113 竜の国へ 12
玉霊華というのは桃という果物の一つなのだそうだ。
地上にもあるという話だが竜の国にある桃は仙桃と呼ばれる特別な桃だという。
竜たちの修行にとても重要な意味を持つ果物であり、そのために様々な研究が行われている。
玉霊華はその一つだという。
「すごいのか?」
「まぁ、数ある仙桃の中で彼女が欲しがるといえば、たしかにこれだろうね」
「うん?」
「強精効果が高い」
「……なるほどね」
とてもレイファらしい
うん?
とすると、おれが最初に玉霊華の名を出してチョウタンが笑ったのは……エロ話だとでも思ったのか?
いやまぁ、エロ話になるんだろうけどさ。竜の国へ来てまでそんなことになるとはさすがに思わなかったな。
「まぁ、効能はともかく、おれは玉霊華が必要なんだが?」
もらえるのか、もらえないのか。
問題はそれだけだ。
その玉霊華を育てている管理者がレイファを嫌っているとして、それでもらえないとは限らないわけで。
「さて、どうしたものか……」
と、この件に関してはリュウサクはひどく人間くさい表情をする。
困り果てている……というのが正しいのだろう。チョウタンを相手に涼やかに命令を下した美少年とは思えない態度だ。
「玉霊華の管理をなさっておられるのは翼竜なのだ」
助け船のつもりかチョウタンがそう説明した。
「つまりリュウサクと同格ってことか?」
「そうだ。猴翼竜タイコウ様だ」
階級制がしっかりとしている竜の国では上から下への命令は簡単だが、同格に対しては命令はできず、要請とかお願いとかになってしまい、強制力を持たせることはできない。
「修行に必要という名目があればまだ強制力が持たせられるのだけれどね」
「うん? どういうことだ?」
「竜の国での至上命題は天へと至ること。そのために必要とされるのであれば、下の者が上の者へと要請することだって不可能ではないんだよ」
「それなら誰かがおれとの修行を希望して、おれがその報酬に玉霊華を希望する。っていうのはどうだ?」
「ほう……それはいいね。武によって高みを目指す者は多い。さきほどの君の気を感じてそれを望む者は多いだろう」
「じゃあ、それで頼む」
「わかった。それで声をかけてみよう。というわけで、とりあえず君たちはここに泊まってくれたまえ。接待はこのままチョウタンに任せる」
「はっ!」
リュウサクの言葉に拳を合わせて頭を下げるという独特の礼でチョウタンが応える。
個室に通されたおれはとりあえずベッドに体を投げ出してみた。うん、とりあえず人間むきに作られているようだ。
しばしゴロゴロとして体から緊張を抜く。
それからこれからを考えてみる。
玉霊華を手に入れる算段は付いただろうが、問題はその後にレクティラ……レイファが交渉に乗る気があるかどうかだ。
レイファがどうなろうと竜の国がそれで遺恨を抱くことはないという言質は手に入れたが、さて、竜の国の竜はおれの知っているそれと同じような強さなのかどうか……。
レイファがずる賢いと鉄拳交渉を逃れようとするかもしれないしなにか考えないといけないのだろうが、さて……。
「うーん、おれって結局、最後は力押ししかないからなぁ」
知識はあのダンジョンにあった本を読むことで溜め込むことはできたが、それを活用するとなると話は違ってくる。
「うまくいく方法とかないものか……」
などと考えていると、部屋に近づく気配があった。
ハラストだ。
「ルナークさん、お邪魔していいですか?」
「どうぞ」
少し緊張した様子のハラストをおれは部屋に入れた。
「それで?」
「お話ししたいことがありまして……」
「それって建設的な話か?」
「であれば、いいんですけどね」
チョウタンとの戦いから生彩を失っているハラストだが、なんとか爽やかさの片鱗を見せた笑みを浮かべた。
「正直に言います。レクティラは僕の母です」
「は?」
「母です」
「うん? ちょっとなにを言っているかわからない」
なんでそうなる?
