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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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147 そんなことより! 2


 そんなこんなで翌日になり、おれは訓練場に顔を出した。

 冒険者ギルドの裏側にある広場がそれだ。


 ギルドが冒険者たちに解放しているこの場所は、初心者たちに武器の使い方を教えたり、パーティ組み立ての冒険者たちが連携の練習をしたり、あるいは一人で体を鍛えたりするために使われている。

 ときには冒険者間の揉め事を決闘という形で解決するために使われることもあるらしいが、あいにくとおれはそんな羽目になったことも見物したこともない。


 むしろ初めて使うのでどこから入るのかもわからず、テテフィに案内してもらった。

 朝早くな上に急に決まったというのに訓練場にはすでに多くの冒険者たちが集まっていた。

 そして入るなり視線が集まった。


「おい、来たぜ」

「まじかよ」

「あの話本当なのか?」

「ラランシア様の弟子って……」


 すでに昨日の噂が出回っているようだ。

 見ればセリとキファもすでにいておれに向かって手を振っていた。


「兄貴~」


 昨日も思ったがなんだよ兄貴って。

 戦士のキファがラランシアを尊敬しているという話はすでに聞いているから、その弟子に選ばれたおれも尊敬の対象っていうのはわからないでもないが、だからってどうして兄貴なんだか。

 魔法使いのセリは相棒に合わせた悪ノリという雰囲気がなくもない。


「やれやれ」


 おれは肩をすくめ、セリたちのところにも行かず、その場で練習用の木剣なんかが並ぶ武器棚を見つめて時間を潰した。

 ギルドマスターに伴われてラランシアが現れたのはそれからすぐだ。


「おはよう皆さん」


 ラランシアが現われると、端っこでだらりと待っていた冒険者たちがみな居住まいを正した。


「ルナークもご苦労様」

「いえいえ」

「うん?」


 簡単なおれの返事にラランシアは首を傾げておれを見つめた。


「なにか?」

「いいえ。しばらくぶりにあなたの実力を見ることができそうね」


 そんな風に笑うと、ラランシアはその場にいる冒険者たちに視線を戻した。


「さて皆さん、こちらにいるギルドマスターからの要請で本日から三日間、あなたたちの訓練のお手伝いをすることとなりました。魔物や賊を相手にすることも多いあなたたち冒険者は人々の盾となりうる人々です。その助力となるのであれば喜んで力となりましょう」


