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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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115 竜の国へ 14


 リュウサクは称賛してくれたが、おれだってなにもレクティラとの数度の経験だけで仙気の吸収をしているわけではない。


 神祖を代表とする吸血鬼。淫邪業帝などの淫魔、夜魔たち。生物の精を啜る魔物たちの能力を紋章という形で取り込み、それを操った経験があるからこそ仙気のことにも応用を利かせることができた。


 それに、リュウサク自身も難易度を下げてくれている。

 わざとなのか、それとも儀式としての手順通りなのか知らないが、ここにいる連中は未熟な連中ばかりだ。

 仙気の制御も未熟なのでその動きも読みやすい。しかも全員が教えられたことを忠実に守ろうとしてくれているので、独自性に気を使う必要もない。


 まるで、大量の教科書がそこに広げられているような状態なのだ。


 これでは仙術を学ぶなという方が無理な相談だ。

 そんなこんなで、一日目は仙術の基礎を学んで終了した。


 二日目、昨日よりも実力者たちが揃っていた。

 練った仙気を身体能力の底上げにだけ使ってはいない。魔法のように様々な用途へと変幻させる。

 破壊の力として放出するものもいれば、実体のある幻として生み出す者もいた。空を走る者がいれば、地に潜る者がいた。実体のある幻なんて、ゴブリンの魔太子クウザンが見たら悶絶したのではなかろうか?

 とはいえ個人での総合的な実力ではどれも勇者や魔太子の方が上だ。身体能力的にはハラストにも劣っているが、仙術を使いこなしているので実際に戦えば彼にはきつい戦いとなることだろう。


 そのハラストだがおれが戦っている最中、リュウサクに指示して仙術を教えてもらっている。レクティラ=レイファの息子であることをばらすとリュウサクは喜んで彼に仙術を教えることを承諾した。

 半竜半人がどこまで昇ることが出来るのか?

 リュウサクにとってそれは半ば以上実験的な意味合いが込められているようだったが、ハラストは気にしないらしい。


 強くなることを望んでいるのか。

 それとも母親からの脱却か。


 まぁ、あちらはあちらだ。


 複雑な生い立ちが複雑な事情を呼んでいる。同情する余地はあるのだろうが、お互いにそれをし合う間柄でもない。

 見守るしかないだろう。


 こちらとしても緊張感があって大満足のまま二日目が終了した。

 ちなみに、おれは称号による消しようのない補正を除いて魔法や特殊技などは使用していない。

 おれにとってこれは玉霊華である通過儀礼なのではなく、仙術を得るための訓練の一つとして捉えたからだ。

 相手から奪った仙気で相手の使った技を模倣しつつ、自ら仙気を練る術も模索していく。

 仙気の練り方がようやくものになってきた二日目だった。


 そして三日目。

 ついにリザードマンと竜人たちが闘技場から姿を消した。

 並んだのは竜頭人身ではあるが、全員が地竜だ。

 二日目までとはまるで違う仙気の威圧におれも思わず凶暴な笑みが浮かんでしまう。未熟ながらも自ら仙気を練り、昨日までの戦いで奪い取り溜め込んでいたものまで惜しみなく解き放つ。

 地竜たちの戦いはリザードマン・竜人たちの延長のように武人気質な戦いを好む者が多い。おれとしてもそっちの方が好みなので喜ばしいことだ。

 とはいえやってみて改めて実感したが、門番をしていたチョウタンはまったく本気ではなかったのだ。少なくとも仙術を使うのは控えていた。


 地竜たちの使う仙術はやはり武術の延長を好む。武器や吐息に炎や雷を宿すだけでなく、自身をそれら自然現象の中に溶け込ませ、こちらの攻撃をすり抜けたりもする。

 そしてこれは面白いのだが……いや、冷静に考えれば当然でもあるのだが、集団戦術がとてもうまい。

 もちろん、ただの連携ではない。

 仙術を重ね合わせ、一つの大きな技とするのだ。

 その破壊力たるや、石のような鉄のような特殊な材質で作られた闘技場の床を震わせ、破壊するほどだ。飛び交う破片がそのまま武器となり、予測不能の攻撃となって襲いかかってくる。

 さらには分身もうまく使い、十人との戦いが百人になり、百人との戦いが千人となった。それに対抗するにはこちらも分身するしかない。さらには飛び交う破片への対策として仙気を練り上げて作った翔竜の頭に乗って空に上がり、その竜体で薙ぎ払った。

 闘技場を半壊させるような激戦を潜り抜けて、勝利。

 それでも観客席にはヒビ一つなく、また戦いが終わればリュウサクがいとも簡単に修理していたのにはさすがに目を見張った。


 四日目。

 リュウサクから今日が最後だと言われた。

 この流れだと相手は翔竜なのだが。

 まさか翼竜たちも同時に相手するのかと尋ねたら、それはないと言われた。


「翼竜たちはこの儀に参加しない」

「どうして?」

「最初に言っただろ? 万夫不当の儀は本来、旅に出た竜の実力を確かめるためだと」

「ああ」

「旅に出ることが許されるのは翔竜までなんだ。翼竜はいままでの修行の成果で自らを深化させていくだけだから、旅は必要ないし、他者を試す必要もない」

「そんなものなのか」


 素直に納得し四度目の闘技場入りをする。

 待ち構えていたのは翔竜三百、地竜二百だ。


 ふと思ったのだが、竜の国の階級分布がきれいな三角形を描いているように見えるのはなぜだろうか?

