119 夜姫の華麗なる冒険者生活 1
その場で推薦状をもらったルニルは戻ってくることを約束して城を出た。
おれだってラーナとの約束を反故にする気はない。
ただ、試練場の奥地で以前のようなことが起きた場合はすぐに帰ることができるかどうかは約束できない。
だけどそんなことを言おうものなら推薦状はもらえないだろうから黙っておいた。
その後、見舞いという名目でラナンシェの屋敷の住所も教えてもらったので突撃する。
予想通りにおれとレクティラの気に当てられて性欲を持て余す状態だった彼女とあれやこれやを楽しみ……ようやくあのお見事でいかんものをこれでもかと楽しんだ。
そのときに房中術を試してみた。
試しなので抑えめに行ったのだが、結果は上々だった。おれたちの気に当てられて体内のバランスが崩れていたのでそれを整えることまでできたので、健康状態はかなり良くなったし、しばらくはおれが込めた仙気の影響で動きも良くなるのではなかろうか。
自力で仙気が練ることができないのでいずれ元に戻るだろうが。
そんなこんなで満足して王都タランズを出るとスペンザに戻った。
太陽神の試練場のあるグルンバルン帝国に行く前にニドリナと合流せねば。
さすがに彼女を無視して帝国に赴いては怒られる事になるだろう。
さて、おれがいない間、ニドリナはなにをしていたのやら。
†††††
わたし……元暗殺者のニドリナは新たに『剣士』となるべくスペンザに残って冒険者稼業を続けていた。
外聞的には冒険者の仲間、実質的にはわたしの古巣を破壊した男……ルナークに与えられたレイピア銀睡蓮がとても手に馴染むからだ。
これまで暗殺者として技倆を磨いてきた。その実力は高くなったと自負しているが、暗殺では目的は遂げられないことも判明した。
わたしの目的……それは魔導王シルヴェリア・サーベイナスを殺すことだ。
彼女には恨みがある。この不老の呪いをかけられたこともそうだが、さらにもう一つ……だが、そのことはいいだろう。
わたしは魔導王を殺すと決め、そして技倆を磨いてきた。
だがいまだ、成功の兆しは見えてこない。
もういっそルナークにやらせてみたらどうかとも思う。
わたしが去った後で人魔の主戦場をむちゃくちゃにしたような男だ。そんなことは魔導王にだってできないだろう。
彼ならば魔導王を殺すことはできるだろう。
だが、複数の理由からわたしはそれを彼に頼まない。
まず一つは奴に事情を話すなどまっぴらごめんであるということ。強くて騒動にも困らなそうだから一緒に行動はするが、信用はしない。
二つ目は、これはわたしの使命であるということ。わたしと彼女との因縁を他人に任せる気はない。
他にもあるが大きな理由はこの二つだ。
ともあれ、暗殺が不可能とわかった以上はこの能力にこだわる必要はない。わたしにも彼女にも時間は無限に存在する。新しい方法にだっていくらでも挑戦できるのだ。
さて……スペンザに残ったわたしは依頼札を眺めて戦闘系の依頼を探した。
ゴブリンや狼などを対峙する依頼はそれなりにある。
大山脈に近い土地は一部の酪農家を除けば利用する者は少ないため、自然がそのまま残っている部分が多く、それらの害するモノ……魔物たちの巣窟となる条件が揃っている。
そのため、自然と魔物退治の依頼は北側の地で多くなるが、もちろんそれだけではない。人があまり入らないのは自然地帯だけではない。
古代人のダンジョンしかり、そして現代の建造物しかり。
依頼は地下水路の調査だった。
地下水路といっても汚水処理をする下水道であれば受けなかった。そんな場所を使うのは暗殺に失敗して逃走するときだけだ。
潜入でそんな場所を使ったら臭いが付着して不自然だからな。
その地下水路は枯れた地下水脈を利用して、大山脈からの雪解け水をスペンザへと流し込むために造られた。
いわばスペンザの生命線の一つだ。
その地下水路の調査に向かった者たちが複数の魔物らしき痕跡を見つけて帰ってきた。
そのために討伐隊を募集しているというのである。
討伐隊といっても複数の冒険者に依頼するというだけであり、まだそれほどの重大事だとは思われていないようだ。
ちょうどよいと、わたしはその依頼を受けることにした。
なにより近場だし、暗いところは得意だし、一人で受けても嫌な顔をされない。
討伐系の依頼は一人だと受けづらいのだと知ったのはあいつと別れてからだった。
こんなことならあいつに付いていけばよかったと悔やんだがもはや遅い。
こうなったら情報だけ集めて勝手に狩るかと思っていたところでこの依頼を見つけたのだった。
受付はアルビノの女性だった。
名前はたしかテテフィ。
あいつの関係者だ。
「はい、確かに承りました」
テテフィは事務的に手続きを済ませたが、少しやりづらそうな感じがした。
あいつの仲間でありながらテテフィとはまともに会話もしていないからだ。芝居で仲良くするのは得意だが、いまはその気にはなれない。
だが、この微妙な空気感を味わっていたいわけでもない。
「心配するな」
「え?」
「あいつはとはなんでもないから」
「あ? え!? あ!?」
わたしがなにを言いたいのかわかったようで、テテフィは白い肌を真っ赤にした慌てた。
可愛らしい反応だ。
「わたしとあいつの関係は打算のみのものだ。肉体関係などもないから安心するといい」
「そ! そんなこと、気にしたことないですから!」
「そうか? それならいいんだが」
「と、討伐隊のことはあちらのサンデムさんが担当ですからそちらにどうぞ!」
「わかった」
テテフィの指示に頷いてそちらに移動していると、背後で「うおおお!」と歓声があがった。聞き耳を立てられていたのは気付いていたが、なにか楽しい情報でもあっただろうか?
