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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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125 光の帝国へ 5


 交渉してくるまで一月か……この事実をどう評価すべきなのか?

 おれをみつけるのにかかった時間か、それとも気付くのにかかった時間か……どちらにしろ致命傷となる前におれのところにやって来たことは評価すべきだろう。


 まぁ、そうでなければ困るんだけどな。

 手を尽くしているんだから。


「それで、ご用件は?」


 倉庫の一角にある応接用のソファがある場所に移動し、おれは改めて質問をする。


「今回の件……なのですが」

「どの件です?」

「……おわかりでしょう」

「さて」

「魔物退治や採集独占の件ですよ。やめていただけませんかね?」

「はて……帝国では野にいる魔物や薬草に所有権でもあるのですかな?」


 と、おれは白々しい質問をして、ギルドマスターの渋面を深くさせる。


 この一月、おれたちは三人でこの周辺の魔物を狩りまくり、薬草類を採りまくった。

 ニドリナがキメラやミノタウロスなどの大物を専門に、ハラストがゴブリンや山賊などの群をなす小物を、そしておれは薬草類を。

 おれがどうやって薬草類を一人で集めたかと言えば、森や山に入ってそこに根付いている精霊たちを【上位召喚】【下位召喚】で呼び寄せ、持ってこさせた。

 以前に採った蛍火草のような特殊な器具や方法が必要なものは無視する。需要が低いし、そもそもそういったものが採れるのは一部の玄人だけだ。

 結果としてはグルンバルン帝国の治安を向上させる手伝いにもなっただろうが、冒険者としては飯の種を奪われることになった。


 ちなみにだが、薬草類の栽培に成功した者はいない。いたとしても、それは簡単に後に続けるようなものではない。

 そして育てることはできても、そこから得られる薬効は野に咲いているものほどではないということが多いそうだ。


 これには地に満ちる精霊が関係していると言われている。飲んだだけで回復魔法の【下位回復】に相応する回復力を与えるような薬はそれ自体に魔法的要素が含まれていると考えるべきで、そこで考えられる因子が精霊の存在ということになる。


 胃薬やらなんやら……体調をゆっくりと整える類の薬草であれば栽培には成功しているのだが、魔法のような急速な効果を望むものとなると、やはり栽培よりも野にあるものの方が強いという結論が出ており、そしてそれはいまのところ覆ってはいない。


 セルビアーノ商会……この薬種問屋に頼んだのはおれたちが倒した魔物や採取した薬草の解体や保存処理だ。さすがに大量の魔物の解体は、おれたち三人でできる作業量ではない。保存するだけなら無限管理庫にぶち込んでおけば良いだろうが、それでもやはり換金にかかる手間を考えれば、人手を動員する手段を確保しておいた方が良いに決まっている。


 ちなみに確保した素材はいまだ市場に流していない。半分はこの薬種問屋に渡す約束をしているが、帝国の市場に流すのはおれの許可待ちということで話が付いている。

 薬草類に関しては調子に乗ってグンバニール近隣の都市にまで手を出してしまった。人を癒す薬屋だって商売をしているのだ。素材の供給が絶たれれば、値上がりを期待して出し惜しみなどをするところも出てくるので、市場の高騰はかなりのものとなりつつある。

 薬種問屋の店主はすでに国外の商会メンバーに連絡を取って、荒稼ぎの準備を整えている。


 帝国民たちは一時的に物価の高騰に困ることになるかもしれないが、そのほとんどは食料などの即座に切羽詰まる類のものではないのでそれほどの危機感もなく過ごしているだろうし、商人たちはやって来た商機に腕を振るえて楽しい日々を送っているだろう。


 困っているのは冒険者だけ……いや、冒険者だってここでは儲からないと思えば去っていく。

 ならば、心底困るのは、身動きできない冒険者ギルドだけだ。


「あなたも冒険者なのだから、わかるだろう?」


 泣き落とし作戦に出ているギルドマスターにはおれはあくまでも惚け続ける。


「さて、おれはここではランクE未満。依頼も受けられない半端者なんでね。弾かれ者に仁義や道理なんてわかるはずもない」

「それは……しかたがないんだ。帝国の感情を無視するわけにはいかない。いま、タラリリカ王国の出身者は国から出るべきじゃない。仕事がなければ国に戻るしかない。これは非常措置なんだ」

「なるほどなるほど。意思の疎通がうまくいかないのは哀しいことだよな。お互いにナイフを握ってしまった段階で「しかたがなかったんだ」と言ったところで、結末はどちらかの死でしか結ばれない。あっ、ちなみにこれは演劇とかの話だから」

「ぐっ……」


 脅迫と取られてはならないので演劇の話として誤魔化しておく。


「なにが、望みだ?」


 お、ようやくまともな話になってきたか?