 みながみな最終的に翼竜になるのであれば、リザードマンの数だけ翼竜がいるはずだが、ざっと眺めただけでも翼竜の数はそれほど多くない。総竜口がわからないのでなんともいえないが、翔竜と比べて百対一、地竜と比べて千対一とかそれぐらいに差がある感じだ。

 昇華するのが難しいということだけの問題なのか?

 突き詰めるとなにか怖い事実がありそうな気がしたが、それはそれで竜という種の運命なのかもしれないし、やはり人間のおれが口を出すべきことでもない。


 とにかくいまは、この四日目を切り抜けることだけを考えよう。

 ハラストも戦闘で散った仙気を浴びることでかなり練り込むことが出来たと嬉しそうだった。

 ということは、観客席にいる竜たちはもっとうまく仙気を取り込んでいるということか?

 この儀は、おれだけのためではなく他の竜たちのためでもあるのかもしれない。


 まぁ、持ちつ持たれつということか。


 リュウサクの合図とともに四日目が開始される。

 翔竜たちも人化しているのだが、こちらは完全な人となっていた。

 戦いはチョウタンとの一騎打ちで始まった。


「門前での戦いがおれの全てだと思うな」

「思ってないよ」


 お互いに棒を握って始まった戦いは、最初から闘技場の床を砕き、仙気が衝撃波となって空気を破裂させた。

 仙気を込めた棒は鉄よりも固く鞭のようにしなやかに踊り狂い、飛び散った火花は空気を燃やし炎の帯が繰り出される技の軌跡を描く。


 勝負はおれの勝ちで終わったが、最後の一撃で棒が砕けてしまった。

 武器を壊さないようにというおれの縛りを見事に破ったわけで、おれは竜たちの流儀に従った礼で彼の健闘をたたえた。

 チョウタンもそれに応えてくれたのだろう。同じ礼を返した。

 竜の表情は相変わらずよくわからないが、それでも最後に浮かべたそれは笑みだったような気がする。

 その後はずっと多対一の戦いが続いたので、チョウタンとの戦いは彼が望んだのか、あるいはリュウサクの計らいだったのだろう。


 集団での戦いでは、地竜が前衛、翔竜が後衛とはっきりわかれた。かといって翔竜たちが武芸に秀でていないはずがない。迂闊に近づけば、彼らは地竜以上に軽やかに体を動かし、激烈な一撃を放ってくる。

 しかしそれ以上に翔竜が恐ろしいのは、場を整えてくることだ。

 周囲の地形を変え、不可思議な石塔を建て、世界を改変する。いきなり足が重くなったかと思えば、津波の如き水流が押し寄せ、あるいは石の礫が降り注ぐ。炎が地面より吹き上がり、風が肉を切り裂かんと襲いかかる。

 まるでダンジョンに存在する属性階層や罠のようだ。

 それらの地形はおれの命を奪おうとするとともに、地竜や翔竜たちに力を与える。己が得意とする属性の気を食らい込み、力に変えて解き放ってくる。

 火事場で炎精王が暴れているようなものだ。

 仙術と体術だけで対応しているいまの状況ではとてもやっかいだ。

 それでもやがて、対処法を考えつく。地形から発生する仙気を吸い取り、それを仙気で練った竜――外形は自由に返られるので練獣と命名する――に込めれば練獣はその属性に変化し、おれを守る。

 三日目の地竜たちがしていたように自身を属性に変化させるという手もあったが、それは罠だった。

 おれ自身が変化した途端に、相克属性を叩き込んできたのだ。

 身を削られる痛みどころか、命すらも消される緊張感を久しぶりに味合わされた。


 おれは辛抱強く千変万化する周囲に合わせて練獣を対応させ、一人一人倒していくことを繰り返し、長い時間をかけた結果、勝利を収めることができた。


 最後の一人を倒した瞬間に訪れた静寂は体中に染み渡るようだった。

 闘技場に散った戦いの仙気が静かにおれに流れ込んでくる。多くの竜たちの仙気におれのそれが混ざり合い、それに観客たちのものまで入り込んでいく。


 仙気は混沌の渦となって闘技場の上空でうねり、一つの巨大な力となって全員へと帰っていくのだ。

 より強く、より強大となって。


 万夫不当の儀。

 それは成し遂げた一人に莫大な報酬を与えるだけのものではない。

 全ての竜たちが旅から帰還した者の成果を受け取りつつ、自分たちの成果も分け与える。

 互助的な儀式なのだ。


 竜たちは拍手をしない。

 ただ、拳を合わせる礼をし、静かな称賛を送る。

 おれもまた同じ礼で応える。

 それは空中で渦を巻く仙気が全て消えるまで続いた。


 仙気とともに染みこんだ静寂がやがて充足感へと変わっていく中、それはおれの前に舞い降りた。


「まずは見事、と言っておこうか」

「タイコウ殿、なんのつもりか!?」

「まだ、儂は納得しておらん」


 リュウサクの問いにその竜は飄々と答えた。


 そう。

 おれの前に立った巨大な猿……ならぬ猿のような竜は猴翼竜タイコウ。

 玉霊華の桃園を管理する者だ。

 薄い金色の体毛は一本一本が細く柔らかく、触ればとても心地よさそうだ。

 これでちびっこくてかわいければ抱きしめたりしたくなったかもしれない。

 だが残念ながら、タイコウの顔はどことなくおっさん臭く、その声もしわがれていて可愛げがない。

 残念だ。

 非常に、残念だ。


「奴の望みを叶え、そしてまんまと掌で踊らされただけでは面白くない。この者の強かさ、儂が自ら確かめてやろうさ」


 タイコウはそう言って笑うのだった。


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