 そう言ってにこりと微笑むラランシアには慈母のごとき優しさがある。緊張して聞いていた者たちが少しほっとしたような顔を浮かべた。

 だがこれは罠だ。


「……ですが、わたしの教えを悪用しようと思う方がいれば覚悟してください。そんな者たちを追いかけるのもまた、わたしに定められた戦いなのですから」


 にこりと微笑んだままでそんなことを言うのだから、ほっとした連中が今度はゾッとすることになる。


「さて、ではまずわたしの教える基本の型を見せましょう。ルナーク、出番ですよ」

「了解です」


 おれは武器棚に向かって木の盾と木剣を取るとラランシアに渡した。

 武器の具合を確かめたラランシアが盾と剣の戦いについて簡単な講釈をしている間に、おれは彼女と距離を取って相対する。


「……では、手本を見せましょう」


 その言葉とともに、お互いに盾を前に構える。

 二人ともが右利きだ。半身に構えると剣はだらりと下げて体に隠し、向き合わせた盾を中心に半回転すると、一度だけ盾を打ち合わせ、おれから動いた。

 盾で盾を押しのけると、即座に突きを放つ。

 迷うことのない喉へと刺突だが、ラランシアは軽やかに仰け反ってそれをかわすと、体重をかけて盾で押し込んでくる。

 突きを放った姿勢がそれで崩されて隙が生まれる。というよりも突きの軌道からなにからラランシアの盾によって操作されていた。

 こちらも操作されているのを承知しているから、ラランシアがどこに突きを放つのかわかっている。

 すんででかわし、体勢を立て直す。


 ラランシアもかわされるのがわかっていたので、思い切った動きはしていない。

 いや、これは彼女の性格かもしれない。

 必要でもないのに勝負を急ぐことを彼女はしない。


 その代わり、立て直したばかりで力が入りきっていないおれに容赦なく盾をぶつけてくる。

 足を取られつつもなんとか盾で受けきり、後方に跳んで今度こそ立て直した。

 それを見届けたラランシアは足を止めると仕切り直す。

 静かに構えて待ちの姿勢を見せるラランシアに、おれは軽くステップを踏むと一気に踏み込んでいった。


 模擬戦はそれから三分ほど続き、最後はラランシアの剣がおれの喉とに突き立てられて終わりとなった。


「まいりました」

「……少し熱を入れすぎましたね」


 おれの言葉でラランシアは紅潮した顔を冷ますように長く息を吐いた。

 周囲の冒険者たちも二人の模擬戦に見入っていた様子で、拍手が湧くのが遅かった。


 それから午後までラランシアはほぼ休みなしで希望者一人一人と相手をし、それぞれの長所を褒め、短所を容赦なく打っていった。

 かわいそうな何人かは骨折したり気絶したりしていたが、すぐさま彼女の回復魔法によって癒されていく。

「治せるから大丈夫」は相変わらずのようだが、おれの頃よりは優しい気はする。

 年を取ったのか、それともこの人数相手だから体力を調整しただけか。


「ルナークも見てないで手伝ってください」

 そんなことを言うものだから何人かがおれのところにやって来た。

 しかしこいつらのほとんどは教えを請うという態度ではなかった。


「ラランシア様の弟子だと? 偉そうに」

「なんだよ偉そうにって」

「うるせぇ! 絶対に負かして姫とテテフィちゃんの目を覚まさせるんだ」

「「「そうだそうだ!!」」」

「なんの目が覚めるんだよ」

「うおおお! くたばれ」


 おれのツッコミなんて聞く耳を持たず一斉に襲いかかって来やがった。

 姫ってニドリナだよな?

 テテフィはともかく、なんであいつがこんな人気者になってんだか。


 おれは呆れながら全員を打ち倒したのだった。



 無事に訓練も終わり、おれとラランシアはギルドマスターに案内されてギルド奥の応接室に通された。

 そこでおれの分の昼食も用意されていたのでありがたくいただく。


「華を持たせてくれましたね。ありがとうございます」


 ギルドマスターがいなくなって二人きりになったところで、ラランシアがそう言った。

 最初の模擬戦のことだ。


「いまのあなたなら、わたしに勝つなんて簡単なことでしょうに」

「教えに来た人がいきなり負けてたら話にならないでしょう。それに、あいつら相手に力自慢がしたいわけでもない」

「普通は冒険者を相手にするなら力自慢をするものですよ」

「加減を知っているということですよ」

「たしかに。本気のあなたを知ったら尊敬ではなく恐怖が集まるでしょうからね」

「……でしょうね」

「あら」


 おれのため息にラランシアは「ふふ……」と笑いを零した。


「太陽神の試練場に行ってきたのでしたよね? なにか面白い体験をしたのですか?」

「なにも面白くはありませんでしたよ。面白くしようとしたら、失敗した」

「失敗したと思っていても、生きていたのならあなたの勝ちですよ」

「そりゃ、戦神様の教えからしたらそうでしょうけどね」

「ええ。生きている限り、勝利は常に手の届く場所にあるのです。そして、死が敗北であることもない。肝要なのは勝利とはなにか、ということです」

「勝利とはなにか……ね」


 生きていることが勝利なのだとしたら、では生きているとはなんなのか?

 くだらない問答だとわかっているのに考えてしまう。


 囚われっぱなしだ。


 そして、ラランシアはそんなおれの悩みを見抜いた様子で微笑みとともに見つめている。


「悩みなさい若人よ。悩むこともまた戦いです」


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