「冒険者として活動したいというのであれば、すぐにでもランクAのものを用意させてもらう。いや、Sでもなんでも欲しいのなら渡そう」

「いらんよそんなもの」


 別に帝国に長居する気はないのだ。

 もしここに居つくことを考えるとしたら、この感じの悪い帝国がなくなった後でのことだ。


「では、なにが欲しい? おれはここにいる冒険者たちの生活を守らなくてはならない。そのために出せるものがあるのなら、なんだって出す」

「美談だね」

「茶化しはいらない。なにが欲しい?」

「太陽神の試練場への入場券」

「なんだって?」

「おれたちのそもそもの目的はそれだ。そちらのギルドでの扱いには腹を立てたが、本来の用件が無事に片付いていたらなら唾吐いて終了でもよかったんだ。だが、そちらでまで邪険に扱われたなら、おれとしては腹の虫を治める方法を探すしかない」

「それが、これだと?」

「それがこれだ」


 おれが頷くとギルドマスターは絶望的な表情となった。


「無理だ」

「どうして?」

「太陽神の試練場はいま、誰も受け付けていない。タラリリカから流れて来た冒険者だけではない。誰も入れなくなっているんだ」

「知っている」

「なっ!?」


 ギルドマスターは驚いたが、おれたちだってバカじゃない。この一月の間、憂さ晴らしのための冒険者ギルド潰しだけじゃなく、まともな方法で太陽神の試練場に入るべく、店主を始めとする商会の連中に調べてもらっていた。


 なので、太陽神の試練場がいま、誰も受け付けていないことはとっくに知っていた。

 ただ、その理由はいまだ不明だ。


「どうして使えなくなっているのか、その理由は知っているか?」

「知らない。知るわけがない」

「そうか。まぁ、どうでもいい。おれの要求は変わらない。太陽神の試練場の入場券だ。それが手に入らない限り、グンバニールの冒険者たちは日雇い労働者たちと同じ仕事しかできない。まぁ、おれたちもいつかは飽きるだろうが、その飽きるまでの間、あんたらは冒険者たちからの信用を失い続けることになるな」

「……わかった」


 苦虫を呑み込んだような顔でギルドマスターが帰っていく。

 それを見送っていると、背後にニドリナが立った。


「お前はやっぱり犯罪組織の長とかの方が似合うな」

「いやいや、これでもおれは正義の味方だよ。ただ、正義の方がおれにいい顔をしてくれない」

「そりゃ、正義にだって友達を選ぶ権利くらいはある。それで、どうする?」

「踊ってもらうさ。手順はもう決まってるんだから」


 ぶっちゃけると、太陽神の試練場が入場を止めた理由ももう調べが付いている。

 さすがはセルビアーノ商会だ。

 なので、気長に待っていればいつかは入場規制が解かれるだろうこともわかっているし、そのときには別の推薦状を手に入れる方法も商会は用意すると言ってくれている。


 だが、それではだめだ。

 待つのは性に合わないし、なによりいまなら奴の泣きっ面が見られるかもしれないのだ。

 となればなにがなんでもいまこのときに太陽神の試練場に入らなければならない。


 そして入るための手段も近づいている。

 他国から内密に招かれた氷の姫がやって来ている。

 だが、疲れ切った氷の姫は裏社会からの交渉になど応じないだろう。

 しかし本質的に氷の姫は気弱なお人好しだ。そのためにおれの恨みを買ってしまっているわけだが。いまはそんなことよりも重要なのは、彼女なら情に訴えることができるということだ。


 困り果てた冒険者ギルドからの頼みごとを無視することはできないだろう。


 そう。ギルドマスターがここに来るように色々とヒントをばら撒いていたのだ。

 彼はなんとか氷の姫が国内に入るよりも早く、おれたちがばら撒いたヒントに気付いてやってきてくれた。


 そしてこれからも踊ってくれるだろう。

 冒険者ギルドを守るために。


 うん。

 たしかにこれはまるで犯罪組織の長にでもなったかのようなやり方だな。

 だがまぁ……策士と言って欲しいものである。


「太陽神の試練場に入れたら文句はないだろ?」

「わたしはな。で、彼は?」

「ハラスト? そういえばあいつは何してるんだ?」

「ゴブリンが地下に王国を作っているのがわかったからそれの討伐に向かった」

「なんだよその言い方、かっこいいな」

「ええ、お前よりもはるかに正義の味方をしているな」


 しかしそれでも冒険者ギルド潰しに関わっている事実は忘れられないだろう。

 ちょっと前まで政治闘争で二重スパイとかしていたくせに、この程度の企みで罪悪感など覚えるものかね?


「あいつも修行で行きたがってたんだから気にする必要なんてないさ」


 暗殺者に罪悪感について講釈されるとか、わけわからんね。まったく。


「どいつもこいつもメンタルが中途半端だな」


 悪いことなんてやり慣れているだろうに、悪い奴になりきれていない。

 なんて中途半端な奴らだ。


「それはお前にも言えることなんじゃないのか?」

「けっ」


 ニドリナのやり返しにおれは言い返せず、舌打ちを吐くのみだった。


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