121 光の帝国へ 1
さて、ニドリナとも無事に合流をし、グルンバルン帝国へと向かう準備はできた。
冒険者ギルドで改めてテテフィに出発を告げ、いざ南門へ。
とそこで、まさかのおれを待ち受ける人物がいた。
「やぁ、お待ちしていましたよ」
ハラストだ。
騎士の鎧を脱いだ爽やか青年は三頭の馬を連れて南門の外にいた。
「なんの用だ?」
「あなたに付いていけと命令をもらいまして。雑用係だと思ってください」
「国外に出るんだぞ?」
「ええ、そうですね」
「ラナンシェは?」
「彼女は今後、ルニルアーラ様の近衛となります」
「ルニルアーラ?」
「いままでの仮の名前では少々、王族としての威厳にかけるということだそうで」
「なるほどね」
つまりは、ルニルの性別公表への準備が着実に進んでいるということか。
「ていうか、おれとの連絡係はラナンシェだったろ? いいのか、お前は……」
「あなたのせいですよ。ルナークさん」
「うん?」
「あなたが彼女にしたことが、少々刺激的すぎたようです」
側にいるニドリナに遠慮してなのか、少々遠回しな表現をする。
「なんだ、変態なことをしたのか?」
だが、ニドリナは動じることなくおれにそんなことを聞いてくる。
「いや。むしろおれは体調を整えてやったんだぞ。ただまぁ、いろいろと未体験な領域に入り込んだかも知れないが。だけど以前よりも体の調子がよくなったのは保証する」
「あなたの仙気は初心者には強力すぎますよ」
ハラストが苦笑を浮かべ、そしてニドリナはその言葉に興味を向ける。
「仙気? お前が最近修得したという技術か?」
「ああ。その中の房中術を試してみたんだ。エロいことをしながら強くなるというおれ向きの技術だ」
「最低の技術だな」
「お前にも施してやろうか?」
「モノが腐って落ちればいいのにな、お前」
「大丈夫、ちゃんと再生できる」
自信満々に返すと、仮面越しに呆れた視線を投げかけるといういつもの謎な技術を駆使されてしまう。
「とにかく、僕のことは雑用係か荷物持ちだとでも思ってください」
「しかたないなぁ」
ともに竜の国へと行った仲だしな。
「やっぱり、試練場には興味があるのか?」
「できればご一緒したいですね」
「まぁいいけどさ」
どうせ、おれにとって試練場の表部分は飾りなんだ。
「あなたが辿り着いた領域に僕も行ってみたいものです」
「……あんまり良い体験でもないぜ?」
そう言ってみるのだが、ハラストは爽やかな微笑みの奥に挑戦の炎を燃やしている。
「まぁ、好きにするがいいさ」
「はい。そうさせてもらいます」
そんな感じで出発となった。
タラリリカ王国とグルンバルン帝国は近い。
なにしろテテフィと逃避行したからな。
とはいえ今回は騎士に追われているわけではないので道もない山を越えるような真似はせず、遠回りに街道を進む。
そんなことをしていると、夜には盗賊団に襲われた。
調子に乗って一つ目の宿場町を無視したために半端な位置で夜になってしまったのだ。
野営の準備をしている間に囲まれた。
ちなみに、食事当番はおれだ。
移動中にやったしりとりでおれが敗北したからで、しかたないから全員分の料理を作っていると囲まれてしまっていたのだ。
「へっへっ……お前らいますぐ身ぐるみ剥いで……」
「おいおい、なんで囲まれてるんだよ」
「知らん。お前がなんとかするんだと思っていた」
「すいません。僕もルナークさんになにか考えがあるんだと」
「おい、お前ら……」
「おれは料理当番だろう。おれが飯作ってるんだから、それ以外はお前らがなんとかするもんだろう。まったく、役割分担って言葉をしらんのか」
「すいません」
「いや、これはわたしたちの責任ではない。お前がいつも独善的で連携というものを重視しないからこういうことになるんだ」
「なんだとう?」
「お前ら、いいから金目のもん……」
「まず、このパーティのリーダーは認めたくはないが一応は暫定的にお前だろう。お前がちゃんと指示してないのが悪いんだ」
「それぐらい嫌ならお前がリーダーやれよ」
「お前の我が儘で組んでやってるのになんでわたしがリーダーをしないといけないんだ」
「じゃあハラストでいいよ。ハラスト、リーダーな」
「え? 嫌ですよ。僕は暫定メンバーなんですから。ていうか、今回はしかたないにしろ、僕にはちゃんと使命がありますから。冒険者やってる暇はないんです」
「じゃあやっぱりニドリナがやればいいじゃないか。暗殺者の長とかやってたんだから簡単だろ」