おれとしては彼女の色香に騙された純朴な騎士だと思っていた。房中術の相手をさせられているから仙気も使えるぐらいに思っていたんだが。
「え? マジで?」
「マジです」
前もこんなやりとりをしたような気がするが、そのときよりもまじめな顔でハラストは頷いた。
「人と竜の間の子ですし、卵から生まれましたし、父親は現タラリリカ国王ルアンドルです」
「マジか!?」
「マジです!!」
自棄気味に叫んだハラストをおれはマジマジと見る。
うーん、ルアンドルやその娘に似ている部分ははたしてあるだろうか?
ただ、そういえばレクティラ……レイファ……ややこしいな、彼女に似ている部分はたしかにある。髪の色などほとんど一緒だ。
どうして気付かなかったんだろう?
いや、その前に出来てると思ってしまったからな。そのせいだろう。
「……ということは、あれか? 国王を継承したときの夜にできたってことか?」
「……はい」
「……ん? ということは、お前が名乗り出たら王位継承権が発生するってことか?」
そんなことになったら「女王の愛人」というおれの野望が……。
いや、おれ自身どこまで本気なのかよくわかってないんだけどな。ただルニルにやる気を出させるために言ってみたら、意外にそれって美味しいかもとと自分でも気が付いてしまって……。
ルニルがやっぱり女王になりたくないというなら、それならそれでもいいかと思っている。
……となると、そんな半端な気分でわざわざ竜の国まで来てるおれってなんなんだろうな?
…………バカ?
「それはどうでしょう? 貴族の世界は難しいですから。それに僕は名乗り出る気はありません」
そんなおれの葛藤も知らず、ハラストは面白くもないことを言っている。
「僕は静かに妹を見守っていければいいんです」
「ああそうかい」
「いや……ちょっと冷たくないですか? 妹に好意を持っているのでしょう?」
「うん? お前の母親と遊んじゃってるような男を、お前は誠実だとでもいうのか?」
「それは……」
悪いがおれ自身、自分の中に誠実という言葉が存在しているなんて、これっぽっちも思っちゃいないぞ。
「いや、わかっているんです。多数の異性と関係を持つような男を女性が喜ぶはずがないのは。ですが王族であるなら側室を持つのもまた当たり前のことですし、国によっては多数の女性を妻に迎えられるのはその者の富と器の証明でもありますし……」
「どっちかといえば女王になるルニルの器の方が大事だけどな。うん? そうなってくるとおれの方が妻の貞淑的なものを求められるのか?」
「言わないでください! 混乱しますから」
ハラストが必死な形相で怒鳴る。
どうも自己正当化に忙しいらしい。
「いや、悪いがおれだっていま、ここに来た理由にもう少し重めなのが欲しいかなとか思ってるところだからな?」
「なんでですか!?」
「いや、おれとしては強くなるという目的があるから、ここで仙術使いの竜と戦えるというのは決して無駄なことではないし、お前のお母さんから房中術を学ぶというのも魅力的なんだよな? それでいいんだよな?」
ここまで来たら別にルニルが女王にならなくてもいいよな?
「なんだろうな? ……ああそうだ貴族になれとか言われて、冗談じゃないって話になって女王の愛人ならやるって反論してそれで建国話になったのか。うん? おれってもしかしていま、ただ働きさせられてないか? やべぇ、冒険者にあるまじきことだ」
「知りませんよ!」
ハラストがどんどん壊れていく。最初の爽やかさは一体どこへ行ったのだろうか。
「それで、どうしてハラストはおれに付いてきたんだ? 母親になにを含まれた?」
「僕に命令したのは母ではありません。騎士団長です。あの方は王弟派ですので……あ」
「暗殺しろって?」
「…………」
ハラストは黙り込んでしまった。
うん。爽やか君から残念君に降格だな。
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