首を傾げながらサンデムという人物に話を聞くと、すでに十分な数が集まっているので出発は明日の朝ということだった。
ただ、やはり一人で行動することは許されないので誰かのパーティと行動することとなった。
めんどうだなと思いつつも承諾すると再び背後で歓声が湧く。
「君が魅力的だからだよ」
一体なんなんだと首を傾げていると、サンデムが苦笑混じりに教えてくれた。
「仮面を被った変人が好きとか。物好きが多いな」
わたしがため息を吐くとサンデムも今度はなにも言わなかった。
ともあれ翌日。
早朝に冒険者ギルドに集合したのは総勢で二十名の冒険者たちだった。パーティとしては五つ。
四人、五人、七人、三人。
なんとも人数バランスがバラバラだが冒険者なんて気のあった者同士で組むものなのだからこんなものだろう。
中には十人以上の大人数でパーティを組み、そのときどきで適性のある者たちで仕事をこなすということをする者もいるという話だ。
今回はそういう冒険者たちはいなかったようだ。
そしてわたしが混ざらなければならないのは三人のパーティだ。
魔法使いのセリと戦士のキファの女性二人に、神官のオードバンという男性のパーティだ。
「よよよよ……よろしくお願いします」
オードバンという青年がリーダーなのか最初に挨拶してきた。ずいぶんと気が弱そうだ。神官衣に刺繍されているのは賢神のものだった。
「オードバンです。けけけ、賢神に仕えております神官です。ただいま見聞を広めるために冒険者稼業を始めまして……」
「ニドリナだ。斥候だが剣士の真似事もできる」
話が長そうだったのでむりやりに割り込んだ。
『斥候』の称号も持っているので嘘は吐いていない。
「……ねぇ、あなたってルナークの仲間なの?」
そう尋ねたのはセリだった。
「……そうだな。いまは別行動中だが」
「あなたたちっていつも別行動してるの?」
「いや、たまたまだ」
「まぁいいわ。彼にはお世話になったから、その仲間なら大歓迎よ。よろしくね」
とセリとキファは機嫌良くわたしを受け入れた。
この二人は、この前の商会との揉め事でルナークと知り合いになった冒険者だそうだ。
あんなことがあった後なのに、すでに冒険者として活動しているというのは警戒心が足りないのではないかと思ったが……まぁ、わたしの知ったことではないか。
サンデムが下水道の地図を手に今回の討伐での行動予定を告げ、地下水路へと案内する。
地下水路はスペンザの北にある貯水池にある汲み上げ施設から入る。
地下水路から流れこんで溜まった水を地上の貯水池に汲み上げるという仕組みのようだ。
サンデムが関係者用のドアを開けて、冒険者たちを中へと促す。彼はここで冒険者たちの帰りを待つことになっている。
階段を下りた先の地下貯水池でわたしたちは二手に分かれることになった。
水路の側道が左右にあるためだ。
きれいに十人ごとにわけられないのはしかたがない。四人と五人、四人と七人で別れ、それぞれに流れの反対側の道を歩くこととなった。
慎重を期するなら全員で回るのが得策なのだが、それでは時間がかかるし、それを全員が嫌がった結果、二手に分かれることになった。
これはサンデムが立てた行動予定にはない。彼は全員で丹念に調べることを望んでいた。
油断からの愚かな行動だとはわかっているが、わたしとしては安全であることは望まない。
不利である方が修行は捗るというものだ。
はたしてなにが出てくるのか。わたしはそれを楽しみに地下を進んだ。
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