悪い奴は、そもそも性格が悪いことを悟らせないだろうしな。
とはいえ、俺の望んでいた最悪の展開を想定できる人物という条件は達成できていたし、そういうことを考える奴ってことで性格が悪いと一言でまとめたのだから、やはり間違ってはいないということだな。うん。
落ち着いてから作戦会議が再開される。
もちろん、会議が始まる前に礼は言われているのだが、始まった後でも改めて会議場にいる連中の前で礼を言われた。
しつこいというか、こういうことには形式が必要なんだろうな。
「まだ、わたしの生還は公表していないんだな?」
体力的な問題は魔法で解決しているが、それでも精神的な疲労は癒しきれない。会議場にやって来たルアンドルの顔色は悪かった。
「影武者を送り込んで中の状況を調べさせているからな。向こうでばれるまでは秘密にしておきたいな」
「城の中にはまだ多くの者がいる。彼らも無事に救い出したい。ルナーク殿、まだ協力をお願いできるか?」
「ああいいぜ」
「たすかる」
「もちろん、報酬の話はさせてもらうからな」
当たり前のことだを釘に刺しつつ、人質たちの位置をルアンドルの記憶と影武者をやっている黒号からの情報を照らし合わせて特定していく。
ちなみに黒号の本体は影武者をやっているが、そこから分離した剣を俺が持っており、これを通じて彼女からの情報を聞くことができる。
どんどん便利になっていくな。
ていうか、城の中の情報を集めるのはニドリナがいたらもっと確実で早かったんじゃないか?
……あいつ、こんなときになにしてんだ?
武器を取りに戻るとか言ってたか?
受け取りだけならもう終わってると思うんだが。
戻っても暇だと判断して一人で冒険者してるかもしれないな。
まっ、いない奴のことを考えてもしかたがないだろう。
ルアンドルを救ったことでコルヴァンドの株が上がったのか、この会議にも呼びだされて意見を求められている。
緊張した様子のおっさんの発言を危機ながらぼんやりと会議を過ごしていると、緊張した様子の騎士が駆け込んできたのだった。
その表情からして嫌な情報を運んできたのがありありと想像できる。
「悪い循環が止まらんなぁ」
騎士に耳打ちされて表情を強ばらせたルアンドルの様子は、ルニルアーラに似ている気がしないでもない。
「諸君、凶報だ。西のランザーラ王国が国境沿いに兵力を展開している」
「なっ!」
ルアンドルの言葉で俺を除いた連中が凍り付いた。
「さらに東でも異変が起きている。グレンザ大山脈の近辺で魔物が大発生し、スペンザへと南下しているということだ」
「不幸の押し売りがひどい」
言葉もない他の連中に代わって、おれは肩をすくめる。
タランズでは王城を占拠され、西からは軍隊が。東からは魔物が攻め寄せてくる。
これが不幸の押し売りでなくてなんなのか。
「ランザーラがなんの目的で国境まで?」
「ミバラ公爵の応援だそうだ」
「公爵とランザーラとの間になにか関係はありましたかな?」
「どうかな? だが、子供との間で婚約していたなどとなんとでも言えるだろう」
「どちらにしろ、今回のことは人類領会議が本格的に動き出した証拠……ということですな」
「で、あろうな」
世界が敵に回ったことを実感した瞬間……とでもいうのだろうか。
会議場には重苦しい空気が張り詰める。
それを破ったのは、新たに会議場に入った来た人物だった。
「では、ランザーラの相手は儂に任せていただきたく」
「ダンゲイン伯爵!?」
新たな鎧を身に纏った伯爵は朗らかな笑みを浮かべてルアンドルの前に立ち、腰を折った。
「まずは陛下のご無事の帰還をお喜びいたします」
「うむ。ありがとう。しかし、聞いていたのか?」
「戦場の風を嗅ぎ逃すほどに老いてはおりませんのでな」
カカと笑って誤魔化しているが、会議室の外で聞き耳を立てていたのを俺は見逃していないぞ、じいさん。
「魔物の方は冒険者たちに緊急依頼をする事で兵力の確保はできましょう。その上で勇者殿に出ていただければ問題ありますまい」
俺の視線を受けてダンゲイン伯爵は逆に胸を張ってそう言った。
「勇者……ねぇ」
伯爵のその言葉には貴族的な含みがあるように思えて、おれは顔をしかめた。
ルアンドルやルニルアーラは緊張した視線をおれと伯爵に向けてきた。
ていうか、お前らがなにか企んでダンゲイン伯爵を接近させたんだろうに。
いや……隠れ家の設置場所をあそこに選んだ時点で伯爵の興味が暴走した可能性はあるんだが。
「お前さんには戦の作法を教えたかったんだが、こうなっては仕方あるまい。まずは勇者として存分に活躍してはどうかの?」
「……冒険者として依頼された分はちゃんとやるさ」
「勇者を名乗るのは嫌か?」
「いまさら勇者でございって顔はできないね」
「そうか、もったいないのう」
「もったいがあろうがなかろうか関係ない」
「わかったわかった。もう言わん」
うるさげに手を振り、ダンゲイン伯爵は話を切り替える。
お前が言いだしたんだろうに。
「スペンザに行ってもらうなら、どちらにしろお前さんには大活躍してもらわなければならんぞ?」
「やっぱり、手が足りないか?」
「足りんな。でしょう?」
伯爵の問いにルアンドル以下、その場にいた者たちは難しい顔をした。
「お前さんがどれだけ大活躍したところで、首都の混乱は一日二日では収まらん。故にここにいる兵士はすぐには動かせない。西は儂と近隣貴族の私兵でとりあえずの体裁は整えられようが、東には手が回らん。冒険者とスペンザの防衛部隊でどうにかしてもらわなければならん、というわけじゃ」
「ああ……つまり、敵の掌でくるくる踊らされたってことか?」
国内で力を失いつつあった不満分子を焚きつけて首都で争乱を起こし、そこに兵力が集中したところで国境のある東西で争乱を起こせば、タラリリカはそのどちらにも十分な兵力を向けることはできない……ってところだろう。
「そうじゃな。守勢に回っておれば後手となるのはしかたのないことじゃ」
こっそりとルアンドルを批判したような気がするが、それは聞かなかったことにしよう。
「なら、おれはおれでできることをするさ」
全部俺に任せとけと言いたいところだが、さすがにそれは無理な話だ。
戦いだけなら有言実行もできよう。
だが、ダンゲイン伯爵の言う通り、敵を追い払っただけで混乱が収まるわけではない。乱れた治安や人心を取り戻すまもなく兵士が去れば、むしろそれは混乱を助長することになるだろう。
首都が落ち着いていなければ命令系統も定まらない。兵力を空にするわけにはいかない、というわけだ。
超人的な活躍をして任される領分が増えすぎるのも考え物だしな。
報酬分の働きをする。
それぐらいでいいのだろう。
「……それでも、この国になくなられたら色々と困るからな。それなりに気張らせてもらうさ」
「頼みます」
ルニルアーラにそう言われおれは頷くと、スペンザに向かうべく立ち上がった。
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