「ふむ。ならば今日からずっとお前が料理当番な。ついでに番犬役もお前だ。道案内も前衛も後衛も回復も補助もお前が担当だ。ああ、わたしの食事には常に新鮮な野菜ジュースを付けるように。いつも絞りたてだぞ」
「ふっざけんな」
「お前らがふざけんな!」
ついに盗賊団のリーダーらしき男がキレた。
まぁ、キレたって知らんがね。
次の瞬間、おれは腰から抜き放った剣……黒号をさらに吠えまくろうとしていたリーダーの口の中に投げ込んだ。
黒号の切っ先は口腔を突き抜けて首の裏から姿を見せ、そしてさらなる獲物を求めて剣身が分裂し、曲がりくねり、伸長して他の盗賊たちに襲いかかる。
悲鳴を上げる暇もなくさらなる三人が金属生命体の犠牲になり、そこでようやく盗賊たちの体が動こうとした。
だが、もう遅い。
「ああ、ご飯がなくなってしまう」
そう言って口を開けた影獣から飛びだしたイルヴァンが一人の首に噛みつく。上位吸血鬼となった彼女は瞬く間にその男の血を吸いきり、次なる獲物へと襲いかかる。
「くそ、ふざけんな!」
逃げればいいものを、小さいから与しやすいとでも思ったのかニドリナに向かっていく。
だが、そいつらは夜を裂く銀睡蓮の斬光の餌食となるだけだった。
うん、技倆を上げているな。暗殺者の動きに頼った雑な剣閃ではない。ちゃんと剣自体が生きた動きをしている。
あれならたぶん、『剣豪』ぐらいにはなっているだろう。
「ああ、馬には手を出さないでください」
そして、馬を守ると決めたハラストは素早くそちらに移動すると、そこにいた山賊たちを素早く気絶させていく。
お優しいことだね。
「こんなとこで生け捕りにしても引き渡す役人もいないぞ」
「あっ、そうですね。どうしましょうか?」
おれが呆れて声をかけると、ハラストはいまになってそのことに気付いたという顔をした。
「戻って宿場町に役人に引き渡すというのは?」
「手間だな。それより……」
「それより、わたしのご飯としていただけるとありがたいのですけど」
会話に割り込んだイルヴァンはにこりと微笑む。
ハラストの表情が固まった。
あれ、そういえば会う場面はなかったんだったか?
「ああ……この吸血鬼はルナークさんの?」
「うーん、なんだろうな」
「下僕です」
「寝首を掻こうとする奴を下僕とは言わないよな」
「いえいえ、寝首を掻くまでは下僕です」
そう言って笑みを続けるイルヴァンに、ハラストの爽やかな笑みはもう凍り付いている。
「……はぁ、まぁいいですよ。好きにしてください」
「ありがとうございます。あっ、わたしの吸いカスとすでに死んでいるのは影獣のものですので、マスター、あげてくださいね」
「なんだよそれ」
「そういう住み分けができているんです」
「へぇへぇ……」
吸血鬼と影獣の共同生活における規則は知らないが、死体が転がったままでは飯がまずい。さっさと影獣に食わせて、おれは料理の続きに戻った。
ちなみに、黒号の餌食になった者は骨も残っていない。
しかしもはや盗賊程度では腹を満たされないのか成長する要素がないのか、戻ってきた黒号は重さが全く変わっていなかった。
地面に口を開けて死体を咀嚼していく影獣の姿をぽかんと見守っていたハラストは、やがて長々とため息を吐いた。
「……まったくほんとに、あなたのことをまじめに考えるのはバカらしいですね」
「勝手にバカになってろ。その代わり、バカには焼けたウィンナーは食わせてやらん」
「……それを持ってきたのは僕でしょう」
「ふはははは! 食事の配分を決めるのもリーダーの役目だよな」
「なに、貴様ふざけるな!」
「こういうときは一番に働いた奴がたくさん食べるという決まりだ。盗賊を多く倒したのはおれだろう」
「ふざけるな、お前は三人だけだろう!? わたしは五人だぞ!」
「甘いな、イルヴァンが倒したものも数に入れるのだよ。何しろあれはおれの下僕。つまりあいつの功績はおれの物」
「……まぁ、わたしはウィンナーに興味ないからいいですけど」
「ちなみに、ハラスト君はゼロ人な」
「なんでですか!?」
「だって、倒してないだろ? とどめはイルヴァンは譲ったしな」
「うわっ。ずるっ!」
「ハラストよ。この悪徳リーダーは早急になんとかしないといけないぞ」
「ええ、そうですね。早急の革命が必要です」
そんな風に意見の一致を見た二人と、おれはウィンナーと取り分をかけた新たな戦いを始めるのだった。
「待て、そういえば先ほど、リーダーはわたしということで決まって話は終わっていたはずだ」
「ちっ、気付いたか」
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